本文の先頭へ
LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋『ローサは密告された』
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0727eiga
Status: published
View


<木下昌明の映画の部屋> ブリランテ・メンドーサ監督『ローサは密告された』

フィリピンの救いのない腐敗の「根源」

 何年か前、レンタルビデオ店で借りたフィリピン映画に衝撃を受けたことがある。

 それは警察の幹部が中心になって娼婦とおぼしき女性を市外の工場に連行して平然と殺し、バラバラにして路上に捨てていく、というもの。警察の給料だけでは食べていけないので、サイドビジネスなのだと。開いた口が塞がらなかった。タイトルは『キナタイ マニラ・アンダーグランド』。「キナタイ」とは「屠殺」の意。それが、こんど公開される『ローサは密告された』と同じブリランテ・メンドーサ監督作品と知ってさらに驚いた。この映画も、警察の腐敗ぶりを徹底して描いているからだ。

 ヒロインのローサを演じるのはジャクリン・ホセ。彼女はこの役で、昨年のカンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得している。

 ローサはスラム街で夫婦で小さな雑貨店を営み、4人の子どもを育てている。それがある夜、麻薬も売っていることが密告され、警察に逮捕される。警察はローサ夫婦に「20万ペソ払えば見逃す」と取引をもちかける。が、そんな大金があるわけもなく、追及されるままに密売人の名を明かして釈放を求める。密売人はすぐ捕まったものの、5万ペソ足りないから工面しろ、と言われて一家で奔走するはめに。

 興味深いのは、その彼らを手持ちカメラで追いかけていることだ。カメラもいっしょにスラムの路地から路地を伝っていく様子に臨場感がみなぎり、誰かが誰かのために密告する貧しくやりきれない社会が浮かび上がってくる。ほぼ24時間のドラマで、音楽はなし。

 また警察には、一般業務の部署と、捕えた市民を脅して金品を巻き上げる裏の部署があって、署長が統括している。

 この映画は、麻薬撲滅を掲げたドゥテルテが大統領になる前に作ったものだが、実は、社会の腐敗・堕落の根源は取り締まる側にある――そういう救いのない仕組みを暴露しているのではないか。

 ラスト、ローサの目ににじむ涙に、胸が震えてくる。

(『サンデー毎日』2017年8月6日号)

※7月29日、東京・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。


Created by staff01. Last modified on 2017-07-28 13:14:17 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について