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LNJ Logo 週刊 本の発見 : 『N女の研究』〜真の「女性活躍」を生きている人たち
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 第1〜第4木曜掲載・第9回(2017/6/8)

真の「女性活躍」を生きている人たち

●『N女の研究』(中村安希、フィルムアート社、1700円)

 NGOやNPOで何らかの活動をしていると、その仲間内で必ず話題になることがある。いわく「人がいない。」「お金がない。」だ。理由はわかっている。活動体の専従となっても十分な生活費が得られないからだ。よって、「人材」が不足する、なり手がいない、活動が先細る。多くの人に利する目的を達成するために社会的使命をおびて活動する団体の財政基盤が日本では極めて脆弱なのだ。

 しかし、ある一定のNGO・NPOはきちんとした活動を継続しており、その中で働く人たちの素晴らしさに目を見張る思いをすることがある。一体、彼ら、彼女らは何者なのか。高い志と豊かな見識、確かなスキルはいったいどこで獲得・習得したのか。賃金はいかほどか。まさか霞を食べて暮らしているわけでもなかろうに。身近にいながら「低賃金の団体の待遇でどうやって食べているのか」とはなかなか聞き出せない。そのような私の「ミステリー」に応えたのが本書だ。

 非営利セクターへの転職等をサポートするNPO法人の存在を初めて知り、評者は自身の世間知らずを痛感した。そこの職員が非営利セクターから営利の社会的企業を含めたセクターで働く女性を「N女」と命名しているのだ。

 では、なぜ「N女」と女性に限定しているのか。謎は取材が描く人物像で解明される。企業での働き方に疑問を持ち、本当の生きがいや働きがいを求めるのが女性なのだ。やはり女性は家計の担い手としての仕事からの拘束性が男性と比較して緩やかなのかもしれない。仕事を良い意味で相対化している。だからといって仕事に対していい加減でも甘えているわけでもない。多くの「N女」が留学経験もある高学歴、大企業に正社員として働き、上司からの評価も高い。いわゆるバリキャリの典型が多い。その中で自分の人生で最もやりたいことを選択するためにその「高収入・高待遇」のステイタスを手放す。

 彼女たちが取り組む活動の種類は、難民支援、ホームレス支援、教育支援、病児保育事業等々。実務能力はもとより、マニュアルでは対処しきれない、きめ細やかなコミュニケーション能力や、種々のコンフリクトを克服しながらの業務遂行力を要する事業創出型、問題解決型のイシューばかりだ。

 彼女らの生き方、働き方は、旧来より存続している多くの日本企業がとっている新卒一括採用のネガでもある。留学や出産・育児等でいくらでも回り道はある。その回り道こそが人間に深みや多彩さをもたらすとは多くの一般企業はとらえない。だが、そういった多様な人材をNPOは必要とし、評価、重用するのだ。

 著者はN女たちが全くきれいごとを言わないことに感じ入っている。現実とは実にしばしば私たちの前に受け入れがたいものとして現れる。その現実と向き合い、解決を必要とする課題に取り組んでいるからだと解明している。

 唐突だが、N女は政権の喧伝する文脈とは違うところで真の「女性活躍」を生きていると思った。その女性活躍のレールは決して政府や企業が敷いたものではない。彼女たち自身が敷いたものだ。インタビューして2年後、N女の半数は元の団体を離れているという現実が厳しさを物語る。だが、彼女らの生き方のひとつひとつが必ずや布石になるだろう。「多様な生き方」がキャリアパスにつながる、そんな希望を見出せた。〔渡辺照子〕

*この書評の連載は毎週木曜日(第1〜第4)に掲載します。筆者は、志真秀弘・大西赤人・渡辺照子・菊池恵介・佐々木有美の各氏です。(編集部)


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