連載「本の発見」 : ミステリー短編小説の面白さ〜『バラの中の死』『血縁』 | |
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ミステリー短編小説の面白さ〜『バラの中の死』『血縁』●『バラの中の死』(日下圭介、光文社、780円)●『血縁』(長岡弘樹、集英社、1500円)
『バラの中の死』は、一九七五年に『蝶たちは今…』で江戸川乱歩賞を受けた日下圭介(一九四〇−二〇〇六)による八短編を収めた再編集文庫版。末尾に並ぶ『木に登る犬』と『鶯を呼ぶ少年』は、一九八二年度の日本推理作家協会賞短編部門を受賞している。不勉強ながら筆者は日下の作品を初めてまとめて読んだのだが、受賞にふさわしい出来栄えだった。木に登る犬を見たと言い張る少年の話から事件の真相が現われる『木に……』、ウグイスの鳴き声を真似る少年の行動から犯罪が誘発される『鶯を……』、決して派手な謎ではないけれど、解決に到り、人の心の切なさが浮かび上がってくる。当該二作はもちろんとして、その他の作品についても、日常における小さな違和感を静かに追及する筆致が、読者の興味を惹きつける。
冒頭の三編『文字盤』『苦いカクテル』『オンブタイ』は、いずれも、事故や病気によって五感の一部を喪失した人物が登場しその事実がストーリーの主要な要素となる。ここには、長岡の「僕は言葉を使わないコミュニケーションを描くのが好きなんですよ」という言葉が体現されているが、身体的不自由をアイデア=道具立てとして利用することには、間違えば危険も伴なう。しかし、これらの作品にそのような不快につながる印象はなかった。描写の中で読者に『おや?』と感じさせる所をあえてそのまま放置し、しばらくしてから種明かし的に説明して行くという手法がうまく働いていたように思う。 介護を背景とした表題作の『血縁』は、最近の言い方を使えば、いわゆる“ダーク”な物語で、爽快ではない。最後に置かれた『黄色い風船』のほうが、作者も「一番気に入っている作品かもしれません」と語っている通り、読後感も心地よい。毎日の犬の散歩で出会う男になぜか犬が興奮するという日常のひとコマから、自分の担当する死刑囚の事件の真相を見出す刑務官――日下にもつながるような作風であると思う。〔大西赤人〕 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー <6月から書評「本の発見」を週刊化〜執筆スタッフも増強>これまで、大西赤人(1日)・志真秀弘(15日)で、ウェブサイトに掲載してきた<本の発見>を、6月から週刊にします。執筆陣に、渡辺照子(派遣労働者)、菊池恵介(大学教員)、佐々木有美(ビデオプレス)の3人が加わります。担当は以下の通りです。第1木曜=大西赤人・第2木曜=渡辺照子・第3木曜=志真秀弘・第4木曜=菊池恵介/佐々木有美(隔月)・第5木曜は休み。<週刊 本の発見>は、これまでの<本の発見>を引き継いで、話題の本から今読まれるべき古典まで、また、国内外を問わず、文学・政治・経済・児童書・画集・自然科学に至るまで、ジャンルを問わず取り上げていきます。目指すのは、ウェブサイトでもっとも注目されるブックレビューのコーナーです。いや、この際、活字メディアも含めてもっとも読まれる書評を目標にします。選択の基準は、レイバーネットでつながっている国内外の多くの人たちの役に立つことです。 今の変化の激しい時代を考え、その激動の中で、未来を切り開く一人一人の豊かな考えを創造するために、みなさんでこのコーナーを育ててください。取り上げてほしい本をお寄せください。おおいに歓迎します。近く、お互いに顔をあわせて討論できるブッククラブを発足させる予定です。(志真秀弘) Created by staff01. Last modified on 2017-06-03 01:05:41 Copyright: Default |