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 第3回(2017/3/15)

警世の書にして反逆の書です

●『俳句世がたり』(小沢信男、岩波新書、820円)

 本書は、月刊誌『みすず』表紙裏一頁に、2010年4月から毎月連載の文章をまとめたもの。『俳句』といっても俳句だけではない。川柳、雑俳、いろはかるたから、時には詩まで。各月とも冒頭に一句、文末に一句、そしてそれに纏わる話が、時間・空間を孫悟空のごとく縦横無尽に駆け巡り、風刺とユーモアに溢れています。連載を始めた翌年東日本大震災=福島第一原発が崩壊。小沢信男さんの『世がたり』は、いっそう為政者どもに鋭く迫り、非命に倒れた人々への愛情に満ちます。一読、俳句、川柳、雑俳などの「民衆芸術の魅力」にあらためて惹かれます。(写真右=小沢信男さん)

 そこでまず紹介します。「神田川祭りの中を流れけり  久保田万太郎」と句が置かれ、「五月、祭りだ」と始まります。神田祭、祇園祭と祭りの話になり、自然に神田明神にくる。逆臣だからと外されていた平将門が地元の人々の尽力で返り咲いたいきさつも面白い。将門塚へと話は進み、逆臣とされながら千年をまたいで生きる将門伝承の魅力、そこに流れる庶民の敬愛を語り、「してみれば」と突然ゲバラに転じて「キューバ革命に成功しながらボリビアの山中に戦い斃れたチェ・ゲバラ。そこらにも呼応しそうで、ゲバラ享年三十九、将門推定三十八。どこかにゲバラ明神があって、その氏子たちもいるような…」、そして「草笛を吹いて神田の生まれかな 久保田万太郎」の句があって一篇の読み切り。句を除くとほぼ1200字。コラムほど短いのにドラマのような中身、それが七十三篇。東京下町の江戸弁が生きて、名人の噺を聞くようです。

 本書の底流を流れるのは数知れぬ死者への追悼の念です。九月一日関東大震災=朝鮮人虐殺。三月十日東京大空襲、沖縄、広島、長崎、そして八月十五日敗戦と。小沢さんの句を思い出します。

 銀杏散る散りし昭和の命ほど

 そして平成に入り、三月十一日がきたのです。ところが「ご心配なくアンダーコントロールですぞと世界に見栄を張る、とんでもない奴が首相でいらっしゃる」。

 登場する俳人は、高浜虚子、久保田万太郎、加藤楸邨、鈴木真砂女と始まり、芭蕉、一茶、蕪村、子規などももちろん現れますが、それと並んで変哲こと小沢昭一、風天こと渥美清の句も。そしてあの富田木歩。「木歩は隅田川べりの向島小梅町に生まれ、幼にして足萎え、小学校にも通えず、いろはかるたなどで文字をおぼえた」。川柳はもちろん鶴彬、さらにホームレス川柳の作家大濠藤太、沢野健草も。

 小沢さんは〈新日本文学会〉に入会以後文筆活動を展開しつつ、文学運動の道を歩みます。その事情は小沢さんの『捨身なひと』(晶文社)、『通り過ぎた人々』(みすず書房)を。文学運動の要諦は本書にもありますが「革新があっての文学」という考えでしょう。早い話、「俳句、川柳、雑俳」と一括りにするのも「革新」でしょう。

 今年に入り『私のつづりかた−−銀座育ちのいま・むかし』(筑摩書房)、『ぼくの東京全集』(ちくま文庫)と立て続けに小沢さんの本が刊行されました。合わせて三冊をどうぞ。【志真秀弘】

*この連載「本の発見」は、15日=志真秀弘、1日=大西赤人でお送りします。なお、4月26日のレイバーネットTVで放送予定の「本の発見」のアンケートを実施中です。こちら。ぜひご協力をお願いします。


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