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頭を奪われた民族〜『植民地主義 再考―民族差別なくすため』が問うもの

    佐々木有美

 日本の植民地主義が何をしてきたのか、今あらためてわたしたちは知らなければならない。小林たかしの新著『植民地主義再考−民族差別なくすため』を読んで思った。

 この本には、戦前の日本で幼少期を過ごした韓国人女性の回想が出てくる。「“鮮人”。日本人は私たち朝鮮人をこう呼んだ。それは、頭のない民族だから、上の“朝”の字は取ってしまったというのである。おお! 頭のない民族。日本人は、自分たちの手で朝鮮人の頭をふみにじり、揚げ句のはてに頭をとってしまった。この哀れな民族は、訴える所もなく、ただ悲しみに耐えて、奪われた頭のかわりに日本人の頭を被って生きていかねばならなかった。(車潤順『不死鳥のうた』)」。植民地支配とは何か、彼女のことばが端的に語っている。その怒りと痛切さが、胸を突く。

 2006年ごろから、ヘイトスピーチ・デモと呼ばれる現象が起こった。街中で堂々と在日韓国・朝鮮人を侮辱し、脅迫しているのを見たときの驚きは忘れられない。「良い朝鮮人も、悪い朝鮮人もどちらも殺せ」。それまでももちろん、在日差別はあったのだが、これほどのあからさまな表現は想像を絶した。“鮮人”と呼んだ昔も今も、日本人は朝鮮人をずっと差別し続けている。

 なぜ差別は続くのか。著者は、明治以後の近代日本の歴史をたどる中からその原因を探る。日清・日露戦争から始まる侵略と植民地獲得の歴史、その破綻としての敗戦。しかし日本人は戦争責任も植民地支配の責任も置き去りにしたまま、何の反省もなく戦後を過ごしてきた。朝鮮戦争やベトナム戦争の特需で儲け、経済成長して、括弧つきの平和を享受した。なんとムシの良い国民だろう。でもそのつけは、確実に日本にまわってきた。

 第二次大戦で、日本が誰と戦ったのか、どこを植民地にしていたのかもあいまいな若い人たちが大勢いる。それは若い人だけではないかもしれない。「気に入らないなら自分の国に帰ればいい」という安易なことばが出てくる背景には、やはり歴史を知らないということがある。朝鮮学校への無償化はずしや、日本軍慰安婦問題が少女像撤去とバーターで解決されるような理不尽が堂々とまかり通る原因も同じだ。さらに深刻なのは、「嫌中・憎韓」などと呼ばれる風潮が、戦争を煽る大きな要因となることだ。

 小林は書く。「彼らの感性では、在日朝鮮人・韓国人への理不尽な仕打ちが、日本の民衆のノドもとにも突き付けられている刃であることに気づくことはない。支配者はそれを利用する。ファシズムは、他者や少数者への抑圧から始まる。だがそれはすべての民衆を支配するための序曲なのだ」。差別が公然と行われる社会がどんなものか、なにより戦前の日本やドイツが実証している。安倍政権の空気の中で行われた障害者殺人事件は、それを端的に示しているのではないだろうか。

 しかし、著者は、希望を失わない。「朝鮮にたいする差別も、近代日本の歴史から生じたものだから、真摯に歴史を学び、現実をかえようと努力すれば、時間がかかっても将来かならずなくなるのである」と。本書には、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺の歴史や、苦難の道を歩んだ朝鮮学校の歴史がていねいに紹介されている。また、日本とは対照的な韓国の戦後史にもふれ、分断国家がなぜ生まれたのかも詳説している。

 どれも、歴史の真実を理解するのに欠かせない。そして現状を変えるために、カウンターデモや在日韓国・朝鮮の人々との交流を続けることを小林は提案している。地道な日常の積み重ねこそ、未来を拓くことを教えられた。

 最後にひとつ付け加えたい。それは、植民地主義の清算は、決して日本だけの問題ではないことだ。フランスでは、旧植民地のアフリカ諸国からの移民で戦後の労働力不足を補った。しかし、彼らへの差別は温存され、その後の世代へと引き継がれた。イスラム教徒の少女たちのスカーフ着用をめぐる論争や、昨年から続くテロ事件など、フランス社会を揺るがす大きな矛盾は、植民地主義の清算がなされていなかったことの証左だとも思える。

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