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戦争の加害と被害を見つめる映画〜『いしぶみ』『クワイ河に虹をかけた男』

    笠原眞弓


 *写真(C)広島テレビ

 8月は、どうしても戦争加害と被害という視点で、自分の来し方を振り返る。この、2つの映画『いしぶみ』と『クワイ河に虹をかけた男』は、それぞれをテーマにした映画だ。

◇『いしぶみ』は、被害者としての反戦である

 その日、爆心地から500mの本川土手で広島二中の1年生男子321人が被爆した。その前後の様子を、遺族の手記で朗読していく映画だ。ただ淡々と朗読する綾瀬はるかの声は、透明で揺るぎがない。周りは暗く、少年たちの写真が浮かぶ。父親に探し出されて、「お父ちゃんが来てくれると思っていた」という少年。「水を与えると死ぬと言われているけれど、助からないと思ったから、飲みたいだけ飲ませた」と記す母。自分も怪我をしているのに、弟が帰っていないと知ると父親ととって返し、背負って帰ったと母は語る。戦時動員されたことを誰もが肯定的に受け止め、「これで、僕は兵隊さんのように役に立ってましたね」という言葉も読まれた。

 終わり近くになってスタジオから外に出て、亡くなった彼ら全員の名前の刻まれた碑の前に行く。広島だけが被害者ではない。全国の人々が空襲におびえて生きていた。死を免れた級友は、あるとき、死んだ級友の分もしっかり生きなければと気づき、生き方を変えたとはっきりとした口調で言う。

 その時の引率の先生の子どもも語る。姉を探しに行こうとする母を、自分と業火がはばみ、結果的に二人は生き残った。そのことを、いまだに苦にしている。生き残った人も辛いと。

 原爆被害者の記録。これは確かに、戦争の悲惨を訴えるものだ。時として、被害者としての反戦の根拠にもなりかねないテーマを、人類の愚行としての核兵器と戦争を拒否するまで高めていると思えたのは、綾瀬はるかの朗読の力か。

◇加害者としてどう生きるか

 一方『クワイ河に虹をかけた男』は、きわめて個人的である。うっかりすると個人でそこまでする?と思う。しかし、そう思っていいのだろうか。

 高度成長期の日本は、戦争で痛みつけた東南アジアの国々の遅れた経済発展を、上から目線で戦後賠償が終わってもODAという形で日本に利益をもたらすことに対して「援助」をしていた。国家を離れて個人ではどうか。さまざまな人はいるだろうが、私の周りには、日本人は勤勉で優秀だ、彼らは怠け者で……というパターンが多かった。戦中の捕虜・現地労働者への蔑みの目線と同じだったのではないかと思えた。経済成長にブレーキのかかった現在、それは完全になくなったのか。なくなったという自信は、私にはない。

 この映画の主人公、永瀬隆さんは自分の感性で、そこに鋭く切り込んでくる。彼の戦後は、自分のしたこと、日本軍のしたことが全く人道に外れたことであるという認識に立って、ひたすら「申し訳ない」からはじまっている。つまり、戦争の加害者としての責任を取る行為なのだ。

 徴兵検査に不合格で、お国の役に立ちたいと陸軍の通訳として入隊し、タイ側の泰緬鉄道建設現場に赴任する。(泰緬鉄道は、現地では「死の鉄道」といわれている。全長450キロ、5年かかると言われた工期を1年半、1942年6月に着工し1943年10月に完成した)

 そこで見たものは、非人道的な捕虜や現地労働者の扱いだった。連合軍、中国人捕虜や、近隣国の労働者などを集めての工事は、過酷なものだった。飢えやマラリアなどに苦しめられ、全体で10万人以上、連合軍捕虜だけで1万3000人の死者を出していることでもわかる。

 日本人の海外渡航が自由化されて永瀬さんが妻と二人でまずやったことは、「タイ巡礼の旅」と名付けた泰緬鉄道建設犠牲者の慰霊の旅だった。連合軍犠牲者の墓参からはじまり、目の前に課題があればすぐに対応していった。1964年、46歳から始めた旅は、2009年91歳までの45年間、135回を数えた。途中では、捕虜との和解の再会もあり、現地での拒絶の視線にもあいながら、ひたすら慰霊する。

 彼の旅のもう一つの柱は、タイ国へのお礼だった。敗戦後に本国送還に当たって、12万人の軍人にタイ政府が連合国軍に内緒で支給してくれた飯盒一杯の米と内蓋1杯のザラメ。貴重な食料を分けてくれた温情に報いたいと1965年から行っているのが、タイからの留学生の受け入れだった。その後、看護学生の奨学金制度を1994年から行っている。

 これらの永瀬さんの行動は、ある元連合軍捕虜の長年苦しめられていたトラウマの軽減や、元イギリス兵士の日本嫌いの改善のほか、現地の人々にも個人的ないいつながりを生み出している。「泰緬鉄道を世界記憶遺産に」と彼が呼びかけ地元の賛同も得て登録された。永瀬さんをこのような戦争の後始末ともいえる謝罪と感謝の旅に駆り立てるものは、なんなのだろうか。彼一人にそれを任せておいていいのだろうか。私たちは、ちゃんとそれを受け継いでいかなければならないのではないかと、落ち着かない。

 永瀬さんも認めているように、通訳は一切直接捕虜に触らない。この事実は、彼の行為に精神的に大きな影響を与えていると思う。同じ現場で日本軍兵士としていて、生き残った人に、私は「彼のようにせよ」とは決して言わない。なぜなら、彼らも傷ついているだろうと思うからである。だから一人ひとりができることをしていくしか、ないのである。

 ちなみにこれは、20年にわたりテレビ番組としてKSB瀬戸内海放送局が撮り続けたものをまとめて1つの作品にしたものだ。息の長い撮影による良さもある反面、切り捨てなければならない部分に微妙な息づかいがあったのでは、と思うところもあった。

◇被爆国として、いま行動しなければならないこと

 先の戦争を考えたとき、私たちは唯一の原爆被害国として、そして何より、戦地での加害の一つ一つを検証し、記録し、記憶にとどめ、次世代に伝えていかなければならないことは、誰しもが思うこと。今朝(8月19日)の新聞にも「核兵器の先制使用はしない」というオバマの提案に、唯一の被爆国である日本はじめ、多数の国が懸念を示している。このような政治情勢を考えたとき、特にこの2つの映画は、もう一度戦争とはなんなのかを考えさせてくれた映画だった。

・『いしぶみ』監督: 是枝裕和 http://ishibumi.jp/index.php 東京 ポレポレ東中野ほか、全国順次公開中。自主上映会募集中

・『クワイ河に虹をかけた男』監督:満田康弘 https://www.ksb.co.jp/kuwaigawa_movie/index.php 8/27より、東京 ポレポレ東中野にて公開後全国展開


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