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映画『シアター・プノンペン』〜暗黒の時代が過去ではない国で「破壊」から立ち直るには

笠原眞弓 「ポル・ポト」「クメール・ルージュ(カンボジア共産党)」という言葉は、私にとって 恐怖しかない。知識人の下放・虐殺が行われた1975年からの3年8ヵ月のポル ポト政権下、国民の4分の1の人々が命を失ったと聞く。昨夏、この時期の映画 2本(『消えた画 クメール・ルージュの真実』『アクト・オブ・キリング』)を観た。 それぞれ被害者の立場から、あるいは加害の立場から人間の暗部をえぐりだし、 もう一度「人間とは?」と問いかけ、精神の構築をし直していくものだった。 いつの時代も人間は同じ過ちを繰り返してきた。先の大戦時の日本軍の行為も 同じだ。『シアター・プノンペン』は、今に残されたクメール・ルージュの傷を扱い ながら、この2編とは、全く違った角度からのアプローチである。 活気あふれる街の軋轢 雑然として活力あふれる今のプノンペン。持て余したエネルギーを路上にぶつけ るオートバイに乗った若者たち。まるで日本の70年代のようだ。厳格な軍人家庭 に育つソボンは、父親の決めた結婚に反発しボーイフレンドと遊び歩く。それを戒 める弟に「女には選択肢がない」と突き立てる。 今は駐輪場になっている元映画館のスクリーンに偶然自分そっくりな少女が映し 出され、病気がちの母親だと気づく。その映画『長い家路』には、最終巻がないと いう元映画館の主ソカ。彼は主役の女性と生きて帰れたらここで会おうと約束を したので、待っているという。ソボンはその結末を撮って、映画を完成させようと 提案。費用を捻出したソカを監督に撮影がはじまる。 順調に進む撮影だったが、悪夢にうなされたソカは、行方をくらましてしまう。 それでも撮影を終えて帰った元映画館には、新ビル建設の看板が掛けられ ている。母の入院を知ったソボンは病院へ駆けつける。そして……。 個人の再生が家庭、国家の再生につながる カンボジアには「つらい過去は埋めてしまいましょう」という格言があるという。人は 多かれ少なかれ、そういう思いがあるだろう。日本でも、日中戦争で自分は何を見、 何をしたか言いたくないとはよく聞く。広島の体験も、最近では福島のことさえも言 いたくないと。 その時そこにいたというだけで、「時代」が普通の人たちに押し付けてくる背負いき れない事実。この映画もまさにそうだった。ソボンの家庭も、触れたくない過去として 家庭の中に大きな穴が開き、互いの幸せを願いながら心からの信頼が築けなくなっ ている。 家族の秘密が家庭内の気持ちの行き違いを生み、些細なことから父親の過去、母の 過去、ソカの真実が暴かれていく。それは社会の動きの中で位置づけられ、受け止め られて家族は再生されていく。幼い時に父親をクメール・ルージュに奪われた監督には、 掘り起こすべき過去があり、この映画は、彼女自身の再生でもあったようだ。 国家の再生もまた、過去と向き合うことからはじまるのではないか。とはいえ、簡単では ないだろう。迫害を受けた側ばかりでなく、実際に手を下した軍人、命令をした軍人、中 枢にいた権力者にとって、40年という月日はあまりにも短い。 71年前を総括していないのに他国の戦争に首を突っ込もうとしている日本、まだまだ内 戦の傷の癒えないカンボジア、歴史の真っただ中を生きるものとして、興味が尽きない。 ★105分 7月2日より岩波ホール。その後全国順次公開 公式ホームページ:http://www.t-phnompenh.com/

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