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人の痛みについて

     寺島栄宏

「朝鮮人は出て行け!……死ね!」
「良い朝鮮人も悪い朝鮮人も、殺してやる!」
「朝鮮人が子どもを産んで、また朝鮮人が増えた!」
「朝鮮人、正々堂々と出てこい!……殺してやるから!」

ヘイト・スピーチの一例だが、「朝鮮人」のところを、「日本人」という言葉や、又は、あなたの「名前」入れて読み直したい。

相手の気持ちが分かるとか、寄り添うことは、理解するための分野の理論だけでなく、相手が受けている感覚を感じることが大事だ。これらの克服は緊急を要し、民主主義社会でより良く生きるための常識になることが大切に思う。

上記の人間性に反する屈辱的な言葉に、人間が晒され続けるとどうなるであろうか? 概括的にいえば、被害者が失うもの、それは、安心して暮らす環境の喪失である。24時間の生活、いつ襲われてしまうのか恐怖と同居になる。

人は多くの場合、自己防衛から必然的に、抑圧された感情を忘れようとする。それが、逆に不快感情を籠もらせて日常生活を続けてしまうことになる。だが、誰にも何も言えず、強い抑圧された感情が内面化され続けると、意識から消え去り忘れたと、思っていた頃にも、不眠や、我が子の寝顔を見ると涙が出たり、映画のフラッシュバックのように悪夢が現れる。日常の生活の営みの最中、突然に吹き出すのだ。

本人は悪くないのに、他人によって攻撃された精神的なダメージに苦しみ続ける。心理学の研究例では、ベトナム戦場帰りのアメリカの元兵士が、平和な家庭生活の中で突然おこす悲劇が知られている。

在日の立場からみると、日本社会の現実は、何かとうるさい在特会とか日本会議というと、マスコミも怖がってきちんと取り上げない。友人も多いが、当事者でない友人や日本社会への信頼も揺らぐ。手をつなぐ相手が見つからないのだ。

冒頭のスピーチを「表現の自由」の権利に引きつけていえば、こうなる。ヘイトスピーチの「言論の自由」には、相手の声をあげる「言論」を抑圧する構造が内包されており、「表現の自由」の権利の主体者である、受け手多数の「表現の自由」を抑圧する構造を持つ。

本来、「言論・表現の自由」の権利とは、言論表現の相互性を認め合うことで成り立つ権利です。ヘイト・スピーチは、「言論表現の自由」の権利に対し、否定的な作用を及ぼす人間性に反する行為だ。

被害の現場を見ない「言論・表現の自由」の絶対的擁護者の立場で現れる人は、ヘイトスピーチ規制に反対する。学者の一部にある抽象的な権利の絶対性の擁護は、権利の主体者である弱者に何の役にも立たず、苦しみ続けるのだ。

現実から、権利の相互性から、被害の実態から、権利を問い直すことが大切に思う、この頃です。


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