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160年前からアメリカに占領されていた沖縄 70年の現代史を問う
『沖縄 うりずんの雨』ジャン・ユンカーマン監督作品

                  笠原眞弓
なんとなく、降りそうでふらない午後、出来立てホヤホヤの湯気の立つ映画を観た。ジャ
ン・ユンカーマン(写真下)が監督だ。ちょうど沖縄は「うりずん」の季節だという。今日のように
、冬が終わって大地が潤い、芽吹き始める。そんなタイトルの映画「沖縄 うりずんの雨」。

沖縄・渡嘉敷島の歌人小みねもと子は
「うりずんの 雨は血の雨 涙雨 礎の魂 呼び起こす雨」
と詠む。美しいことがはじまりそうなタイトルに込められた不屈の人々の思いが、その湿
った空気と共に深く染みわたり、滴る怒りとなって天に突き刺さる。
2時間28分の映画は、4部に分かれている。1部から「沖縄戦」「占領」「凌辱」「明日へ」
と続く。今の激しい闘いのみに焦点を当ててはいない。長い歴史の中で、沖縄の置
かれている今の状況とは何なのかを示している。

映画は、ペルー提督の1853年5月の沖縄上陸からはじまる。目的は、浦賀入港(同年7月
8日)に備え、沖縄を進軍基地、後方支援基地とするための、思うままに動ける、つまり
「占領」である。それは今に通じ、なぜここからはじまったかも頷ける。

そこでちょっと驚いたのが、日本の戦闘作戦を「怖い」と元アメリカ兵が表現したこと。
武器の多さ、兵士の多さで圧倒的戦力を持っていた米軍が、日本の作戦を怖いと表現した
ことだった。考えてみれば、当時の兵士は、17、8歳。まだ子どもである。沖縄の人たち
のガマの話に加えて、米兵から見たガマも恐怖だったようだ。どこにあるかわからない無
数の洞窟。突然飛んでくる弾。撃ったり、撃たれたり、またその中の人を助けたり。静か
な語り口の元米兵に、手柄話的影は微塵もない。

戦後の沖縄は、主権を奪われ、日本本土からも見捨てられて植民地化していく。
あちこちで起こる事件にならないレイプ事件。コップの水があふれ出たのは、12歳の少女
に対する事件だった。
この事件と、琉球大学へのヘリコプター墜落事件は、沖縄の人々の中に、大きな鉛の塊の
ように沈み、今に続く基地反対運動のエネルギーになったと言える。これまで米国の兵士
は「事件」を起こしても、日本で服役をしたことはなかったが、今回は違った。彼らは日
本の裁判所で裁かれ、6年から7年の懲役刑になって日本の刑務所に収監された。その3人
にインタビューを試みる。一人はすでに他界し、主犯の一人は拒否する。インタビューを
受けた元米兵は、未だに職を転々としていて事件も起こしている。その彼が、なんであの
ようなことをしたのかと素直に悔やみ、決して許されないだろうとうつむく。彼の更生は
、このインタビューからはじまったと思えるものだった。

アメリカ本国では、軍隊内での女性兵士たちへのセクハラ被害者が声を上げはじめた。本
人や家族の証言が続く中で、この膠着状態の沖縄の基地撤去の問題も、同じ被害者として
彼らと共闘出来るのではないかと思えた。
例えば「17、8歳の若者の戦争」。新兵は、まだ大人になりきれていない若者であり、精
神的に人格形成が未熟である。そんな若輩兵士は被害者であるという共通の考えである。
「差別」でも共闘が出来る。軍隊の中の女性差別、あるいは沖縄を撮り続ける中で石川真
生さんの指摘する人種差別、そこに沖縄と日本、日本とアメリカの差別が重なる。

基地のフェンスに、メッセージを書く人たちがいた。プラスチックの紐を結び、カラーの
粘着テープを貼っていく。その手際のよさ。「綺麗でしょう。なんできたないと言うのか
しら」と。その手際のよさと言葉の意味は、あとになってわかる。基地排除の人たちだけ
が沖縄にいるわけではないと。そのことも私たちは、忘れてはならないと肝に銘じた。

そんなことを発見しながら、2時間半あまりが過ぎていった。
ジャン・ユーカーマン監督は、沖縄に駐留した経験がある。そのとき、沖縄の人の「不屈
の精神」に触れ、感銘を受けたという。その体験が浄化され、ここに再現された観がした
。欲を言えば、もう少し「なぜこんなにこじれたのか」という、今の沖縄を突っ込んで欲
しかった。そこが大問題なのだから。

この映画は、70年目の沖縄慰霊の日に合わせて6月20日に東京・岩波ホール、沖縄・桜坂
劇場ほかにて公開される。 (シグロ創業30年記念作品)

Created by staff01. Last modified on 2015-04-14 20:01:02 Copyright: Default

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