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石炭火力発電事業から、農地と海を守れ!〜インドネシア・バタン県の地元住民の闘い

                 西中誠一郎

 7月末から8月初旬にかけて、インドネシア・中ジャワ州バタン県に建設予定の「バタン石炭火力発電所」の事業計画の中止を求めて、現地で農業や漁業を営む住民代表3人と、支援活動を続ける環境NGOのメンバーが来日し、東京と京都で、異議申立ての要請行動や報告集会などを行った。2011年7月インドネシアと日本企業による現地法人が設立されてから、建設予定地の土地買収の手続きなどが強引に推し進められ、インドネシア軍・警察・チンピラなどによる人権侵害や、土地整備による環境破壊や生活環境の悪化が深刻化した。建設計画の影響を受ける5村の住民約7000人は、住民組織「UKPWR 協会」を2012年に立ち上げ、事業計画の中止を求める抗議活動を、草の根レベルからインドネシア政府に対するレベルまで、厳しい弾圧の中で精力的に続けてきた。

「バタン石炭火力発電所」と日本・インドネシアの「官民連携パートナーシップ」とは?

 「バタン石炭火力発電所」には日本企業2社が参画し、日本政府が100%出資する国策金融機関「株式会社 国際協力銀行」(JBIC)と日本の民間銀行団(三井住友、みずほ、三菱東京UFJ、三井住友信託)が融資を検討中で、予定総額約4000億円の巨大プロジェクトだ。

 同事業を実施する「ビマセナ•パワー•インドネシア社(BPI)」は、大間原発の新建設も手がける「電源開発(株)(J-POWER)」と「伊藤忠商事(株)」、インドネシアの「アダロ•パワー社」の3社が設立した現地法人で、「インドネシア国有電力会社(PLN)」との間に25年に渡る電力売買契約を結んでいる。

 同発電所は、インドネシア大統領令に基づき実施される「官民連携パートナーシップ」の第一号案件で、日本政府が東南アジア向けに促進するインフラ輸出として力を入れている「高効率石炭火力発電所」だ。電源開発(株)は自社HPで「地球温暖化対策に貢献する高効率発電」と紹介している。

 しかし「高効率発電」であっても、CO2の排出量は石油火力発電と大差なく、温室効果ガスの削減には役立たない。さらに石炭火力発電は水銀などの汚染物質の最大の排出源とも言われ、欧米各国では新設を不可能にする規制を導入しつつある。しかし日本では福島原発事故以降、石炭火力発電所の新設が国内で相次ぎ、海外輸出にも積極的だ。
http://jref.or.jp/column/column_20150611.php
http://sekitanmondai.main.jp/?page_id=64

 日本政府は2010年頃から経済産業省主導で、官民連携のインフラシステムの輸出を強化してきた。2013年3月、安倍政権は内閣官房長官を議長とする「海外経済協力(経協)インフラ戦略会議」を立ち上げ、首相自らトップセールスに乗り出し、世界中で原発や新幹線などのインフラ輸出の動きを加速化させている。2011年7月にインドネシアで現地法人を立ち上げた「バタン石炭火力発電所」は、日本・インドネシア両政府にとって「官民連携パートナーシップ」の先駆けとなる、東南アジア最大規模の石炭火力発電所の建設事業である。


 *写真はバタン県住民約1000人が農地に集まり、布を掲げて作った人文字。「石炭ではなく、食糧を!」

立ち上がったバタン県の地元住民たち

 今回の地元住民の訪日による「異議申立て」は、「環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン」と「OECD(経済協力開発機構)多国籍企業行動指針」に基づいて、国際協力銀行(JBIC)の異議申立制度に訴えるというもの。

 過去4年間、地元住民と支援団体は、バタン石炭火力発電事業に断固反対し、地元や首都ジャカルタで22回のデモを行い、インドネシア政府や日本大使館への抗議行動や、インドネシア国家人権委員会への申立て、環境影響評価(EIA)に関する住民協議会の開催要請、JBICに対する実地調査と住民への直接の聞き取りを求める要請書の提出などを行い、2011年以降3年間3回に渡り、JBICと日本の銀行団による同事業に対する融資契約の締結期限を引き延ばしてきた。2013年8月には、インドネシア国家人権委員会が「用地売却の強要になりうる地元警察や国軍の用地買収交渉からの撤退」を求める勧告を、インドネシア政府に対して出している。

 にも関わらず、再三に渡り事業融資の中止決定を要請してきたJBICからは回答が得られず、今年4月上旬には、インドネシア国軍と工兵隊が、建設予定地で土地整備作業を開始し、6月には中ジャワ州知事が、反対地権者に対する「土地収用法」の適用開始の書面に署名するなど、発電所建設に反対する地元住民は危機感を募らせている。

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地元住民(地権者、農民、漁民)と支援団体の訴え

 訪日した地元住民と支援団体は、7月29日にJBICや日本政府に対して異議申立てを行った。翌30日、参議院議員会館で院内勉強会「日本のインフラ輸出における人権•環境配慮は十分か?インドネシア•バタン石炭発電の現状と日本の課題」が開催された。同事業の概略とこの間の抗議活動の経緯などの説明が行われ、地元住民代表の3人と住民活動を支援する「グリーンピース•東南アジア•インドネシア」のアリフ•フィヤンドさんからの訴えがあった。

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チャヤディさん(農民、地権者)
 4年間、自分たちの権利のために闘ってきました。石炭火力発電所の予定地は、年3回米の収穫ができる非常に肥沃な農地です。住民のほとんどは農民。この農地こそ唯一の生活の糧になっています。用地調達の土地収用において住民は脅迫されてきました。事業者はチンピラを動員して住民に土地を売るように脅しをかけ、国軍や警察も住民を脅している。私自身土地を手放すように強いられました。

 このような圧力、脅迫に関わらず、住民の一部は土地を売りませんでした。7人の住民が、何の罪も犯していないのに、裁判もなく刑務所に入れられました。私も7ヶ月間刑務所に入れられた。ただ先祖代々受け継いだ土地を守ってきただけ。現在も土地を手放すように脅迫されています。

 農地の周りに1mの高さの堤防を作られてしまいました。水田の水の流れが悪くなり、今までは年に3回収穫できたが、今は1回収穫するのも難しくなっている。国有電力会社の人も家に頻繁に来て、公共利益の開発のため『用地調達法』を適用すると脅しをかけている。インドネシアの法律では、土地、空気、水は国家の所有物で、公共の利益が優先すると定められていますが、バタン火力発電所は、ビセナ・パワー・インドネシア社の事業であり民間事業です。

 日本のメディアや国会議員の皆さん、私たちの声を伝えて下さい。私たちは火力発電所建設に反対しています。JBIC国際協力銀行が、バタン石炭火力発電事業に融資しないように働きかけて下さい。皆さん、わたしたちの闘いを支援して下さい。融資すれば、JBIC は人権侵害に加担することになる。わたしたちは同じ人間。この事業の犠牲になってしまいます。

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アブデュル ハキムさん(漁民)
 私自身は伝統的な漁民のひとりです。バタン海域は海洋保護区にも指定されている非常に豊な海。魚種も非常に多く、私たちは豊かに暮らしてきた。しかし石炭火力発電所を建設する計画が持ち上がり「豊かな自然、海が破壊され、生活する権利が奪われてしまうのではないか?」という不安を抱え、現在は怯えて生活しています。私たちは、既に石炭火力発電所が建設されているインドネシア各地の地域住民が経験した、苦しみや生計手段の喪失を経験したくありません。

 法律違反に人権侵害、汚いやり口で、バタン石炭火力発電所の建設計画が進められていますが、関連企業は直ちに事業を中止すべきです。私たちは、日本とインドネシア両政府が協力して、被害を受けた住民を支援するように訴えます。国会議員の皆さんは、JBICや日本企業、政府に対して、この事業を継続しないように圧力をかけて欲しい。

 私たちは海の恵みによって、子や孫や家族を養ってきた。子どもを学校にやることもできました。本当に豊かに暮らしてきたのです。海こそが私たちの唯一の生活の糧。私たちはこの海を守っていかなければならない。海を破壊しないで下さい。

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カロマットさん(地権者、農民)
 バタン石炭火力発電所建設予定地のウジュンネゴロ村から来ました。チャヤディさんと同様に土地をもっています。この間の整地作業で水田が堤防のようなもので囲まれてしまいました。

 もしこの事業が継続されれば、私たちが長年築いて来た文化や生活環境も破壊されることになる。建設予定地の近くには先祖代々続いてきた文化遺産のお墓があります。またすでに火力発電所が建設されている他の地域には、売春宿ができてしまっています。

 インドネシアでは工業発展のため電力開発が必要だと言われている。私たちも他の方法の電力発電所を拒否するわけではない。地熱や太陽光など再生可能エネルギーの開発であれば、JBICの融資も可能だと思います。残念ながら、このような石炭火力発電事業を受け入れるインドネシア政府は、自らの運命について、配慮していないと思います。

 現在まで妥協点、解決策は見つかっていませんが、あきらめません。インドネシアには独立運動や民主化闘争の歴史があります。私たちは抵抗の闘いを続けるしかない。

アリフ•フィヤントさん(NGO「グリーンピース・東南アジア・インドネシア」)
 インドネシアにはジャワ島を中心に数多くの石炭火力発電所が建設されています。そのための炭鉱採掘でも、森林伐採による環境破壊の影響は大変深刻です。もし今回の事業で融資を続けるならば、このような森林破壊はますます大規模になります。

 例えば、西ジャワ州の火力発電所。この発電所も日本によって資金投入され、日本企業が建設に参加しました。この場所でもバタン県の住民と同じように、人権侵害や環境破壊がありました。発電所の建設が始まると、漁民も漁に出れなくなりました。

 この間、日本政府はインドネシアの電化需要を満たすために石炭火力発電所の建設を支援すると言っています。確かに電化率が進んでいない東部の島嶼部もありますが、少なくともジャワ島ではありません。日本が建設している石炭火力発電所の多くはジャワ島にありますが、ジャワ島では電力の問題はそんなに深刻ではありません。それでも建設するのは、住民のためではなく、前ユドヨノ政権が推進した、ジャワ島にセメント、自動車、石油化学、繊維関連産業などの工場を集中させるという工業の基本計画の影響です。

 仮に東部島嶼部で電化対策を進めることがあっても、石炭火力発電ではなく、その地域にあった再生可能エネルギーにすべきです。インドネシアは発電の多くを石炭火力発電に頼っていますが、温室効果ガスを大量に発生するなど非常に問題が多い。

 日本政府は石炭火力発電所事業に融資することは、インドネシアの役に立っていると主張していますが、実際は、インドネシアの持続可能な社会発展のためには全く寄与していません。日本政府と企業は、インドネシアがこれ以上化石燃料に依存しないように、再生可能エネルギーに対して支援、融資を行うべきです。

日本企業と国際協力銀行(JBIC)は直ちに事業からの撤退を!

 翌31日の朝、一行は港区青山の伊藤忠商事(株)の本社前で、「伊藤忠はバタン石炭火力発電事業から直ちに撤退して下さい。豊かな農地と海場と住民の生活を守って下さい!」と声を上げ、出社する社員にチラシを配った。

 アリフ・フィヤントさんは「日本の公的資金による事業が、深刻な環境破壊と住民の生活破壊に加担しています。国際協力銀行(JBIC)は自身のガイドラインに違反しているのだから、今回の私たちの異議申立てを誠実に受け止めて、直ちに融資中止を決定すべきです。日本の皆さんにも、日本政府やJBIC、伊藤忠、電源開発(I-POWER)などに、事業からの撤退を求める声を上げて欲しい」とインタビューに答えた。

 自然環境と代々営まれてきた人々の暮らしは一度破壊すれば元には戻らない。日本政府は巨額のインフラ輸出のあり方を見直し、企業と融資機関は「企業の社会的責任」(CSR)を直ちに果たすべきだ。

【国際環境NGO「FoE Japan」〜インドネシア・バタン石炭火力発電事業】
http://foejapan.org/aid/jbic02/batang/


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