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アートの想像力で国家をこえられるか?〜東アジアのヤスクニズム7日目

 7/31(金)19時からは、「アートとヤスクニズム」と題し、芸術家と評論家、学者という 多彩な顔ぶれでトークセッションが行われた。これは約10年をかけて描き出した洪成潭 (ホン・ソンダム)さんの連作<靖国の迷妄>に、いかに日本のアートが応答できるか、 芸術と社会的政治的問題を別のもののように境界を引いてきた日本の風潮への問いかけを こめたトークだった。洪さん自身は1980年「光州民衆抗争」の惨劇を伝える「五月版画」 を制作して以来、韓国の民主化運動―反独裁民主化闘争と呼応する民衆美術の先鋭な担い 手として、あえて「美術は闘争の武器だ」とまで言い切って活動してきた作家だ。とはい え、「運動」では「美術(アート)」の側面がなおざりにされ、また「美術(アート)」では 「運動」を忌避するというジレンマを常に抱えていた。このトークはそうした問題 意識を共有できる人たちが揃ったといえよう。

 冒頭の発言者、井口大介さんは、日本では珍しく、ここ数年「靖国問題」を作品にしてき た美術家だ。原爆投下後、靖国神社に合祀された「広島第二県女二年西組」の合祀取り下 げ訴訟を続けている関千枝子さんとの出会いがきっかけで制作をはじめたという。そのイ ンスタレーション作品や映像を見せながら、美術表現を通じて、現実の社会と横断しつつ 声をあげ行動すべきと強調した。

 次に国内外のアートの現場を足で回り、現代アートで何が起きているのかを鋭く洞察して きた美術評論家の市原研太郎さんは、洪成潭さんが今年4月に招聘された「禁止された絵」 展を実際に見たうえでのレポートに加え、ヨーロッパでは「アクティウ゛ィストの日常そ のものを見せる」試みが生まれていることを紹介。社会批判、政治的メッセージの作品 を美術館やギャラリーに展示する傾向は2001年の9.11以降、増えているという。そして 「アクティウ゛ィズムとアートを真正面から結合する美学の追求が必要」と主張したが、それは今回の<東アジアのヤスクニズム展>につながる心強いメッセージでもあ った。

 一方、<沖縄から世界を彫る>との気概で彫刻3点を出品した沖縄の彫刻家・金城実 さんは、そもそも日本の戦後美術が、どういうかたちで戦争に突き進んだのか?という認 識が欠如している点を批判、天皇中心の軍国主義に絡め取られていった芸術家とメディア の責任を問うた。芸術家たちが戦争に関わったオトシマエもつけないまま現在に至った 文化風土が、昨今の「沖縄のメディアつぶし」のような百田発言をも生んでいると声を荒げ た。

 こうしたやりとりを踏まえ、「文化=政治」という概念を展開し、『ストリートの思想』等の著作がある社会学者の毛利嘉孝さんは、いまなぜヤスクニズムなのか?という点で、靖国神社は、国のためなら死んでもよいという人たちを大量生産し、戦争を組織する装置としてこれからの死者を待っているようで不気味であり、「戦争をする国」へすすむ安全保障関連法案を強行採決した安倍政権の現状と無関係ではないという。そしてナショナリズムは必ず美学とつながる危険性があると指摘した。また洪成潭さんの作品のいくつかにみられるマンガのようなパロデイ的表現が、遊就館等に代表される靖国神社や靖国を支える思想の薄っぺらさを上手く表現していて、それは日本人を戦争に駆り立てた表層的な日本の美学をも連想させると述べた。

 洪成潭さんはこうした話に随時応答しながら、沖縄を題材にした作品<ヤスクニ―崖の出産>はチビチリガマの集団自決の洞窟をイメージし、その暗い闇から新たな生命が宿る希望を表現したと説明、さらに<韓国のヤスクニ>作品の前に金城実さんの彫刻を置いたのは、そのひとつの作品が1909年に伊藤博文を暗殺した安重根と大逆事件を彫ったものだからだと語るや、金城さんはその作品の前に座り込み演説をぶつなど、波乱万丈含みのトークセッションとなった。いずれにせよ、ヤスクニズムが孕む国家主義、国家暴力をアートによって俯瞰する機会ともなり、さらにアートの想像力/創造力が国家をこえられるか? 考えさせられるものとなった。 (文責:古川美佳)

残すところ、あと2日です!

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8/1 (土)14〜17 時 ●ヤスクニと日本軍「慰安婦」  『“記憶” と生きる』上映 (2部のみ上映)+トーク:土井敏邦(映画監督) 洪成潭 (画家)

8/2 (日)14〜17 時 ●東アジアのヤスクニズム  ダグラス・ラミス(政治学、沖縄 国際大学教員)+まとめディスカッション(コメン ト:須藤遙子(文化政治学、自衛 隊協力映画研究)、小倉利丸(現代資本主義論)ほか

※ゲストのご都合で変更される場合があります。


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