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LNJ Logo 牧子嘉丸のショート・ワールド(21)〜「大江戸瓦版(かわらばん)事情」九菅長親分と八五郎の巻
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    第21回 2015年6月29日

「大江戸瓦版(かわらばん)事情」―九菅長親分と八五郎の巻


    *「報道規制」発言が出た自民党勉強会(テレビ報道より)

ハチ―大変(てーへん)だ、大変だ。親分、大変だ。

親分―どうしたぃ? いつも落ちつかねぇ、がらっぱち野郎だなあ。

ハチー親分、これが落ちついていられやすかい。うちの若い衆がとんでもねえーことしでかしやがって。江戸中の恥っさらしになってますぜ。

親分―おいおい。もうすこし順序立てて話しをしねか。

ハチーそれがね、あの馬鹿連中。うちのシンゾウ大親分の悪口(あっこう)を言う奴は許せねー。そんなことをふれまわる瓦版屋は取りつぶせとか、懲らしめろとか。おまけに口が干あがるように貸し元を脅かせとか、ありったけの罵詈(ばり)雑言。それがすっぱ抜かれて当の瓦版にのったからたまらない。もう瓦版はなくなっちまうのか、町人衆の楽しみを奪うのか、って大騒ぎで。

親分―何、そんなことを。いったい、なんでまた。

ハチーそれが、大親分があてにしていた代言人のハセベの旦那には裏切られるは、子飼いと思っていた元の役人どもからは、そっぽむかれるはで、こりゃ一大事と思ったそうなんで。

親分―そりゃ、おれも毎日頭の痛いところで、木で鼻をくくったようにして、なんとかごまかしつづけてきたことなんだが。

ハチーことの始まりというのが、客人に呼んだ千田の生臭さ坊主。

親分―うん、あの当代随一とか自分で言ってる戯作者風情(ふぜい)。ありゃシンゾウ親分の一番のお気に入りの先生だ。なんでも「永遠(とわ)の『殉愛』」とかいう、あとで色々ろくでもねえ噂のたった戯作で、町娘の紅涙をしぼらせたとか。

ハチーあの坊主。オナガの肩ばかりもつ琉球の二つの瓦版をつぶせなんて、言っちゃって。

親分―そんなことを!実はおれもそう思ってたんだ。

ハチー琉球島の町衆のことを親鳥のように思うオナガの旦那にくらべて、上から目線で冷たい口調の九菅長だなんて、だいぶたたかれましたからね。それにしても、ふたりを尾長鶏と九官鳥にかけるなんぞ、なかなか洒落てますね。

親分―おい、ハチ。さっきかキュウカンチョウ、キュウカンチョウって言ってるけどそれゃ、誰のこった?

ハチー親分のことですよ。シンゾウ大親分の口まねしかしない、冷血九菅長。口さがない町の雀は実にうまいこと言いますね。

親分―バカヤロー。ぶっ飛ばすぞ、この野郎!(ごつん。)

ハチーあっ痛ぇ。ごめんなすって、どうぞご勘弁を。だが親分(頭をかきながら)あっしも早速、あの若造どもをかき集めてうんとこさ、油をしぼってやりましたぜ。

親分―二代目、三代目の苦労知らずのぼんくらめ。それでこっぴどく叩きなおしてくれたかい。

ハチーそれがはじめは殊勝に申し訳ござんせんなんて言ってやがったのに、だんだん抗弁しやがる始末で。

親分―抗弁? どんな、口答えを。

ハチーいや、親分衆のなかでもずいぶん没義道(もぎどう)なことを言ってるじゃないか。あの九菅だって。いや、その、そうだ。あのナカダニの親分なんか私法のために国法を曲げるなんてと言ったのは、あまりに無法じゃないかって。それにくらべれば、自分たちの放言なんて、そんなにとがめられるほどのことかって。

親分―それを目くそ鼻くその類というんだ。どっちも無法であることには変わりはねー。そんなことははなっから承知だ。そこをなんとかごまかしてやってるんだ。それにしても、たしかにあれは図体ばかりはでかくても、脳味噌はちと足りねーな。ハチ、お前といい勝負だな。

ハチーへへ。ナカダニの親分と相当だなんてありがたいことで。して親分。仕置きは。

親分―こちとら二足のわらじをはくものとしては、江戸を騒がせたこの一件、見過ごしにはできねえ。首謀者に遠島・所払いを申しつける。ハチ、さっそくタニカキの親分のところへひとっ走り行ってきてくんな。

ハチーへっ、合点承知の助で。(と、すっとんでいく)

親分―せっかく大親分がメリケンまで行って約束をとりつけ、黒船でシナ天竺の彼方までいくさに出かけて大もうけできると踏んだのに。とんだ邪魔をしやっがた。ほんとに馬鹿をとりまとめる身の苦労も知らぬやつらだ。

ハチー大変だ、大変だ。親分、大変だ。

親分―何だ、ハチ。もう戻ってきたのか。

ハチー親分。それどころじゃないですぜ。百姓、町人、町奴、果ては女こどもから年寄りまでがむしろ旗をかかげて十重二十重ととりかこみ、瓦版を潰すな、天下の御政道を正せ、と口々に叫んでおりやす。

親分―何! ハチ、こうなりゃ手下をつれて、片っ端からしょっぴいてやれ。

ハチーあっしはもうごめんだ。これからはただ町衆として暮らしやす。あばよ、九菅長の旦那。あんたはあの大親分と地獄の底までお供しな。


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