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公民館の役割は「市民の表現の後押し」〜九条俳句事件で永田浩三さん

                    堀切さとみ

 さいたま市の三橋公民館が、市民から選ばれた俳句を公民館便りに掲載することを拒否して、まもなく一年。「句を掲載してほしい」と、句会のメンバーをはじめ多くの市民が公民館や教育委員会に申し入れをしてきたが「公正中立の立場から、掲載することは好ましくない」と頑なだ。同じ市内にある常盤公民館で6月10日、「九条俳句を考える市民の集い」が行われた。元NHKディレクター永田浩三さん(写真下)が「何が日本社会の課題か」を語り、表現を守ることの意味を考えさせられた。

 掲載拒否された『梅雨空に九条守れの女性デモ』について永田さんいう。「男女平等、戦後民主主義の精神を感じる、さわやかな希望の句だと思う。これを排除しなくてはならないのは、政治と無関係ではない」。そして今年一月に開催した『表現の不自由展』で、数々の「タブーとされているもの」を展示したことを紹介。その中のひとつが、東京都美術館で撤去された、元慰安婦の「平和の少女像」だ。

 「不自由展には中学生や高校生もたくさん来てくれた。少女像と並んでスマホで写真を撮っていた一人は『一生懸命に何かを考えている人だと思う』と 感想を言っていた。なぜこれが差し障りがあるのか。最大のタブーは天皇と戦争にまつわる表現だからだ」


     *写真=『表現の不自由展』で展示さ れた九条俳句

 2000年1月のETV特集で女性戦犯法廷問題を放送しようとした永田さんは「9条俳句の作者と同じ体験をしたんです」という。元従軍慰安婦の証言を取り上げようとしたその番組は劇的に改ざんされ、ひどい内容になった。放送直前に、当時官房長官だった安倍晋三が「公平公正 に放送せよ」「わかってるだろうな。勘繰れ」と NHK幹部に告げていたことを後になって知らされた。悶絶しながら証言してくれた人たちはNHKを訴えた。そして番組のプロデューサーだった永田さんは、訴えた人たちの側で法廷にたったのだ。

 文部省が書いた『民主主義』と言う教科書の中にこんな一文がある。「立派な人物だと思って選んでも、その人々の行動が間違っていると信ずる場合には、これに対して公正な世論の批判を加え、たえず是正していくのは、民主国家の国民の自由であり、権利であり、責任である」と。戦後民主主義は、学び育てなくてはいけないものだ。市民の表現、発表を後押しする場所が必要で、子どもにとってそれは学校だが、学校を卒業した大人たちのために公民館とメディアがあるのだ。表現を守ったり応援すべき立場にいる三橋公民館は、その責任を放棄してしまった。他にも「公正中立」を持ち出して、市民の自由な表現が制約されることがあまりにも多い。果たして、公正中立とは何なのか。「汚染水が流されているとき『危ないですよ』というのが公正な放送だ。『安全、危険、どっちの意見もありますよ』というのは職務違反。平和が危ない、民主主義の危機の中で、国民に警鐘をならさなければならない。NHKが高みの見物をすることなど許されない」。そう永田さんは力をこめた。

 悪いことばかりでははない。慰安婦の写真展を中止にした、新宿ニコンサロンに対する判決の話だ。「女性裁判長が被告・ニコンに対し『表現の自由を守る責任についてどう考えていたのか』と問いかけた。これは画期的なことだ。戦争責任を問うとき、そこには右翼やヘイトスピーチなどの攻撃は当然ある。しかしまがりなりにも表現の自由を守れという人は、対する意見を持つ人の攻撃に耐える責務を負わねばならない。表現者個人は弱い。だからこそその個人を、公的なものが守らなければならないのだ。どんなに因習や弾圧がつきものだとしても」。


 会場には一人の女性がよんだ一つの俳句をめぐり、思いをもつ人たちが100人集まった。時間の許す限り、一人一人が経験や思いを語った。三橋俳句会の来栖イネ子さん(写真)は「公民館は公正中立と言うが、市民ではなく行政が守るものだ。あの俳句が選ばれた梅雨空から一年たったが、ちっとも 納得いく回答がこない。掲載させるまで、いろいろな方法を考えて頑張りたい」と笑顔で語った。この思いに応えたいと思う。


Created by staff01. Last modified on 2015-06-13 00:30:17 Copyright: Default

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