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映画『グッド ライ〜いちばん優しい嘘〜』〜とても素朴なクライマックスが光るわけ

                        湯本雅典

 この映画の最大のシーンは、クライマックスにやってくる。観ていない人のために言えない内容だが、これはすごかった。私にはまったく予想できなかった。人を助ける、人を愛するというのは、こういうことなんだ。それはとても単純な行為だ。自分のせいで犠牲を蒙った仲間に、命がけの恩返しをする。それと同じ行為が私にできるか、と何回も反芻した。

 それは考えてみれば、おきまりのパターンなのかもしれない。しかし、この映画冒頭のスーダンの内戦のシーン。村を破壊され、親が殺され、生きるために何千キロも子どもだけで歩き、その中で友達、兄弟が死に、生きるために自分が出した尿を飲む。この話の背景を時間をかけ、現地語で描かれていることでこの話はアフリカスーダンの内戦の犠牲者の話だという柱がしっかりしたものとなっている。おまけに、成人した主人公を演ずる4人中3人は、実際のスーダンの内戦で子どもの頃犠牲になった人たちなのである。

 スーダンの歴史は内戦に次ぐ内戦の歴史だ。戦後3度の内戦を経験し、それは今も続いている。元々は、イギリスの南北分断統治政策があった。イギリスは、植民地スーダンを北部(イスラム教)と南部(キリスト教)に意図的に分断し支配した。1956年の独立後も内戦は続いた。その後アメリカが内戦激化に加担し(1998年アメリカ大使館爆破事件の報復として当時のクリントン大統領は、スーダンの首都ハルツーム郊外のアルカイ−ダの拠点に巡航ミサイル攻撃を実施)、また日本は、スーダンにPKOを送ることでアメリカの後押しをした。その過程で国、家族を失い難民となった子どもたちは「ロストボーイズ」と呼ばれ、その数は約2万人と言われている。ちなみにスーダン内戦では、約200万人の一般市民が命を落とし、約50万人が近隣諸国に逃れた。

 アメリカは、1990年代後半から難民の第三国定住の開始を決定し今までに4000人のロストボーイズがアメリカに渡った。しかしその扱いは不十分なもので、家に住み、仕事に就くまでの過程は困難の連続であった。特に2001年9・11以降は、より困難な状況を強いられたという。この映画は、ロストボーイズたちがアメリカに訪れ、住まいと職を得る過程で生まれた彼らと就職あっせん所の職員(キャリー)とのさまざまなエピソードを描いたドラマである。

 この映画では、破壊の真の責任者、真の破壊者が誰かは描かれていない。おそらく製作者はアメリカ国家の責任追及は意図していない。しかし製作者の意図はともかく、戦争被害者がスーダン内戦の一翼を担ったアメリカでどう生きていくのかが描かれている。本作の脚本を担当したマーガレット・ネイグルは、はじめてロストボーイの存在に気づいた時彼らのストーリーを伝えたいと感じ、およそ1000人のロストボーイに会い、その体験を聞き脚本を書いたという。

 このドラマは、現在の課題、目の前の課題として難民対策の矛盾が描き出されている。それは、他国に送り出された難民に対する不十分な受け入れ先の現実。例えば劇中では、彼らが、どのような背景で送られてきたのかを知らない職業紹介所の職員(キャリー)。しかしキャリーが現実の中で学んでいく過程を描き出すことで、さらに現在の問題点が浮き彫りにされる。それは、私たちが彼ら「難民」とどう向かい合うのかという課題にまとめあげられていく。

映画公式HP:http://www.goodlie.jp/


Created by staff01. Last modified on 2015-04-23 17:59:53 Copyright: Default

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