本文の先頭へ
LNJ Logo 基地強制は無意識の加害〜沖縄から本土問う野村浩也さん
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0219hayasida
Status: published
View


基地強制は無意識の加害〜沖縄から本土問う野村浩也さん

                  林田英明

 野村浩也(こうや)さん(51/写真)は沖縄人の社会学者である。2005年に出版した著書『無意識の植民地主義―日本人の米軍基地と沖縄人』で自らの立場をあらわにして日本人の意識に斬り込む。広島修道大学教授として今も刺激に満ちた発言は変わらない。そんな野村さんを囲んだ座談会が2014年12月5日、福岡市中央区であり、30人の参加者が聴き入り、また意見を交わし合った。沖縄を語る会主催。

●奪われた原風景

 野村さんは嘉手納基地そばで生まれ育った。沖縄県嘉手納町は、町面積の83%が空軍基地と弾薬庫で占められ、金網が張り巡らされている。それが日常だったから、日本に来て戦闘機や軍用ヘリの爆音がない世界に逆に驚き、「自分の原風景は奪われたものだった」と初めて気づいたという。もし沖縄人が基地と共存しているように見えるとすれば、それは違う。野村さんの説明によれば、目の前の現実をいったん受け入れなければ精神が異常を来してしまう。生きていくためには慣れっこにならざるをえないということだった。しかし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状をもたらす“現実”は重い。子どもが生まれると、大人として基地反対の人が増えていくと話した。

 11月の県知事選で当選した翁長雄志陣営のステッカーには幼子の寝顔と共に「静かにお昼寝ができる沖縄を」の文字が躍る。イデオロギーより命の尊厳がそこに漂う。野村さんは「この子がおなかにいた頃、流産の危険性も高まっていた。生まれた後に障害が出るかもしれない。今すぐ、この子を助けないといけない」と切羽詰まった表情を見せる。自身がこの幼子と重なるからこそ湧き上がってくる言葉だ。それが現実を変えていくエネルギーになる。

 「この子は、おなかにいた時から基地を押しつけられている。それは押しつけている者がいるから」と力を込め、この立場の違いを表す「ポジショナリティー」という概念を提示した。アイデンティティーでは説明できないという。つまり、本土の日本人が無意識のうちに基地を沖縄に押しつけている加害認識を迫っている。

●消えぬ被害事実

 野村さんは故マイケル・ジャクソンが1983年に発表したミュージックビデオ『スリラー』を挙げた。突然ゾンビに襲われる恐怖感は、黒人の日常の心象風景とも言え、その感覚は沖縄人なら理解できるとする。なるほど、沖縄にもジェンダー差別や離島の八重山差別がある。そうした二重構造に対して野村さんは「日本人は沖縄人の女性や離島も含めて差別しており、八重山差別にしても乗り越えようと沖縄人は努力している」と反論。それでもなお「基地を押しつけた覚えはない」と反発する本土の声には、自動車事故を起こしながら「そんなバカな。ひいた覚えはない。何かの間違いだ」と戸惑い、責任回避に走って逆に相手を攻撃する例え話を挙げて「気づいていなくても被害者が存在する事実は消えない。確実に沖縄人を傷つけている」と語った。

 「沖縄は基地で支えられている」という図式もステレオタイプである。基地経済の依存度は復帰直後の72年に15%あったものが現在5%に低下し、むしろ返還された土地の有効利用が雇用も含めて地元にメリットを生んでいる。翁長氏が「基地は経済発展の阻害要因」と言い切る自信もそこにある。

 また、沖縄振興費を羨望とやっかみの目で見るのも間違いだという。基地のない地域にも新幹線、高速道、瀬戸大橋など多大な予算を国はつける。原発にも莫大な交付金が充てられる。しかし沖縄にはJRすら走っておらず、交通渋滞の損失は巨額になると野村さんは述べ、「国の情報操作とマスメディアの責任」にも言及した。

●犠牲のシステム

 じれたように野村さんの話を遮り、日本人はだからどうしたらいいのか、と解決の道を求める意見も出され、あるいは著書を事前に読んだうえでの反論なども飛び出し、議論が熱くなる場面もあった。沖縄に対する人一倍の熱情と理解があるからだろう。しかし、曲解かもしれないが同調の気持ちを上回る嫌悪感からの発言ではないかと私は受け止めた。野村さんの言葉に怨嗟を感じたのだろうか。いや、沖縄人に日本人への怨嗟はないと野村さんは言う。ただ平等を求める沖縄人の思いを表出しているに過ぎず、それを怨嗟ととらえるのは、差別をえぐり出された加害者の被害妄想ということになるようだ。

 「沖縄が独立すると寂しい」と語る同僚がいるという声に対して野村さんは「沖縄はペットですか」と切り捨てた。平等意識などかけらもない、これこそ無意識に発せられた差別感情である。

 野村さんへの回答は、一人一人が打ち出さなければなるまい。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する一連の選挙で国にノーを突きつけてきた結果を踏まえて野村さんは「沖縄の民主主義を見習ってほしい」と挑発のエールを送った。国家主義を突き進む安倍晋三首相を12月の衆院選で信任した日本人は、哲学者・高橋哲哉氏の説く「犠牲のシステム」を果たして克服できるだろうか。無意識の植民地主義という加害の現実を、どうにも意識させられる毎日である。

(2015年2月1日、21日「小倉タイムス」1941号、1942号より転載)


Created by staff01. Last modified on 2015-02-19 10:30:06 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について