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第23回 2015.2.1 松本昌次(編集者・影書房)
*今回は『ほっととーく』からの転載でお許しください。(松本)

「衣の下に鎧」が見える〜イスラエルでの安倍首相の発言

 せんだっての1月19日、イスラエルを訪問中の安倍晋三首相が、第2次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺の資料等を収めた国立ホロコースト記念館「ヤド・バシェム」を見学、終了後、記者たちに行ったスピーチを朝日新聞で読んで、わたしは唖然としないわけにはいきませんでした。もっとも、安倍首相のこれまでの言うこと為すことには唖然の連続でしたから、特に驚くこともありませんが、冒頭、安倍首相は、「ユダヤの人々がくぐった苦難を全人類の遺産として残そうとする」イスラエルの人びとに敬意を表し、「特定の民族を差別し、憎悪の対象とすることが、人間をどれほど残酷にするのか、そのことを学ぶことができました。」と、「決意を新たに」語ります。

 なにが今更らしく「決意」か、といいたい。安倍首相の祖父も一員として推進したかつての大日本帝国が、わずか70年ほど前まで、朝鮮・中国をはじめとするアジア諸国に対する植民地支配・侵略戦争で、どれだけ「民族を差別し、憎悪の対象」としてきたか、安倍首相は、全く知らぬ存ぜぬなのでしょうか。目の前に山ほど「学ぶ」べき負の遺産としての歴史があるにも拘らず、のこのこイスラエルまで出かけなければ、「学ぶ」ことも、「決意」を新たにすることもできないのでしょうか。

 新聞には、麗々しく献花する安倍首相のハガキ大の写真が記事とともに一面に掲載されていましたが、その前に、アジア各地に建てられた日本軍による犠牲者たちを記憶する多くの記念館・記念碑にこそ、まず花輪を捧げ、謝罪するべきではないでしょうか。かつて、ポーランドを訪ねたブラント元西ドイツ首相が、ゲットーの前で言葉もなく崩れ落ちるようにして涙を流し、謝罪したことを思い起こします。これが政治家の真にあるべき姿です。

 さらに驚くべきことには、短いスピーチのなかで、日本人の「先人」として、ビザを発行して多くのユダヤ難民を助けた有名な杉原千畝氏をあげ、その「勇気」を讃えていることです。杉原氏の行為は立派でした。しかし、まるで当時の日本人の代表であるかのように杉原氏をかつぎ出し、かつての日本が、ナチス・ドイツと手に手をとって侵略戦争を遂行し、敗北したことへの反省がひとかけらもないことです。いうまでもなく、日本は、ユダヤ人大虐殺に間接的に加担したのです。杉原氏一人の功績で責任を逃れることはできないのです。そのことをまずもって謝罪することが、首相としてのみならず、一個の人間としてとるべき道ではないでしょうか。

 安倍首相は、おわりに、例によってステロタイプの美しい言葉でスピーチを結びます。――「差別と戦争のない世界、人権が守られる世界の実現に向け、働き続けなければなりません。日本としても、人々の人権を守り、平和な暮らしを守るため、世界の平和と安定に、より積極的に貢献していく決意であります。」と。「巧言令色鮮(すくな)し仁」とは、まさにこのことです。もしこれが真に安倍首相の目ざすところならば、憲法九条をこそ「積極的」に守らなければならないはずです。しかしその「決意」は裏腹にすすみつつあります。「衣の下に鎧」が見えるのです。みずからの国の歴史的責任に目をつぶって、自画自賛し、国力増進をのみ目指す先に、平和も人権もないことは明らかです。

 安倍首相のイスラエルでのスピーチ直後の20日、「イスラム国」から、拘束されている日本人2人を人質に、2億ドル(236億円)が要求され、それが実行されなければ72時間以内に2人を殺害するという映像がインターネット上で公開されました。いま現在(1月22日)、その渦中にあります。「イスラム国」への米・英等の1700回余に及ぶ爆撃を支持し、昨年夏のパレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の大規模な攻撃で、女・こどもを含む2千人余が殺害されたことを黙過し、1月17日、エジプト、カイロで行った中東地域の政策演説で、イラクやシリアなどに難民・避難民支援などとして約2億ドルの無償資金協力を発表するとともに、「『イスラム国』がもたらす脅威を少しでも食い止める」と安倍首相が発言したことに対する「イスラム国」からの報復といえます。いまは、ここまでにとどめるほかありません。(『ほっととーく』126号 2015.1.24より転載。見出しはウェブ編集部。写真は報道より)


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