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東急東横線事故の原因を探る/安全問題研究会
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黒鉄好@安全問題研究会です。

首都圏を襲った記録的大雪の中、14日夜に東急東横線・元住吉駅で起きた追突事故について、現時点での当研究会の見解をまとめました。

ブログからの転載でお知らせします。

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<参考記事>
東横線で後続車両が追突、脱線 乗客19人がけが 「ブレーキ間に合わなかった」(産経)
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20140215541.html

「ブレーキ十分働かず」=降雪原因か、東急追突事故―16日から再開見込み(時事)
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-140215X820.html

東京では数十年ぶりとなった記録的豪雪は、ついに鉄道事故に発展した。東京東横線元住吉駅で停車中の列車に後続列車が追突、19人が負傷した。とはいえ、ソチ五輪の陰に隠れるようにして、今回の事故に関する報道が極端に少ないため、事故原因の推定に時間がかかってしまった。

当ブログと安全問題研究会は、ATC(自動列車制御装置)が正常に作動していたと見られることから、「着雪、着氷によるブレーキ力の低下」が事故の直接的原因とする東急電鉄の発表に基本的に異論はなく、東急が虚偽の発表をしているとは思わないが、大手メディアの報道からは読み取れない背景要因がいろいろ浮かびあがった。今後、同様の事故を防ぐ意味から、現時点で推定される背景要因についてコメントしておくことには意義があるし、当研究会の使命でもあるので、簡単にコメントしておこう。

まず、本題に入る前に、鉄道車両、特に電車のブレーキについて触れておく。

鉄道車両のブレーキには、通常の減速に使用する「常用ブレーキ」と、急迫する事故を避ける場合に使われる「非常ブレーキ」の2種類がある。このうち、ブレーキパッドを車輪に押し当て、摩擦力を用いて減速する通常のブレーキは、鉄道だからといって特別なものではなく、自転車や自動車のブレーキと基本原理は同じである。今回のような豪雪の場合、車輪とブレーキパッドの間に氷が入り込み、ブレーキ力が落ちることも当然、想定しておかなければならない。

このほか、常用ブレーキとして電車で用いられる特別のものに「回生ブレーキ」がある。電車のモーターは、電流を流せば車輪を回転させ、走行用の動力となるが、走行中にモーターへ電流を流すのをやめると、逆にモーターが発電機となり、このとき、回転を止めようとする強力な作用が起きる。この回転を止めようとするモーターの力をブレーキ力として使用するのが「発電ブレーキ」である。わかりやすく例えると、自転車に乗っていて、ヘッドライトを点灯させようとして発電機を倒してタイヤに密着させたときに、タイヤが重くなる経験はほとんどの人がしたことがあると思う。要はこれと同じ原理である。ただし、自転車の発電機の場合、発電した電力はヘッドライトで使用してしまうが、電車の場合、パンタグラフから架線に戻してやり、同時刻、同じ線路の上を走る他の列車の走行用電力として使用できるようにするのが一般的である。発電ブレーキのうち、ブレーキ時に発電した電気を架線に戻す機能を持っているものを特に回生ブレーキと呼ぶ。

この回生ブレーキは、電流を流していないときのモーターが回転を止めようとする力をブレーキとして利用するものだから、豪雪などの悪天候の時にも通常時と同じブレーキ力が得られる(着雪、着氷する心配がない)という利点がある。一方、モーターで発電した電気を架線に戻そうにも、その電気を使ってくれる他の電車がいない場合には、電気を架線に戻すことができず、ブレーキが利かなくなるという欠点もある(これを専門用語で「回生失効」と呼ぶ)。

ところで、鉄道ファン以外にはあまり知られていないが、急迫する事故を避ける場合に使われる「非常ブレーキ」の場合は摩擦で車輪の回転を止める通常ブレーキのみが動作し、回生ブレーキは動作しない。目前に事故の危険性が迫って非常ブレーキをかけているのに「回生失効が起き、動作しませんでした」では困るため、回生ブレーキは動作しないことになっているのである。

今回、追突を起こした電車に対しては、豪雪という悪天候にもかかわらず、輸送指令から徐行運転の指示は出ていなかった。このため、追突した列車は直前まで通常速度である80km/hで走行。前方に停車している列車が見えたため非常ブレーキをかけたがブレーキの利きが悪く、追突したとの運転士の証言がある。もし、運転士の証言通り非常ブレーキが使用されたのであれば、回生ブレーキは動作せず、摩擦力で車輪を止める通常方式のブレーキのみの動作であった可能性が高い。この際、ブレーキに着氷していたためブレーキの利きが悪くなり、追突したものと考えられる。

もし、輸送指令が豪雪であることを考慮し、徐行運転の指示を出していれば、別の展開があり得ただろう。駅のかなり手前から徐行運転を行い、ある程度減速していれば、元住吉駅に近づいて停車している先行列車が見えたとしても、非常ブレーキではなく常用ブレーキの使用で済んだ可能性がある。その際、常用ブレーキであれば、悪天候時でも通常時と同じブレーキ力が得られる回生ブレーキも併せて動作するため、衝突は避けられたか、または大幅に衝撃を軽減できたもしれないのだ。

(なお、「衝突が避けられたか、または大幅に衝撃を軽減できた」と断定的な表現にできないのは、この追突事故の発生が、列車本数の極端に少ない午前0時半頃の時間帯であったからである。終電間際の時間帯で列車本数が極端に少なかったため、仮に徐行運転していて常用ブレーキを使用したとしても、回生失効が起き、同じ結果になっていた可能性は否定できない。)

従って、当ブログと安全問題研究会は、徐行運転を指示しなかった輸送指令の判断ミスを、間接的事故原因として指摘しておかなければならない(これは、現時点ではあくまで可能性である)。報道によれば、この列車以前にも14本もの列車が、ブレーキの利きが悪いためオーバーランしていたという。他の鉄道会社ではほとんど徐行運転の指示を出していたことを考えると、東急でも当然、その指示を出すべきだったといえよう。

ネット上では、一部、今回の事故の原因を車両軽量化に求めようとする記事もある(注)が、さすがにそれは飛躍しすぎだろう。この記事では、車両の軽量化により車輪がレール上でスリップしやすくなったことが事故原因ではないかとしている。確かに、車輪とレールの「粘着力」(押しつけようとする力)は車両の重量に従って大きくなるから、車両が軽くなればスリップしやすいことは事実である。しかし、車両軽量化は日本の鉄道会社に共通の傾向であり、それが原因なら豪雪によるブレーキ力の低下がなぜ今回、東急だけで起き、他の鉄道会社では起きなかったのかの説明がつかない。当研究会としては、現時点で今回の事故原因を車両軽量化にあるとする見解を採用することはできない。福知山線脱線事故のような転覆脱線や、日比谷線事故のような「せり上がり脱線」には車両軽量化の影響は大きいが、今回のような事故に軽量化はあまり影響はしないと思う。

今後、運輸安全委員会による事故調査が行われるが、こうした点も含めた調査となるよう、運輸安全委員会には望んでおきたい。

注)東急東横線の列車衝突事故。遠因として囁かれている車両の軽量化
http://blogos.com/article/80601/

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
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