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ジャーナリストを守れ!〜シンポジウム「朝日バッシングとジャーナリズムの危機」

10月15日、東京・文京区の文京区民センターで、「朝日バッシングとジャーナリズム の危機」と題するシンポジウムが開かれた。主催は独立系メディアや雑誌の編集部 で構成する実行委。500人近くの参加者で用意されたイスが埋まり、立ち見が出るほ どの盛況となった。

「従軍慰安婦」や福島第一原発「吉田調書」をめぐる「誤報問題」で、朝日新聞が窮 地に立たされている。コンビニに入れば週刊誌が、書店に行けば平積みされた文芸誌 が、電車に乗ればそれらの中吊り広告が、同紙を袋叩きにしている。右派言論は競い 合うように、一気呵成に集中砲火を浴びせている。

午後6時。会場では、当日入場を求める行列の横を、事前予約した人々が足早に受付 を済ませていく。定刻になると月刊「創」編集長・篠田博之さんの司会で第一部が開 会した。舞台には複数のパネラーが揃っている。

■「吉田清治証言」が始まりではない

最初に池田恵理子さん(wam館長)が発言。「驚くのは朝日バッシングのひどさだ。 ヘイトスピーチ並みだ。慰安婦問題の始まりは金学順さんの名乗り出だった。吉田清 治証言ではない」と池田さんは釘をさし、2000年の「女性国際戦犯法廷」とその報道 への安倍首相の介入や、教科書での「慰安婦」記述削除を批判。「教育・教科書攻撃 の次はメディアだ」と警鐘を鳴らした。 精神科医の香山リカさんは、「橋下徹から始まったヘイトスピーチがエスカレート し、『朝日新聞的』な存在すべてに対するバッシングとなった。これは病的な社会の 表れだ」と語り、「外に敵を見つけて叩く。この対象はこれまでは北朝鮮―韓国―中国だった。ところがそれでは済まず国内に敵を見つけ、罵るようになった」と分析した。

安倍首相がラジオで言い放った「朝日の誤報で苦しんでいる」のは、いったい誰なの か。この発言を聞いた圧倒的多数の不遇の人々は――たとえば就活に失敗した若者たちが――「自分たちの不幸は、すべて朝日のせいだった」と妙に腑に落ち、溜飲が下がる。だがそれでは何も解決しない。「朝日ジャーナリズム の崩壊は、社会に致命的な打撃を与え、取り返しのつかないことになる。そうならな いために、私も発言を続けたい」。香山さんの言葉に、会場は大きな拍手を送った。

■朝日経営陣の体質とは

下村健一さん(慶応大学教授)は「吉田調書」報道について、以下の5つのポイント をあげて提起した。

.潺垢梁腓さとその対応の大きさがまったく釣り合っていない。今回の事態は今後 同業他社にも波及。誤報を恐れメディア全体が委縮、自縄自縛に陥る危険がある。 池上コラム問題は、朝日上層部による社内の言論封じの一角に過ぎない。「撤退報 道」以降、いっさいの追記事が出ないのは不自然だ。 5氾陳棺颪良分否定と全否定を混同するな。あのスクープは不正確かもしれない が、当時の指揮系統の大混乱を伝えるリアリティまで、経営陣は取り消すべきではな い。社会全体が事故の真相を深刻に受け止めるべきだ。ぐ岼舵慳簑蠅肇札奪箸砲垢襪福「慰安婦 問題」で朝日を追い込むはずが、吉田調書問題でトップは退陣に追い込まれてしまっ た。攻撃側は拍子抜けしている。ただし後に大きな禍根を残すことになるだろう。 朝日の何を守るのか。社長が辞めたとしても、過剰対応した体質まで社内に残すべき ではない。守るべきは自由な気風だ。これは全メディアに言えることで、それを実現 するのはわれわれ国民の責任だ。

■歴史の転換点にきている

第二部で青木理さん(ジャーナリスト)は、「メディアに誤報はつきものだ」と開口一番。、 「自分も数知れず誤報をしたがばれなくてよかった」と明かし、参加者の笑いを誘っ た。「それでも日本を代表する新聞であることに異論はないだろう。それゆえ世論か らの批判は仕方がないにしても、問題はやりかただ」と指摘。「売国奴」や「反日」 などという批判をすべきではないと強調した。 そもそも「国益」とはいったい何か。ジャーナリズムが守るのは「市民益」だ。「ヘ イトスピーチが堂々と街頭に出ている現状を考えると、歴史は大きな転換点にきてい る。今回の問題は朝日だけのものではない、歴史的事件であり、すごく危機感を持っ ている」。青木さんはゆっくりと、静かに問いかけた。

この日の集会には、朝日新聞から複数の現役記者も駆けつけた。大阪本社社会部のT さんは、正式な社内手続きを経て発言者に加わった。 97年入社。慰安婦問題(特集)取材班に身を置いた。「悶々としながら記事を書き、 反省の連続だったが、影響の大きさを考えると、その責任は背負っていかねばならな い」。

■外の人々とつながって

8月以後の推移のなかで「OBに任せずに、現役が表に出て発言をしなければならな いと感じていた」という。Tさんは淡々と、このかんの経過を振り返った。 社長会見では他社から「朝日はもはや自浄能力がないのではないか」と質問され、 悔しさが頂点に達した。慎重に言葉を選ぶTさんの、複雑な胸の内が伝わってく る。それでも「うちにこもっていてはいけない。外の人とつながらなければ」と決意を 示すと、参加者は大きな共感の拍手で応えた。 「T君を独りにするわけにはいかな い」――舞台横では、先輩にあたる現役のK記者が見守っていた。

アジアプレスの野中章弘さんは、言論機関内部に言論の自由がない現実を告発した。 記者である前に社員である。社外での発言を許さない。組織が社員を縛っている。 「朝日だけが防波堤となり、権力と対峙しうる力を持っていると、僕は思っていた」 と吐露した。「1万人の職員を擁するNHKが誤報事件の後、誰一人として公の場で語らな いのは、本当に異常なことだ」。

■ジャーナリストを守れ

「表現の自由を守らねばならない最後の砦が崩れている。次は東京新聞、そして沖縄 の新聞が権力の攻撃にさらされるだろう。これは大変な事態だ」と危機感を募らせ た。 ここ5―10年が大きな正念場になるという。なら私たちは、いったいどうすればいい のか。「言論機関で働く良心的なジャーナリストを守ることだ」。「組織はあてにな らない。社員ではなく、右派や権力のほうを向いてしまう。最後に闘えなくなること は、戦前の歴史を見てもわかる」。「最後には個人が、一人ひとりが踏みとどまるし かない。個の強さがジャーナリズムを支える。それが一番大事なことだ」。野中さん は力を込めた。「地道にきちんと仕事をしている人たちを支え、守ることが、民主主義 を守ること」。その主張は明快だ。

全3部構成の長丁場。会場を埋めつくした参加者は最後まで、パネラーの提言に熱心 に聞き入った。退出時間の9時を過ぎても議論は続いた。他にも貴重な提言が多数 あったが省略した。

NHKや朝日新聞という巨大組織は、本来守るべき表現の自由や言論の自由を自ら投げ 捨て、その下で働く記者を管理・統制して、自己保身に汲々としている。

「私も権力に負けないように強くなろう」――50年間朝日新聞を取り続けてきた来場 者の女性は、司会者に指名されてマイクを握った。闘うジャーナリズムの命運は、私 たち一人ひとりの、そんな決意にかかっている。(Y)

前記にない発言者は、以下のとおり(敬称略)
・山口二郎(法政大教授)
・辰濃哲郎(ノンフィクション作家)
・新崎盛吾(新聞労連委員長)
・永田浩三(武蔵大教授)
・雨宮処凛(作家)
・平井康嗣(週刊金曜日編集長)
・朝日新聞労組−新聞研究委員会


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