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メーデーによせて〜歴史から学ぶこと

弁護士 萩尾健太

 憲法28条は「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は、
これを保障する」と労働基本権を保障しています。それらは「人類の多年にわたる自由獲
得の努力の成果」(憲法97条)であり、「侵すことのできない永久の権利」(憲法11
条)です。

  「人類の多年にわたる自由獲得の努力」の過程で、労働者は多くの弾圧を受け、それを はね退けて、ようやく労働基本権は獲得されたのです。フランス革命などによって成立し た近代市民法は、私的所有と契約自由、平等な人格を基本原理としていました。しかし、 資本主義社会では、実際は、資本家のみが工場などの生産手段を私的所有し、資本家と労 働者との間の契約は自由な契約ではなく、労働者は資本家に従属することになります。そ れに対し、労働者が資本家と対等な契約を結ぶためには団結して労働組合を作ることが必 要です。

  しかし、それは、資本家の側から見れば、労働者と資本家の「自由な契約」を阻害し、 資本家の営業の自由を侵害することになります。そこで、19世紀の前半まで、ヨーロッ パでも団結は禁止されていました。しかし、どんな弾圧を受けても労働条件の向上を求め て団結する労働者の運動を押しとどめることはできず、19世紀後半には、ヨーロッパ各 国で団結禁止法が改正され、労働組合が「結社の自由」として認められるようになります 。しかし、それでも団体行動権が認められていたわけではなく、労働運動は激しい弾圧を 受けます。その例として、ヘイマーケット事件を紹介します。

  1886年5月1日、1日14〜15時間労働が当たり前という厳しい労働条件を打破 し「8時間労働制」を求めて、アメリカのシカゴを中心に約35万人の労働者がゼネスト を決行しました。結果、18万人の労働者が経営者に「8時間労働制」を約束させました が、スト中の労働者4人が警官隊に殺害されました。それに抗議して、5月4日夜市内の ヘイマーケット広場で集会が催されたとき、解散を命じる警官隊に爆弾が投ぜられて衝突 がおこり,警官側死者7人を含む多数の死傷者が出ました。犯人不明のまま、警官殺害を 教唆したとの罪で8人の労働組合指導者が裁判にかけられ,4人が絞首刑、他の4名(う ち1人は、獄中で自殺)が禁固刑となりました。経営者側はこの裁判によって労働組合側 を世論から孤立させ、8時間労働制の協約を次々に破棄しました。(後に州知事はこの裁 判が不当であったとして、3名の指導者を解放しています。) 絞首刑とされたアウグスト=スパイスは、判決後、法廷で次のように陳述しました。 「虐げられた数百万の人々が、悲惨と貧窮の中で労苦している数百万の人々が救済を求め ている運動、労働運動を、 私たちを絞首刑にして踏みにじることができると思うなら、それが君たちの見解だという のなら、死刑にするがいい! ここで君たちは火花を踏みつぶしている。だが、あちこちで、君たちの背後で、君たちの 眼前で、いたるところで、炎は燃え上がる。これは地下の火だ。 君たちに消すことなどできはしない。」 その言葉の通り、アメリカの労働者は、1890年5月1日にふたたびゼネストを行な うことを決め、第2次インターナショナルに「同じ日に同じ要求で行動すること」をよび かけました。これにヨーロッパの労働組合が呼応し、1890年5月1日が第1回の国際 メーデーとなりました。

  さらに、第1次世界大戦後、戦争への反省と、社会主義を目指す国家が成立するという 国際情勢の変化のもとで、1919年のILO(国際労働機関)総会は「1日8時間・週 48時間」労働制を第1号条約に定め、国際的労働基準として確立しました。その後、各 国で団体行動権が保障され、民事免責(※)、刑事免責(※)が確認されるようになりま した。さらに、第2次世界大戦後、国際連合は「団結権が保障されていれば労働組合が抵 抗勢力になって大戦は起こらなかったかもしれない、戦後にILOが最初にやるべきこと は、団結権を保障することである」との強い要請を行いました。その結果、ILO87号 結社の自由条約(1948年)、98号団結権および団体交渉権条約(1949年)が相 次いで採択されました。こうして団結権が世界的に保障されるに至ったのです。  国際連合も、世界人権宣言(1948年)10条で結社の自由を保障し、同宣言を具体 化した国際人権規約A規約(1979年)8条で、労働組合の結成、加入、活動、ストラ イキの権利を保障しています。

  その流れの中で、日本ではアジア太平洋戦争の惨禍への反省のもとに、憲法28条に労 働基本権が明記され(1947年)、労組法(1949年)1条2項で団体行動権行使に 対する刑事免責、8条で民事免責が確認され、7条で使用者による団体行動権の侵害は不 当労働行為として違法とされるに至りました。

  しかし、今再び、18世紀さながらに労働法制を「不自由な規制」と捉える新自由主義 のもとで、労働者・労働組合への不当弾圧が増えてきているのです。

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