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LNJ Logo 参院選挙の結果を受けて(追記)〜東京選挙区の画期的成果について/黒鉄好
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7月21日投開票の参院選挙の結果については、すでに拙稿「参議院選挙の結果を受けて〜前進する市民、後退する政治」(レイバーネット日本 http://www.labornetjp.org/news/2013/1374590169276zad25714)で詳しく論評した。東京選挙区に関して言えば、23日付東京新聞社説(山本太郎氏当選 「脱原発」求めるうねり http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013072302000131.html)が論評するように、5人の当選者のうち3名が脱原発の候補者。民意との間にねじれはなく、筆者は満足している。

事前の予測報道では、山本太郎さんは最後の5議席目を鈴木寛氏(民主)と争っている…という下馬評だったので、4位当選、夜9時過ぎという早い段階での当選確実にとても驚くと同時に、武見敬三氏(自民)と鈴木氏が5議席目を争っているのを見て意外な感じを受けた。武見氏はもっと楽に当選を決めると思っていたからだ。最終的には、何とか鈴木氏を退けたものの、メディア各社が武見氏の当確を打ったのはようやく日付も変わろうとする頃だった。

トップ当選を果たした丸川珠代さんをはじめとして、自民党候補のほとんどは開票開始の夜8時と同時に当選確実となり、早々と大勢が決まった。そんな無風選挙の中で、これほどの苦戦を強いられた自民党候補は(落選者を除けば)武見氏くらいだろう。

前回(6年前)の参院選で、自民党は候補者を丸川さん1人に絞り、武見氏は比例区から出馬し当選した。今回の選挙では、自民圧勝の流れを見た安倍首相の意向で武見氏を比例区から選挙区に鞍替えさせたと言われる。もともと選挙区に地盤のない武見氏だけに、無理に2人を擁立して落選となれば、安倍執行部の責任にもなりかねなかった。

私は、他の自民候補が楽々と当選してゆく中、武見氏1人が苦戦しているのを見て、逆に「この候補者の裏には何かがあるのではないか」との疑問を抱いた。調べてみると驚くべき事実が浮かび上がったので、鈴木氏とともにお伝えする。この事実を知れば、脱原発派の2人の候補(吉良よし子・山本太郎)の3位・4位当選がどれほどの快挙かわかる。その画期的成果をみんなで確認しておくことは、政治的に十分な意味を持つと思うからだ。

●モルモット県民調査の支援者、武見氏

武見敬三氏の父は、元日本医師会長の武見太郎氏。その経歴のためか、武見氏には「医師会のサラブレッド」との評価もある。自身は東海大学教授を務めるかたわら、2012年3月から福島県立医科大学客員教授も兼ねる。

福島県立医科大学と聞いて、ピンと来た人は多いだろう。福島県民を避難させず、事実上モルモットにして「県民健康管理調査」を続ける大学だ。武見氏の県立医科大学での役割は、同大のサイトによれば「県民健康管理調査支援(外国人支援、評価、調査結果活用等)、国際的発信(広報、国際会議等)、人材育成支援、国際機関等との連携」となっている(http://www.healthcare-epikyoto-u.jp/news/uploads/18_2.pdf)。県民健康管理調査検討委のメンバーではないが、その周辺業務を任されている人物であることは、この資料から一目瞭然である。かの山下俊一・福島県立医大前副学長(現在は任期を終え長崎の大学に帰任)が主導する「モルモット県民調査」の後方支援を今なお続けているのだ。

(県民健康管理調査の恐るべき実態については、拙稿「黒鉄好のレイバーコラム 第10回・被曝地フクシマで進行する戦慄の事態〜ついに刑事告発された御用学者・山下俊一らの大罪を問う!」 http://www.labornetjp.org/Column/20110719kuro を参照)。

今回の選挙で、日本医師会の政治部門である日本医師連盟は羽生田たかし氏(比例、自民6位で当選)を推薦しており、武見氏自身は医師連盟推薦候補ではなかったが、元日本医師会長の息子という血統の良さから「個人的に支援」「個人的に投票」した日本医師会員は多かったのではないか。比例区の羽生田氏とは競合しないので、東京在住の医師会員の中には「選挙区は武見、比例区は羽生田」という投票行動を取った人も多いであろうことが推測できる。

●「SPEEDI隠し」「20mSvの主犯」説が流れた鈴木氏

一方、落選した鈴木氏だが、こちらも武見氏に勝るとも劣らない。福島原発事故当時の文部科学副大臣だ。文部科学省は、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の所管省庁であると同時に、学校内における子どもの安全管理も担当する。

文部科学省は、SPEEDIが実際にはかなりの精度を持ち、シミュレーションの結果も実際の放射能汚染状況をほぼ正確に反映していながら、「信頼性に欠ける」としてなかなか公表しなかったことが情報隠ぺいと批判を受けた。また、事故前までは一般公衆の年間被曝線量を1ミリシーベルト以内とするICRP(国際放射線防護委員会)勧告がありながら、子どもの学校利用基準を一気に年20ミリシーベルトにまで引き上げる「改悪」を行い、市民の激しい抗議を受けた(いうまでもなく、成人のみを対象とした原発労働者の被曝基準でさえ「年50ミリシーベルトかつ5年で100ミリシーベルト以下」であることを考えると、この基準は殺人的である)。

この基準が決められた直後の2011年5月、20ミリシーベルト基準の撤回を求め、母親を中心とする市民が文科省と交渉したが、文科省からは官僚である次長が出席しただけで政務三役(大臣・副大臣・政務官)の誰も参加しなかった。交渉に参加した女性のひとりが「福島からわざわざ基準撤回のため交渉に来た母親もいるのに、文科省は決定権のある幹部も政務三役も出さず、次長でお茶を濁し「要望は承る」という姿勢。雨が降る中、屋外にも入れず、冷たいコンクリートの上に座らされた。こんな冷酷な交渉は初めて」と語るほど酷いものだった。

鈴木氏は、山本太郎さんからツイッターでこの点を攻撃されると「事実無根」「ネガティブ・キャンペーンだ」とむきになって反論した。おそらく「(基準を決めたり隠ぺいしたのは)自分ではない」と主張したかったに違いないが、そもそも山本さんが問いたかったのはそんなことではない。事務方の情報公開が遅く、また事務方の策定した基準が間違っていると思うなら、それこそ民主党政権お得意の「政治主導」とやらでひっくり返せば良かったのに、そうしなかった政治的不作為の責任を問うているのだ。

鈴木氏のヒステリックな反応は、結局のところ、民主党議員の大半が口では政治主導などと威勢のいいことを言いながら、実際には政治家と官僚の役割分担すら理解できていなかった事実を余すところなく示した。こんな政党がつい7ヶ月前まで政権にあり「政治主導」を進めていたかと思うと寒気がしてくる。少なくとも鈴木氏に政治家の資格はなく、落選させた都民の判断は賢明である。

今回の参院選で東京都民は、「SPEEDI隠し」「20ミリシーベルトの殺人基準」をみずから決めたのではないとしても、事務方のその決定を政治家でありながら覆すこともなく黙認した鈴木氏を落選させ、福島で「モルモット県民健康管理調査」のお先棒を担ぐ「医師会のサラブレッド」を、他の自民候補が楽々と当選を決めていく中で、ようやく日付も変わる頃になって青息吐息の最下位当選をするのがやっとのところまで追い込んだ。しかも、吉良よし子、山本太郎の脱原発2候補に彼らより多い票を与えることに成功したのである。市民、とりわけ女性や子どもの健康と命を軽んじる者がどれだけ哀れな末路をたどるか、票を使って見せつけることができたのだ。これを快挙と呼ばずしていったい何と呼ぶのだろうか。

子どもの命を守りたい…その純真な思いで3.11以降、無我夢中で走り続け、金曜日になれば官邸前に通い続けた市民たちの鮮やかな勝利である。すでに市民たちは、「年間100ミリシーベルトの放射能を浴びても健康に影響はない」に代表されるウソを垂れ流し続けたエセ医学者の巣窟、日本医師会に対し、1ミリシーベルトを対置することで科学的に勝利したが、今回の参院選を通じ、少なくとも東京では政治的にも勝利した。福島原発事故から2年4ヶ月、事故の風化が叫ばれる中でも「お母さん革命」は生きていたのだ。

●私たちの目指すべき「科学」とは

『日本学術会議の発足に当たって、戦時中のわが国の科学者の態度については反省すべきか否かが問題になったとき、多数決で特に戦時中の態度については反省する必要はないという事になった…とくに医学部門の人たちは一致して強く、戦時中の反省を必要としないと主張した。…旧憲法によって協力したのであるから当然の事であるというのである』。武谷三男著『科学と技術』(勁草書房、1969年)にこんな記述がある。「国策だから自分たちの責任ではない」と戦争責任を回避する科学界で医師たちは主導的役割を果たした。こんな体質だからこそ「(子どもの被曝限度)年間100ミリシーベルトは国が決めたことだから日本国民は従う義務がある」(山下俊一・福島県立医大前副学長)という暴言も生まれたのだ。彼らには原発事故の責任はもちろん、戦争責任もきちんと負わせる必要がある。今からでも遅すぎるということはない。

こうした恥ずべき医学界に対し、私たち市民はあるべき科学の姿をどのような対案として示すべきであろうか。その答えは明確だ。一貫して反核・反原発の立場から行動し続けた市民科学者・高木仁三郎はこのような言葉を私たちに遺している。

『科学者が科学者たりうるのは、本来社会がその時代時代で科学という営みに託した期待に応えようとする努力によってであろう。…社会と科学者の間には本来このような暗黙の契約関係が成り立っているとみるべきだ。としたら、科学者達は、まず市民の不安を共有するところから始めるべきだ』。

子どもたちの健康に不安を抱える母親たちの不安を笑い飛ばし、まじめに向き合わなかった医学界のとどまるところを知らない腐敗。選挙で勝利はしても、医学界を覆う問題は何一つ解決されていない。御用科学・エセ科学を徹底的に批判し、新たな市民科学の姿を提示することこそ、私たちに課せられた課題である。

(2013.7.24 黒鉄好)

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

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