笹子トンネル天井板落下事故現場を取材 | |||||||
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笹子トンネル天井板落下事故現場を取材黒鉄 好2月3日(日)午後、中央自動車道・笹子トンネル天井板落下事故現場が中日本高速道路(株)(NEXCO中日本)によって報道関係者向けに公開された。レイバーネット日本もこの現場に入り、主要メディアに混じって取材を行った。 この日、取材に入ったのは、在京及び地元・山梨県のメディア各社、自動車業界・建設業界の専門紙(誌)2媒体のほか、レイバーネットを含むインターネットメディア2媒体。NEXCO中日本が用意した3台のバスに分乗して現場に向かう。JR甲府駅から国道358号線を走り、甲府南ICから中央道へ。大月ICで中央道を降り、しばらく国道20号線(笹子トンネル事故後、中央道が通行止めだった時期に迂回路として使用され、大渋滞した)を走った後、東京方面出口から逆走する形で事故現場の上り線トンネルに入った。 ●現場に入る 現場に設けられた献花台の前で全員が黙祷した後、NEXCO中日本担当者がトンネルと事故の概要を説明。事故原因に関する質問には「事故調査委員会が調査中」であることを理由に「答えられない」とのこと。NEXCO中日本の説明ぶりから、事故原因調査は自社の手を離れたという同社の認識がうかがえた。「9名の貴い命を奪ってしまったことに対し、心からお詫びを申し上げます。現在、山梨県警と国の事故調査委員会が原因調査に当たっており、当社として協力していくとともに安全対策を講じていきたいと考えています」との説明があった。その後は撮影時間が設けられた。
改めてトンネル内部を見る。落下した天井板はトンネル開業時、排気ガスをトンネル外に排出するための通気口を設ける必要から設置されたもので、走行車線側が排気ダクト、追越車線側が送気ダクトとなっていた。路面から天井板までは4.7メートル、天井板から天井の最も高いところまでは5.3メートルとなっており、事故当日は4.7メートルの高さから天井板が落下、走行していた自動車が巻き込まれ9人が死亡した。
天井板が撤去されたトンネルは、天井が最も高いところでは路面から10メートルあることになり、一般のトンネルと比べても天井がかなり高く感じられる。初めて姿を現した天井には、セメントに含まれる石灰の成分が遊離して白く浮き出していた。これは、雨水や湧水によるものと考えられ、長い年月の経過を感じさせる。
この他にも、笹子トンネル内部にはNEXCO中日本による点検で多くの損傷が見つかっており、改めてトンネルの老朽化を感じた。
天井板が落下した付近では、落下を感じさせる生々しい痕跡が残されていた。
笹子トンネル上り線は、12月2日の事故発生以来2か月以上にわたって通行止めとなり、下り線を使った対面通行が行われてきたが、2月8日に通行止めが解除されることになっている。今回の報道関係者向けの公開は、事故の記録を後世に残したいとの遺族の強い要望を受けて実現した。事故現場の公開自体は非常によいことだと思う。 現在、同型の天井板が設置されているトンネルでは、落下を防ぐため天井板の撤去が行われている。排ガスに対する規制が今ほど厳しくなかった当時は必要だった大規模な通気ダクトも排ガスに含まれる有害物質の減少によって今では不要になった。今こそ全国のトンネルを総点検し、この型に限らず危険なものには抜本的対策を講じるべきだ。 ●事故原因は? いくつかのメディアから事故原因に対する質問が出たが、事故原因に関する質問には回答できないとの事前の説明通り、NEXCO中日本側の口は堅かった。NEXCO中日本の姿勢からは、国の事故調査委員会が調査を行っている最中に予断を与えるような発言を、当事者である同社が行うべきでないとの配慮もにじむ。 筆者は、仕事上付き合いのある建設業者に、事故発生直後の昨年12月、この事故の件を聞いてみた。「私は建築屋で、土木の世界は建築と少し違うところもあり、何とも言えませんが」と前置きした上で、彼は続けた。「建築屋なら、コンクリートが固まってしまった後で天井に穴を開け、アンカーボルトを差し込むようなことはしません。数トンの重さの天井板を支えるのに、それでは強度が足りませんよ」。 では建築屋はどのような工法を採るのか、との私の問いに対しては「我々なら、先にアンカーボルトを入れてからコンクリートを固めます」と彼は答えた。もちろん、土木にはまた違う世界があるのかもしれないが、短期間に突貫工事を行ったことによる工法ミスの可能性もあるのではないか、と感じた。 現在、捜査当局による捜査と並行して、事故で亡くなった若者5人の遺族がNEXCO中日本を刑事告訴する構えも見せている。今後、事故の責任がどのように追及されるのかにも注目したいと思っている。 ●問われる公共事業のあり方 「コンクリートから人へ」を訴えた民主党政権の崩壊により自公政権が復活。野田政権末期から鮮明になった「人からコンクリート」への流れは、安倍政権でさらに大逆流になろうとしている。民自公3党の協議により、「社会福祉財源を捻出する」との建前で国会に提出された消費税増税法案は、附則に「事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」という条文が盛り込まれ、公共事業ばらまきの道具へと大きく変質させられた。消費税増税法案は昨年6月29日に衆議院を通過したが、その日のうちに北陸新幹線の福井までの建設延長が決定されたことを私は偶然とは思わない。 その上、自民党の「国土強靱化総合調査会」会長には、自民党最後の大物利権政治家といわれるあの二階俊博衆院議員(和歌山県選出)が就任した。二階氏といえば、自分の後援会メンバーが乗った大型機(エアバスA300)を離着陸させるためだけに、地元の南紀白浜空港に新滑走路を造らせたと言われるほどだ(参考:「腐った翼〜JAL消滅への60年」森功・著、幻冬舎、2010年)。 このような人物を国土強靱化総合調査会長に据えた自民党の「公共事業」が何を意味するかは言うまでもないだろう。ハコモノ建設最優先の一方で、儲けの少ない危険な施設の改修には予算が配分されない旧来型公共事業の復活では意味がない。国民の命と安全を守るために真に必要な事業にこそ優先的に予算が配分される新しい公共事業政策を、知恵を結集して築き上げていく必要がある。それこそが、この暗いトンネル内で散っていった9つの命に報いる唯一の道である。 〔2013.2.3(日) 笹子トンネル事故現場にて 分析:黒鉄好〕 Created by staff01. Last modified on 2013-02-04 23:24:11 Copyright: Default |