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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『少女は自転車にのって』
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●ハイファ・アル=マンスール監督『少女は自転車にのって』  

憧れの自転車を手に入れるまで

 映画はのぞき窓だ。

 さまざまな国の仕組みから風俗までも見ることができる。サウジアラビアの『少女は自転車にのって』を観て、まかり通る女性差別に唖然とした。

 この映画、首都リヤドを舞台に10歳の女の子ワジダが、男の子のように自転車に乗りたいと願ってあれこれ手を尽くして遂に成しとげるシンプルな物語なのだが、そこから国のかたちが見えてくる。

 学校はイスラムの戒律が厳しく、男女は別学。女子は黒ずくめで、男子は自転車で通学できるが女子は禁じられている。女性校長が校舎の前に立ち、「ヒジャブ(スカーフ)を被りなさい」「男性に声を聞かれる」などと口うるさい。

 ワジダの家をはじめ庶民の家々は割と大きく、さすが世界最大の産油国と思わせる。大通りは車の往来が激しく、車社会とわかる。しかし女性の運転は禁じられ、ワジダの母は通勤に共同タクシーを使っている。父は石油関連の現場で働いているが、後継ぎの男の子がほしいと第2夫人を娶ろうとしている……。このように、いびつな社会が少しずつ顔をのぞかせる。

 そんなある日、ワジダは学校帰りに軽トラックで運ばれる1台の新品の自転車を見かけて追いかける。自転車は雑貨屋の前に展示され、彼女が目を輝かせて見つめていると、店の主人が「800リアル(約2万2000円)だよ」と冷や水を浴びせる。

 自転車を小道具にした映画といえば、キルギスの『あの娘を自転車に乗せて』やベルギーの『少年と自転車』が思い浮かぶが、いずれもラストに感動した。この映画の風を切って突っ走るラストも爽やかだった。が、さて、彼女は高価な自転車をどうやって手に入れたのか――これが映画の見どころとなってている。

 実はこの映画、サウジでは公開されていない。法で映画館の設置が禁じられているからだ。なんという国だ。それでも女性監督のハイファ・アル=マンスールは、車に隠れて撮影の男性陣に無線で指示したというからすごい。(『サンデー毎日』2013年12月29日号)

*東京・神保町の岩波ホールで公開中。

〔追記〕この映画の原題は『ワジダ』で、主人公の少女の名前からとっています。それが邦題では『少女は自転車にのって』となったので、ちょっと驚きました。というのも、3年前に出したわたしの本のタイトルが『映画は自転車にのって』(績文堂出版)だったからです。この本はとてもよく売れました? 自転車ファンが意外と多かったからでしょう。わたしはいまも自転車にのってあちこち出かけています。ただし、サドルに座れないので立ちこぎしながらスーイスーイと。坂道ではハアーハアーと。わたしには「秘密」はありません。来年も声を上げていきましょう。ところで、来春にまた新しい本を出しますので、よろしくお願いします。


Created by staff01. Last modified on 2013-12-26 10:41:28 Copyright: Default

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