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〔書評〕『15歳からの労働組合入門』(東海林智著)

体当たりで聞き一緒に泣いた!

                          北 健一(ジャーナリスト)
 著者、東海林智さんは毎日新聞社会部で健筆をふるう日本を代表する労働記者なのだが、これの本は新聞記者らしくない。最先端の労働問題(争議)を取り上げているのに、相手企業のコメントが載ってないし、ゲバラTシャツを着た「自分」が出てきて、しかもたいがい泣いている。

 誤解を恐れずに言えば、これは労働問題を描いた作品ではないのかもしれない。では何を描いたのか。徹底して「人」を描いた作品なのだ。

 たとえば三菱ふそうで雇止めされた鈴木重光さんが、「誰にも心を開かず、他人とも関わりを持たない」で自分を守っていた姿に接することで、読者は、ユニオンとの出会いとその後の歩みの意味が腑に落ちる。

 私も、日雇い派遣で生計を立てていたことがあって、鈴木さんの気持ちに当時の自分がすっと重なる。ここのところをわかっている人は、意外と少ない。だから「労働法の知識がないから、非正規は黙っている」などという薄っぺらな議論が横行するのだが、事態はもっと深刻だ。脅かされているのが生存そのものであることを、人情派記者は体当たりで聞き出し、一緒に泣き、新聞には書ききれなかったことを綴って読む者を引き込んでいく。同業者の端くれとして、行間から浮かぶ濃密な取材はまばゆく、妬ましい。

 派遣切りとその後、ダブルワークの高校生、過労死、秋田書店事件、ガソリンスタンドの職場再建……取り上げられるトピックスはそれぞれに重要だが、そこで悪戦苦闘する人々が「つながり」のなかで変わっていこうとする姿の活写こそ、私たちを惹きつける。その意味で本書は、すぐれた告発の書であるばかりでなく、人がつながりの中で自分を取り戻し拓かれていく物語なのだ。

人を描くために、著者は、まず自分をさらけ出す。話は、時として噛み合っていないようにも思えるが、働く若者の絶望と希望が熱い文章を通じて私たちの胸に迫る。とくに、派遣切りされたマリンさんと彼女の友人のくだりには、不覚にも涙が止まらなかった。

帯にある「労働組合の新たなヴィジョン」はどこに出てくるのかと読み進むと、巻末にPOSSEの今野晴貴さんと首都圏青年ユニオンの神部紅さんと著者の座談会が収録されている。その趣は本文とはかなり違い、とくに労働運動に携わる者に触発的だ。

職場に基礎を置かない運動スタイル?について、私はやや違う意見だが、「働き方をめぐる新しい社会運動」の萌芽のようにも思える。限定正社員をめぐって今野さんが言う「今までの日本型雇用では、結局は会社の命令をすべてきかなくてはいけない」という指摘も違和感があるのだが、この予定調和でない議論に加わりたくなってくる。

労働組合を基盤とする出会いとつながりが、企業によって傷つけられた人間を再生する場になりうることを鮮やかに描いた本書が、切実に必要とされる人に、届いて欲しい。祈るような気持ちで、強烈なインパクトの表紙の本書を閉じた。

*毎日新聞社刊・1400円(税別)


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