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LNJ Logo 大日本秘密帝国の悪夢〜牧子嘉丸のショート・ワールド
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第4回 2013.11.19

大日本秘密帝国の悪夢

ある朝、奇怪な夢から目覚めた私は、思い切り体を伸ばしてみた。手足から触角が生えたり、背中が甲羅に変わったりもしていなかった。顔を撫でまわしてみると、ちゃんと鼻もついている。しかし、どうしても胸騒ぎがおさまらず、玄関に飛び出した。犬小屋をのぞくと、白いむく犬のチャッピーが棍棒のような尻尾を振って音をたてていた。大丈夫、茶色の朝が来たのでもなかった。ようやく安心して新聞を手にした時、「『何が秘密、それは秘密』法案、成立」の大見出しが飛び込んできた。

紙面はほとんどの活字が黒く塗りつぶされていて、欄外に「本法案成立により、秘密保護のため秘匿部分は伏せ字にしてあります。印刷ミスではありません」と注意書きがある。そんな馬鹿な。テレビをつけると、アナウンサーが「いわゆる『何、それ』秘密法案が本日未明に国会で成立。これによって、パクパクとパクパクの四ブンヤは、パクパクのため、パクパクされることになりました」と喋っている。何じゃ、これは、と思っていると、画面の下に特定秘密保護のため一部音声をカットしております、とテロップが流れた。何が一部だ、全部じゃないか。


   *作 : 壱花花「秘密がいっぱい」

そうだ、こんな時にたよりになるのがレイバーネットだ。私はパソコンに向かった。すると画面に、NOT FOUND 、お探しのページは見あたりません、と出て来た。まさか、削除された!?。 私は仰天して友人に電話をかけた。「おい田中。一体これどうなってんだ。何、声が大きい。盗聴されてるかもしれない。もう地下に潜るか、亡命するしかないって。」お前はスノーデンか。いつからそんな大物になったんだ。ただのゲームおたくだろうよ。

この重苦しさは何だろう。私は街に出た。新宿のアルタ前に立つと普段と変わらぬ人ごみだ。見上げると、テレスクリーンに真っ赤な唇に人差し指を立てた美人がアップで映っている。口紅の宣伝か。つぎは真っ赤な爪先でまぶたを覆っている。これはマニキュアだな。すると今度はいきなり耳の穴に指をつっこんだ。同じ場面が繰り返し流されている。こりゃ、一体何の宣伝だ。

私は映画街に出た。「ザ・シークレット」というタイトルの映画に大ヒット上映中という垂れ幕がかかっている。「秘密は永遠(とわ)の闇の中へ」というキャッチコピーにひかれて、ストーリーを見た。謎の秘密を知ろうとしたトムは地位も名誉も奪われ、平穏な日常から追われて友人家族も失い、無間地獄をさまよいつづける。その先に待ち受けるのはさらなる過酷な運命だった。

凄い内容である。一体トムはどこまで苦しめばいいんだ。そして、「あの映画批評の巨匠木下昌明氏をして完全に理解を超えた、と絶賛された社会派ドラマの一大傑作」と宣伝している。理解を超えた絶賛があるのかよ。私は頭がクラクラしながらやっとの思いで家に帰ってきた。

どっと疲れを感じて眠り込んでいると、ピンポーンとチャイムの音で起こされた。「こちらは○○署の生活監視課の者ですが、今何されてます。何もしてないって。おかしいな、こんな昼間に一人で。何か隠し事してませんか。ちょっと出てきてください。何、プライバシーの侵害だって。こっちは怪しいと思ったらテロ容疑で何でもしょっぴけるんだ。さあ出てこい」

私は寝床の中でふるえていた。するとバタバタと足音がして、いきなり布団をひっぱがされた。「いったい、いつまで寝てるのよ。また飲み過ぎて二日酔いだなんて。もう、さっさと起きて」といういつもの妻の声が聞こえてくるはずだった。それで、この悪夢も終わるのだ。

私は安心してゆっくり薄目をあけると、そこには警官が立っていた。

*連載「牧子嘉丸(まきこよしまる)のショート・ワールド」は月1回程度の頻度で掲載します。


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