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LNJ Logo 架空インタビュー「ある口元調査官のつぶやき」(牧子嘉丸のショート・ワールド)
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 第3回(2013.10.20)

架空インタビュー「ある口元調査官のつぶやき」

そら土地柄やから、いろいろ変わった先生もおります。雨ふったから休む、阪神が負けたから休むとかね。忌引でよう欠勤するんで、調べたらみなウソや。河内十人切りやないけど、何人殺したらええねん。言うときますが、生徒やのうて、先生でっせ。

それから世間一般の犯罪もたいがいのことはあります。飲酒運転から盗み・万引き、覚醒剤にギャンブル、生徒へのセクハラに盗撮、それから先生同士の不倫も多いし、痴漢もおる。まあ、警察や役人も似たりよったりやけどね。

男ばっかりやおまへんで。最近ニュースになりましたやろ、あのデリヘルやっとった先生。家計のためならまだしも、ブランド品買いまくってサラ金に手だして、その穴うめにデリ嬢やっとった言うんやさかいどうしようもない。前代未聞ですな。

  

せやけどね、こんな連中は私らにはどうってことおまへんねん。もっとたちのわるいのがおります。そう、あの式に起立せん、歌をうたわんちゅう先生ね。

起立せい、せなんだら減給にするぞ、停職にするぞとさんざんに脅かしてやっと立ったと思うたら、今度はマスクしたり、口を閉じて歌わん。それで口元をチェックせーいう話になってね。三回守らなんだら首にするぞと言うとるわけです。

実際口元チェック言うても難しい。私は、これから管理職にはドクシンジュツの講習が必要やと思うてます。人の心をくみとって大事にするためにかて。違う。くちびるを読む読唇術のこと。あんな辛気くさい歌、ほんまに歌うてんのかどうかわからん。口パクの場合もあるさかい、その次は声量調査やな。

なんで、そんな目の敵にするんやて。いや、これをゆるしたら秩序が守れませんがな。公務員なんやから、そら守ってもらわな。なに、例の民間校長のセクハラには大甘やないかて。あれは諜報活動やそうです。それに身内に甘いのは警察も役所もみな同じや。

だいたい、自分の信念や良心が許さんなんて、手前勝手な言いぐさが認められますか。思想信条の問題やない、式典の秩序・形式を守れ、いうだけのことです。それも一分間にも足らんことや。それぐらいのことがなんでんねん。世の中みんな嫌なことがまんして生きとるんですよ。私らはこれからも断固口元チェックしていきます。

しかし、なんでそこまでせなあかんのかて。まあ、そういう言う声は市民や現場の管理職にもある。たしかにええ年したオッサンが人の口元じろじろ見るのも情けない話や。そんなことが教育の仕事か、いうのも当たり前です。昔からいろいろあったけど、それがなんでこんなケッタイなことになってしもうたんやろな。

この先生らはね、最初言うたようなアホな教師とはちごうて、勤務態度もまじめで生徒や親の受けもよろしい。ただ黙って上の言うことハイハイ聞いとけばええのに、それがでけんちゅう難儀な連中や。ほんまにしぶとい確信犯やね。せやから恐い。

しかしなあ、よう考えたら、これがホンマもんの上方の気性やな。千利休や大塩平八郎はん、また西鶴や上田秋成、みなへんこつやど変人や言われても節を曲げなんだ。どうしても譲れんもんは譲れんと命を賭して守った上方文化の先人や。そう思うと、何の得もない、損ばっかりのことに自分の信念をかけとるこの先生らと一脈通ずるものがあります。権力にこびへつらうだけのようなもんばっかしの学校で、子どもに何を教えますんや。

こらいかん。あんたにのせられて、つい本音が出てしもうた。ここはオフレコやで。

おたくらのレイバーネットね、あれもちゃんとチェックしてますよ。情報満載で面白い。最近、ショートなんたらいう、しょーもないもんが載ってますな。え、なに、あれ、あんたが書いてはんのん。いやあ、こらえらいすんまへん。ホンマのこと言うて。

(この話は民主主義社会ではフィクションのような実話をもとにしたフィクションです。)

 *イラスト=壱花花

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〔著者紹介〕 牧子嘉丸(まきこ・よしまる)

「泥濘ー冬の日の森鴎外」で上林暁賞受賞。ラフカデイオ・ハーンの晩年を描いた「海の挽歌」や上田秋成の生涯をもの語る「秋成幻談」でコスモス文学賞受賞。以上は著作「海の挽歌」(彼方社)に所収。また昭和最後の日に大杉栄の亡霊とともに反逆する魂を描いた「曇天」などを収めた幻の異色短編集「花づな」(彼方社)がある。レイバーネットの連載・掌編小説「ショート・ワールド」では、「ショートであっても世界を描きたい」と意欲満々だ。月1回程度を予定。(写真=著者 10.13脱原発デモにて) 


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