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写真報告「アイヌ民族の遺骨と先住民族の権利を返して!」

 首都圏で「秋のアイヌ民族交流ウィーク」(2013年10月17日〜22日)開催
                              西中誠一郎

 10月18日の昼、「東大はアイヌ民族の遺骨198体をアイヌ民族のコタン(集落)に返還せよ!」という要求を掲げ、文京区本郷の東京大学「赤門前」に、2人のアイヌ民族と日本人支援者7、8人が集まった。

 東京大学は1877年に設立、1886年に「帝国大学」として改編されて以来、敗戦まで帝国植民地時代の日本の学府の頂点に君臨し続けた。植民地支配した民族を「野蛮な劣等民族」とし、社会進化論(ダーヴィニズム)や血統主義に基づく「優生思想」、万世一系の皇国史観などを正当化するための思想•理論研究を、政府や軍と一体になって推し進めてきた。先住民族のアイヌ民族も、「優勝劣敗」「適者生存の原理」から「絶滅人種」とされ、人種差別的な調査•研究が行われてきた。

 東大医学部や理学部には、現在も200体近いアイヌ民族の遺骨と副葬品、血液のサンプルなどが「保管」されている。明治以降1930年代にかけて、東京帝国大学はじめ北大、京大、阪大などの旧帝国大学が中心となり、アイヌ民族や植民地だった朝鮮、サハリンの先住民族、琉球民族などの墓から略奪し、「形質人類学」などの研究材料にしてきた。1980年にアイヌ民族の海馬沢博氏が、北海道大学医学部動物実験室に放置されていた1500体にのぼる遺骨の存在を告発して以降、「学問の府」による盗掘の実態や研究内容などの真相究明、遺骨と副葬品の返還を求める取り組みが始まったが、未だにその実態や経緯、責任の所在などは一部しか明らかにされていない。

 1995年には北大文学部の「旧標本庫」で6体の人骨が段ボール箱の中に放置されているのをアイヌ民族が発見し、「北大人骨の真相を究明する会」が結成された。真相究明の闘いの結果、うち1体の遺骨は韓国へ、また3体はサハリンへの返還を実現した。しかし残る2体については、北大は真相を明らかにせず、現在では話し合いにも応じていない。

 先住民族に対する人種差別的、優生学的な調査研究は、旧植民地宗主国であるイギリスやナチスドイツ、アメリカ、カナダなどでも行われてきた。これに抗議して、長年に渡る世界各地の先住民族による権利回復の闘いを経て、2007年に「先住民族の権利に関する国連宣言」が国連総会で採択された。日本政府もようやく重い腰を上げ、2008年「G8北海道•洞爺湖サミット」の開催直前に、衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、内閣官房長官談話に基づき「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」を開催し、2009年7月に「報告書」を作成した。その答申を受けて2009年12月に内閣官房アイヌ総合政策室「アイヌ政策推進会議」が設置された。

 しかし「有識者懇談会」の「報告書」では日本政府のアイヌ民族への侵略•収奪の歴史を「近代化政策」として是認し、民族自決権の剥奪についての反省や謝罪は一切なく、「今後のアイヌ政策のあり方」についても、「国民の理解の促進」、「生活向上」、「観光振興」、研究対象としての「アイヌ文化の伝承」といった傾向が強い。2007年の「先住民族の権利に関する国連宣言」で提示された「民族自決権」や「民族自治の権利」、「文化的伝統と慣習などの現状回復と補償」「宗教的伝統と慣習、儀式•遺骨の返還」など、全国各地に在住するアイヌ民族自身の権利回復の要求からは程遠いのが実情だ。

 「有識者懇談会」の報告書の中には、「広義の文化に係る政策」の体現として「民族共生の象徴となる空間の整備」が掲げられている。この「象徴空間」は「アイヌの精神文化の尊重 という観点から、過去に発掘・収集され現在大学等で保管されているアイヌの人骨等について、尊厳ある慰霊が可能となるような慰霊施設の設置等の配慮が求められる」とある。これを受けて「アイヌ政策推進会議」に「『民族共生の象徴となる空間』作業部会」などが設置された。同作業部会は2011年6月に「報告書」を作成した。「民族共生の象徴空間」を北海道白老町に設置し、そこに「慰霊•研究施設」を建設するとしている。

 2011年11月文科省は「アイヌの人々の人骨の保管状況についての調査」を全国488大学4法人に送付し、遺骨の数や保管状況を報告するように指示を出した。「アイヌ政策推進会議」の「政策推進作業部会」は2013年6月に最終調査結果を発表し、少なくとも全国11大学に1635体の人骨の「保管」が確認された。

 このような政府の動きに対して「アイヌ民族の団結と権利奪還に向けた共同宣言(2013年9月6日)」(よびかけ共同代表:【旭川アイヌ協議会】川村シリンツ エオリパック アイヌ、【現住、アイヌ民族の権利を取り戻すウコチャランケの会】石井ポンペ)は以下のように厳しく批判している。

 「アイヌ政策推進会議は、全国の大学が奪ってきたアイヌ民族の遺骨を白老に集中し、『慰霊•研究施設』を建設する計画を強力にすすめています。これは『慰霊』とともにDNAなどで『研究』するという絶対に許せない施設です。遺骨、アイヌ民族を侮辱するものです。」
http://pirikagento.jugem.jp/(「アイヌ民族の団結と権利奪還にむけた共同宣言」全文)    アイヌ民族を先頭にした、民族差別的な研究への抗議と奪われた遺骨や副葬品などの返還を求める行動は、北大に続いて阪大や京大に対しても開始されている。そして10月18日、初めて東京大学に対して「東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会」(「返還させる会」)が申し入れ行動を行い、2人のアイヌ民族、「旭川アイヌ協議会」の川村シンリツ•エオリパック•アイヌさんと「東京アイヌ協会」の宇梶静江さんも参加した。

 2人がアイヌの民族衣装に着替え、赤門から一行が構内に入ろうとした途端、数人の警備員が駆け寄り「本日、面会はできません」と入構を拒もうとした。それでも広い本郷キャンパスを横切って、本部棟に向かおうとすると警備員も着いてきた。

 すでに10月3日に「返還させる会」が、東大当局に対して「東大のアイヌ民族遺骨•副葬品収集について、話し合い(チャランケ)の申し入れ」を送付していた。「申し入れ」の要求項目の概要は以下の8項目。

(1)文科省「調査票」の記載に留まらず、アイヌ民族の遺骨と副葬品の総体について、収集の目的とそれに関与した人物を明らかにすること。

(2)「発掘人骨台帳」と「野帳(フィールドノート)」を全て明らかにすること。

(3)他大学や研究機関などから寄贈•委託され保管している遺骨・副葬品と、他大学や研究機関に寄贈・委託した遺骨・副葬品の明細を明らかにすること。

(4)「東京大学学内標本資料の概要」(1976年)によれば、「理学部人類学教室(人類遺伝学実験室)」にアイヌ民族の血液が保存されているが、誰から、何の目的で収集したのか明らかにすること。

(5)明治から昭和にかけて、東京帝国大学はじめ旧帝大で行われたアイヌ民族研究の指導者のひとりで、医学・解剖学・人類学者の小金井良精(こがねいよしきよ)教授の差別思想や、遺骨・副葬品を盗掘した実態と、現在も「医学部解剖学教室」前に立っている小金井教授の胸像に対する東大の見解。

(6)収集した遺骨・副葬品は謝罪と賠償の上、アイヌ民族のコタン(集落)に返還すること。遺骨がアイヌ民族に返還されるまでの間、アイヌ民族が主宰するイチャルバ(供養祭)を毎年実施すること。

(7)政府「アイヌ政策推進会議」が北海道白老町に建設を計画している「民族共生の象徴空間」の「慰霊・研究施設」への、アイヌ民族の遺骨の移管に、東大は反対すること。

(8)以上7項目の申し入れについて、10月18日にアイヌ民族も出席の上で話し合いの場を設け、総長、医学部長、理学部長、総合研究博物館館長が同席すること。

 しかし10月11日に東大総合企画部総務課から話し合いを拒否する回答があり、16日に「返還させる会」は再度話し合いの申し入れを大学当局に対して行っていた。11日の大学側の回答内容は、政府「アイヌ政策推進会議」が「民族共生の象徴空間」の整備を検討していることや、「文科省調査」以上の内容は答えられないというもので、大学の責任においては、7項目の要求内容に何も触れていなかった。

 しばらく歩いて「東大本部棟」に到着すると物々しい警備員に行く手を阻まれ、大学職員が出入り口を塞いだ。

「事前に申し入れをしたのに、何の理由もなく門前払いですか?北海道からアイヌ民族の人も来ているんですよ」「勝手に遺骨を盗んだのは誰?198体あるんですよ。闇に紛れて盗掘した骨だって、小金井教授自身が本に書いている!今でも研究材料にされているんですよ」「北大だって、話くらい聞きますよ。この対応は文科省の指示ですか?上司への対応ぐらいして下さい」。

 無言を貫く大学職員に対して、「返還させる会」のメンバーは詰め寄った。その傍らで成り行きを見守っていた「東京アイヌ協会」の宇梶静江さんは静かに怒りを込めてつぶやいた。

「その骨は生きている私たちそのものなのよ。警備さん、あなたも人間、私も人間。どうして関所はるの?」

 「秋のアイヌ民族交流ウィーク」参加のため、北海道から駆けつけた「旭川アイヌ協議会」代表の川村シリンツ・エオリパック・アイヌさんは、少し離れたところからじっと見つめていた。

 しばらく本部棟の前で押し問答が続いた。やがてパトカー2台が大学構内に乗り付け、10人近い警官が近寄ってきた。大学が呼んだようだが、事情も分からずにうろうろしていた。

「骨を大地に返して下さい。人間の骨ですから、人間の魂ですから、返してやって下さい」

 宇梶静江さんが無言の大学職員に語りかけた。気がつくと川村シリンツ エオリパック アイヌさんと腕を組んで立っていた。「心が通じない。これが東大の学問ですか?人の心を踏みにじって。人間だったら・・」。二人は怒りと悲しみを込めてつぶやいた。しかし何の反応もなかった。

 シュプレヒコールの声が上がった。「東大は差別的な学問をやめろ!遺骨を返せ!副葬品を返せ!アイヌ民族に返せ!」

 夜は都内で「東大のアイヌ民族遺骨を返還させよう!10.18集会」が開催された。聴衆は「返還させる会」メンバーの報告や解説、世界の先住民族と連携しながら長年に渡りアイヌ民族の権利奪還に取り組んできた川村シリンツ・エオリパック・アイヌさんの講演、今年80歳になる宇梶静江さんの体験談などを傾聴した。2020年の東京オリンピック誘致決定を機に「民族共生の象徴空間」の建設を急ぐ日本政府と北海道政や、差別的なアイヌ民族研究を推し進めてきた大学研究機関に対して、遺骨や副葬品などの返還と真相究明、謝罪と賠償、先住民族の真の権利奪還を求めていくことを誓い合った。

 10月17日から22日にかけて、「秋のアイヌ民族交流ウィーク」が都内各所や埼玉大学などで開催され、アイヌ民族の歌や踊り、語り、ユカラ(叙事詩)などの豊穣な世界が繰り広げられた。

http://kamuyukar.jugem.jp/?eid=137

http://kamuyukar.jugem.jp/?eid=139

【参照資料、サイト】

「先住民族の権利に関する国際連合宣言」
http://www.cais.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2012/03/indigenous_people_rights.pdf
「アイヌ政策推進会議」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/index.html
「第12回『政策推進作業部会』議事録概要」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai12/gijigaiyou.pdf 他。

「東大によるアイヌ民族遺骨・副葬品略奪を差別研究を糾弾する」(「東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会」編)
「東大のアイヌ民族遺骨を返還させよう10.18集会」配布資料 「先住民族アイヌの権利回復を!」(旭川アイヌ協議会アイヌ•ラマット実行委員会共同ブログ)
 http://asahikawaramat.blogspot.jp/


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