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LNJ Logo 報告:「除染事業と除染労働の実態を問う」集会
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News Item 0706hokoku
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7月6日、「除染事業と除染労働の実態を問う」と題した集会が都内で開かれた。主催 は「被ばく労働を考えるネットワーク」。梅雨明けが宣言され真夏日となったこの 日、東京・文京区の文京区民センターに次々と参加者が集まり、作業現場からの報告 に熱心に耳を傾けた。 司会の飯田勝泰さん(東京労働安全センター)は、「福島原発の事故から3年経った が、収束には程遠い。除染労働と除染事業そのものを問いただす必要がある」とあい さつ。

■放射能の完全犯罪

呼びかけ人の平野敏夫(同前)は月1回、いわき市の仮設住宅で健康相談を行なって いる。先月ある女性が「うちはガンの家系なのか」と不安げに訪れた。50歳代の男性 が1年前に甲状腺がんで亡くなった。高校を卒業してから福島原発で働いてきた。福 島医大の医師は、「(原発)事故とは関係ない」と言い切ったという。「放射能で健 康障害が起きても証拠が残らない。まさに完全犯罪だ。今日の集会を第一歩に、現場 に切り込んでいきたい」と平野さんは力を込めた。

除染労働に従事する当事者二人が壇上に上がった。
楢葉町の先行除染を担った男性は、何層にも重なる下請け構造を解説。環境省の元請 けの清水建設の下には、1次から枝葉が分かれるように裾野が広がっている。自身は 2次下請けのA社に雇われたが、同じ部屋で寝泊まりする同僚らをはじめ、それぞれ の班は上下の請負からの混成部隊で構成されていた。人材は全国各地から送り込ま れ、同じ作業をしながら、危険手当を含む待遇はバラバラだった。 作業服は自腹で用意。休憩場所はなく、ホットスポットと呼ばれる高線量地点で休むしかな かったという。ピンハネには労組に加入して抗議。争議の結果、解決の協定書を交わ したものの、「これからの体調の変化が心配だ」と打ち明けた。

■闘いの成果も

いわき自由労組の桂武さんは、「労基署は法に触れなければ何もしない」と切り出し て発言。 「下請けの親方たちがニセの労働契約書を書かせている。これではチェックしようが ない。さらに労基署は『除染労働は建設業種ではない』とまで言い出している」。 「マスクの支給を訴えた人がいたが、やがて犯人探しが始まった。他人に迷惑がかか るからと本人が名乗り出ると、解雇通告された。この争議は和解し勝利したが、それ以 後、現場には統一したサージカルマスクが支給されるようになった」と、闘いの成果 も報告。

関西労働者安全センターの西野方庸(まさのぶ)さんの講演は、「除染をめぐる安全衛生問 題」がテーマ。「被ばく防止、管理の義務主体はどこにあるのか」と問いかけた。原 発内の労働では被ばく規制法令によって、原子炉設置者による一元管理が存在する が、除染などの作業にはそれがないという。被ばく線量管理について法律上の責任は 事業者にある。しかし実際の一元管理は元方事業者に義務付けるという二重の管理に なる。この点が極めてややこしく、あいまいにされていると指摘した。

さらに労働安全衛生法の適用対象は法律上の労働者だが、自営業者、個人事業者、ま たボランティアによる除染作業についても、既存の「ガイドライン」は「参考」にな るに過ぎない。西野さんはすでにある法律の枠を超えた、総合的な被ばく対策法の必 要性を訴えた。

日本労働弁護団・原発プロジェクトチーム(PT)の木下徹郎さんは、「個人の発言」 と前置きして、ピンハネが横行する「特殊勤務手当」について検討し た。PTでも除染労働の法的措置について取り組み始めたが未解決。同手当について労働者に 法的な請求権があるとは断言できない。直接の雇用者の特定など、難しさがあるとし ながら、弁護団は昨年11月、元請事業者の責任と労働者保護措置の明文化を求めるア ピールを、環境省に向けて発している。

■福島での惨状

郡山市在住の佐藤昌子さん(写真)は、被災住民の立場で厳しい現状を訴えた。甲状腺がんの 発生率の高さが、子供たちの健康被害の深刻さを裏づけている。急性白血病で死んだ 子もいる。文科省は街中のモニタリングポストを、線量が低く出る機器に交換した。 避難をめぐって家族の感情的な口論が絶えない。福島での死産の割合が増えている。わき出る不安は、それを口にしない多数派に迎合することで打ち消している。本 来の怒りは、原発や権力者には向かわずに、住民同士の差別やねたみを生み出してし まった。 佐藤さんは何度も言葉を詰まらせながら、それでも「ここにいる人々との連帯で誇り を取り戻す。今後も手をたずさえてともにがんばっていきましょう」と締めくくり、 参加者は大きな拍手で応えた。

参加者との討論では、さまざまな立場や視点から提起があった。 労基署対労働組合という対立ではなく、監督官個人に対する働きかけも必要では ないかとの意見。また、元駐車監視員だった男性は、ドライバーと対決をさせられて いる構図を挙げ、労働力過剰とは言われているが、除染の現場でも一度作業をボイ コットをしたらどうか、と提案した。

■困難を抱えながら

山谷労働者福祉会館のなすびさんは、「特勤手当は労基法の賃金には含まれない」と の労基署の主張を、自分たちは突破できていないと総括。現場での不平不満や違法行 為を告発するとクビになるという既成事実が、見せしめ的に重ねられている。環境省 の調査も業者監視の下で行なわれ、労働者が声をあげにくい状況が固定化している。 これらは除染労働以前の、建設土木産業での重層的な下請け構造における、国と業者 の利権・癒着体質の延長線上にあり、労働運動もまたこれを克服できていない本質的問 題を抱えていると語った。(Y)


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