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LNJ Logo 木下昌明の映画批評〜『いのちがいちばん輝く日』
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●溝渕雅幸監督『いのちがいちばん輝く日』
「メスだけでは救えない……」――ホスピスで輝くいのちの物語

 日本では死因のトップががんといわれて久しい。昔、筆者の両親もがんによって病院で亡くなっている。その最期は無残だった。意識もなく鶏がらのようになった体を、医師は延命させようと必死に立ち回っていた。それが忘れられない光景として残っている。

 いまはどうか。新しい試みとして、がんで苦しむ人々の終末期を看取るホスピスがある。人間、誰しも眠るように死にたいと願う。こうした緩和ケアを行う施設は1981年に始まって以降、現在257カ所、病床数は5101に増えた。が、年間のがん死34万人超では追いつかない。

 そんななか、ホスピス病棟の日々を初めてドキュメントした『いのちがいちばん輝く日』が公開される。

 舞台は滋賀県近江八幡市にあるホスピス「希望館」。ホスピスの由来は、巡礼の旅人を泊める安息所(小さな教会)から来ているが、希望館もキリスト教の精神に基づいて運営されている。開設して6年。主人公となるホスピス長は外科医だったが、自らもがんにかかった経験から「病気ばかりを見ていた。メスだけでは救えない命がある」と省みて、患者に寄り添うケアに専念する。彼は白衣を脱ぎ、普段着で患者を診察し、対応している。

 溝渕雅幸監督らは、撮影前から名札を付けて職員同様に振る舞い、施設の慣習を学んで、患者と家族の理解と協力を得てから撮り始めたという。

 観客は何人かの患者の生き死にを目撃することになる。入院したばかりの患者は最初痛みで苦しんでいたが、そのうち本人も「こんなに元気になるなんて」と驚くほど回復する。痛みを和らげることがいかに大切かがよくわかる。全身にがんが転移しても車椅子で外出する女性、生まれたばかりの孫の顔が見たいと東京まで出かける男性……。

 死を迎え入れるのではなく、残り少ない人生をいかに生きるか――。映画から“希望”が見えてくるようだ。(木下昌明/『サンデー毎日』 2013年1月27日号)

* 2月2日より東京・新宿K's cinemaにてロードショー

〔付記〕 映画と直接には関係ないのだが、こんなケースもある。――わたしは、人生の最終にホスピスに入った人を何人か知っている。そのなかのある女性は、がんを患い苦しんでいた時、好きな人がいたが再婚しなかった。しかし、ホスピスに入ってしばらくして結婚に踏み切った。それと知らずに、ある日のこと見舞いに行ったわたしは、彼女の病室の表札の姓が変わっていたのに驚かされた。人は、痛みがとれれば精神にゆとりが生まれ、思い切った行動をとることもできるのだ――と感動しつつ、教えられた。


Created by staff01. Last modified on 2013-01-18 12:17:50 Copyright: Default

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