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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『ムサン日記〜白い犬』
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●パク・ジョンボム監督『ムサン日記〜白い犬』
知られざる“脱北者”たちの人生――韓国社会の暗部を浮き彫りに

 北朝鮮から韓国への“脱北者”の数は昨年11月現在、約2万3100人に上るという。だが、その後の暮らしぶりはあまり知られていない。

 パク・ジョンボム監督の『ムサン日記〜白い犬』は、その知られざる一面を描いていて興味深い。パクは1976年生まれの映画作家で、監督以外にも製作・脚本、主人公の脱北青年スンチョル役を演じている。彼は韓国映画界の良心といわれる「ポエトリー」のイ・チャンドン監督に師事し、タイトルもイ監督にアドバイスを受けたという。

 では、なぜ脱北者に焦点をあてたのか? それはパクが大学時代から一緒に映画作りを夢見ながら、共同生活していたチョン・スンチョルが実は脱北者だったこと、その彼が若くして亡くなったことによる。パクは友への思いを胸に、彼と同じ名前の主人公になりきることで、脱北者の目線で自らの社会をとらえ直したのがこの映画だ。

 冒頭、車の往来が激しい道路端で主人公がポスター張りをしているシーンからはじまる。彼は飢えに苦しむ北朝鮮のムサンからソウルに来て荒廃した再開発地域のアパートで脱北者の先輩と暮らし、必死に仕事を求めている。要領のいい先輩とちがって、孤独な彼は捨てられた白い小犬を友達にしている。若い脱北者たちは郷里の家族にひそかに送金する(これはスパイ罪に当たる)ために働くが、125番台から始まる住民登録証によって就職差別を受ける。彼らの一人は「命がけで脱北しても(時給)5000ウォンか」と嘆く。日本円にすると360円程度である。

 ある日、スンチョルは教会の聖歌隊で歌う美しい娘に一目ぼれする。彼女の後をつけていくと、風俗系のカラオケバーに消えていく……。

 韓国ではキリスト教信者が多い。それが北への“精神”の砦となっているが、脱北者も通過儀礼のように教会である出来事を告白することで社会に溶け込む。むさ苦しいオカッパ頭も短くしてさわやかな青年に変貌する。しかしそのことで主人公は大切な何かを失っていく。映画は北とは裏腹の問題を抱える社会のあり方を、これでいいのか、と静かに問うている。(木下昌明/『サンデー毎日』2012年5月27日号)

「東京・渋谷シアター・イメージフォーラムで公開中。全国順次公開 2010 SECONDWIND FILM. All rightsreserved.


Created by staff01. Last modified on 2012-05-21 11:44:09 Copyright: Default

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