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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「青空どろぼう」
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●映画『青空どろぼう』

「怪獣ヘドラ」を思い出す“煙”――四日市公害訴訟「闘いの記録」

 東海テレビ放送製作の映画『青空どろぼう』(プロデューサー、阿武野勝彦)は、もくもくと煙を吐き出す煙突シーンから始まる。これを見て『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)のワンシーンを想起した。へドラという腐った蛸(たこ)のような大怪獣が工場の黒煙をうまそうに吸っているのだ。ヘドラは工場からたれ流した海のヘドロから生まれた怪獣で、この映画が作られた高度成長期は、水俣をはじめ工業地帯で公害問題が頻発した。しかし、長年にわたる地域住民の闘いが功を奏して、企業も経済優先から人間尊重へと舵(かじ)を切ったかに見えた。だが、それは一時的な改善にすぎず、再び問題が起きていることが『青空どろぼう』を見てわかった。

 映画の主な舞台は、三重県四日市市の小さな漁師町。対岸に石油化学コンビナートができ、60年ごろからぜんそく患者が集団発生した。300本もの煙突から亜硫酸ガスの煙が吐き出され、吸い込むと気道が収縮して息が吐けない。苦しさから逃れるため、自殺も多発した。9歳の少女が「お父さん注射を」と言って亡くなった事例もある。

 映画は、大企業6社を相手に闘って勝った二人の老人――元漁師で訴訟の原告となった野田之一さん(78歳)、裁判を支援した市民活動家の澤井余志郎さん(82歳)の過去と現在に焦点をあてている。「公害はまだ終わっていない」と38年。老体にむち打って活動する二人の姿は魅力的だ。なかでも若い頃からガリ版刷りの文集を作り、闘いを地道に牽引してきた澤井の半生を追ったくだりにひかれる。

 製作が地元のテレビ局とあって、古い資料映像もふんだんに使い、四日市市の公害問題の全貌を浮かび上がらせる。

 また現在の汚染地区を独自に調査、“隠れ患者”が多いことや、黒いヘドロに覆われて死んだ海には一匹の魚もいない実態を明らかにする。

 ――再びヘドラが現れるかも。必見です。(木下昌明/「サンデー毎日」2011年6月26日号)

★付記 『月刊東京』の今月号に「記録することからはじまる――『放射能汚染図』と『青空どろぼう』」を書きました。『青空どろぼう』は、かつての土本典昭の水俣病もの映画と同じく、いろんな問題をはらんでいます。今日の原発問題と根っこは同じです。


Created by staff01. Last modified on 2011-06-17 17:50:21 Copyright: Default

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