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津地裁が判決「一方的な定年導入は無効」(酒井徹)
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津地裁:「一方的な定年導入は無効」
――63歳従業員の地位を認める――

■後付けの「定年制導入」で失職
三重県の個人加盟制労働組合・
ユニオンみえの組合員(63歳)が、
自分が60歳になった後で
一方的に「60歳定年制」を導入されて
退職させられたのは不当であるとして、
四日市市の不動産業者・
名泗コンサルタントを訴えていた事件で、
津地方裁判所四日市支部は
労働者側の主張を認め、
従業員としての地位を認める判決を
言い渡した。

■就業規則なく、突然の「通知」
判決によるとMさんは、
1998年に
51歳で名泗コンサルタントに入社。
翌1999年には
宅地建物取引責任者の資格を取り、
登録した。

当時、
名泗コンサルタントには就業規則はなく、
労働条件を書面化した文書も
作成されることはなかったが、
Mさんは
名泗コンサルタントの従業員として
2007年まで働いてきた。

2007年7月31日に
60歳の誕生日を迎えたが、
名泗コンサルタントには定年はなく、
Mさんはその後もそのまま働き続けた。

ところが2007年10月18日、
名泗コンサルタントは
朝のミーティングで従業員に対し、
「社内規定の通知」を公表した。

これによると、
「定年期日」は
「満60歳までの誕生日とします」と
されており、
定年後再雇用についても
「再雇用条件は、
 面接により個々の内容を決定します」、
「再雇用者の地位は、
 随時面接により決定し、
 1年契約とします」、
「雇用契約の為、
 使用者及び被使用者の合意が
 成立しない場合は、
 定年時に退社して頂くことに
 なります」などとされていた。

こうしてMさんは、
このときすでに60歳の誕生日を過ぎて
働き続けていたにもかかわらず、
同年11月20日付で
会社を退職したものとされてしまった。

■定年は「退職勧奨の制度化」!?
裁判の中で名泗コンサルタント側は、
「『定年制』の実質は,
 60歳に達したことを契機として,
 被告(筆者注:=会社)から
 労働者に対し,
 退職するか
 又は再雇用として雇用を継続するかの
 意思確認を行い,
 労働者が
 退職の意思表示をした場合には
 退職とする,というものである。
 これは,
 いわば『退職勧奨の制度化』である」
などと主張した。
そして、
再雇用を受け入れるかどうか
尋ねたところ、
Mさんが再雇用を求める意思は
全くないと答えたなどとして、
「本件労働契約の終了は,
 被告の退職勧奨に
 原告(筆者注:=Mさん)が
 応じたことによる,
 労働契約の合意退職である」と
主張したのである。 

■会社主張は「いかにも無理が大きい」
こうした会社側の主張を
津地裁四日市支部は次のように
明確に退けた。

《本件規定の文面によれば,
 ……60歳をもって定年とすることを
 明示した上で,
 ……再雇用などについての定めが
 なされている。
 このような体裁からみて,
 本件規定は,
 定年によって
 当然に労働契約が
 一旦終了することを明らかにし,
 そのことを前提にした上で,
 別個の労働契約としての
 再雇用について
 定めたものであるというべきである。
 このことは,
 ……「雇用契約のため,
 使用者及び被使用者の合意が
 成立しない場合は、
 定年時に退社して頂くことに
 なります。」という文言に
 端的に現れている。

 そして,
 再雇用について,
 本件規定には,
 再雇用されることが
 原則であるとの記載はない。
 また,
 条件面についても,
 1年間の
 有期雇用になっていることに加え,
 定年前と同じ労働条件が
 保障されていないことに照らせば,
 定年前後の労働契約の内容に
 大きな差がないということも
 できない。 

 このような
 本件規定の内容に照らすと,
 本件規定にいう「定年制」とは,
 60歳という年齢の到達を
 理由として
 労働契約が当然に終了することを
 定めたものと解するほかはない。
 再雇用の余地は残されているものの,
 それはあくまでも
 被告と対象者との間に
 労働条件等について
 合意が成立した場合に
 限られており,
 合意が成立しない場合には,
 従前通りの労働契約は
 存続又は復活しないのであるから,
 これを,
 被告の主張するような
 『退職勧奨の制度化』と
 理解することには,
 いかにも無理が大きい。 

 ……したがって,
 本件労働契約の終了原因は,
 満60歳の定年に達していた原告が
 本件規定上の定年制の適用対象に
 当たっていた,ということに
 求めるほかはなく,
 『定年退職』又は
 『定年解雇』と
 評するべきものである。 

やはり、
定年制の一方的な導入を
「退職勧奨の制度化」などと理解することは
「いかにも無理が大きい」ようである。

■「無効であることは明白」
それでは、
このような一方的な「通知」によって、
すでに60歳に達していた労働者の雇用を
打ち切ることはできるのだろうか。

これに対する
津地裁四日市支部の判断は明確だ。

《本件労働契約の終了は,
 定年解雇ないし
 定年退職によるものである。
 そして,
 被告が本件規定によって
 定年制を新たに導入したことが,
 労働条件の
 一方的な不利益変更に当たり
 無効であることは明白である。》

こうして津地裁四日市支部は、
Mさんの従業員としての地位を認め、
名泗コンサルタントに
2007年から判決確定の日までの賃金に
年間6パーセントの利息を付けて
支払うよう命じる判決を下したのだ。

■Mさん「できれば早く終わらせたい」
判決を受けてMさんは、
「解雇から
 団体交渉や労働委員会でのあっせんに
 1年半、
 裁判に訴えて1年半、
 思った以上に
 長くかかってしまった。
 会社側が裁判になって、
 私の側に非があったかのように主張して
 悪あがきをしたためだが、
 そうした主張は裁判所でも
 結局 相手にされなかった。
 支払われるべき賃金の額など
 一部主張が認められなかった部分も
 あるが、
 こちらが本当に主張したかった
 定年制無効を認めていただいたので、
 会社が控訴しない限り
 こちらも控訴するつもりはない。
 会社も長引けば長引くほど
 傷つくはず。
 できれば会社も控訴せず、
 早く終わらせたい」と
感想を語った。

■ユニオンみえ・広岡法浄書記長の談話
「労働者は60歳以降、
 どんなに仕事ができても
 排除されなければならないのか。
 日本は年齢差別社会であり、
 しかも65歳までは
 年金がまともに支払われない。
 こんな事がまかり通って良いものか。
 皆がもっと声を上げて
 主張していいのではないか。
 そんななかでMさんは
 納得できないことは納得できないと
 裁判まで突き進み、
 勝利した。
 幾多の難関を乗り越えた結果だ。
 Mさん、
 勝利判決獲得おめでとう。

 この裁判は
 あとづけの定年制導入という事が
 基本的争点であったが、
 60歳以上の労働者に対する
 労働権の問題でもある。
 60歳以降も同じ労働をすれば
 同じ労働条件が維持されなければ
 ならない。
 年齢差別をなくす闘いに
 つなげていきたい」 
(JanJan blog 10月2日より加筆転載)


氏名:酒井徹
電子メール:sakaitooru1983@excite.co.jp
ホームページ:『酒井徹の日々改善』
http://imadegawa.exblog.jp/


Created by staff01. Last modified on 2010-10-05 11:25:03 Copyright: Default

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