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LNJ Logo いよいよ公開される「ザ・コーヴ」はどんな映画か(木下昌明)
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●映画「ザ・コーヴ」
反日とかそんなんじゃなくて そこで問われるのは「人間」だ

 ずっと昔だが、「世界残酷物語」(1962年)という大ヒットした映画があった。牛の首を真っ二つに斬ったり、豚の群れを一斉にコン棒で殴り殺したり、犬の料理に舌鼓を打ったりと、国によって異なる食文化にまつわる残酷で滑稽な風習を興味本位に集めたドキュメントだった。しかし当の文化の中で生活していると、それが少しも野蛮にはみえず、受容されて慣習となり、記念行事になるケースさえあった。ところが、これを外からみると、奇怪で悪しき“伝統”に映るのだ。

 いま「反日的」として上映中止問題で騒がれているルイ・シホヨス監督の「ザ・コーヴ」をみて、その映画の記憶が蘇ってきた。「コーヴ」は、もっぱら和歌山県太地町で行われているイルカ漁に焦点が絞られている。漁師がイルカの群れを入り江に追い込んで銛で突き殺し、海面が真っ赤にそまっていく─みた目には残酷に映る隠し撮りシーンがクライマックスになっている。

 また映画の主人公は、イルカ保護活動家のリック・オバリーで、“フリッパー”の調教師だった彼の可愛がっていたイルカが自殺?したことに衝撃を受け、知能の高いイルカを弄ぶ残酷さに気づくといった個人史が核になっている。その視点に立てば、異文化の価値観の違いなどこえて、漁師の行為は奇怪なものにしかみえてこない。

 一方、人間はこれまで、知能の程度いかんにかかわらず、生き物を殺して食べてきた。それが神ならぬ人間の生活原理となっていた。その上に日本は四方を海に囲まれ、魚などを主な動物性たんぱく源としてきた国だ。その立場に立てば、イルカ漁は、長年クジラ科(いわしクジラ)の肉として食べてきた人々の生活原理となる。それゆえに画面上で、いかに銛突きが残酷にみえようとも、それは肉の鮮度を保つために必要な血抜き作業となっている。

 ではどうすべきか。これは日本の食文化を問うよい機会だ。ぜひ上映して考える素材にしてほしい。(木下昌明/「サンデー毎日」2010年7月4日号)

*「ザ・コーヴ」は、大阪・十三の第七藝術劇場で7月3日から公開。それ以外は未定。問い合わせはアンプラグド Tel 03-6420-1201

追記 : 現在上映館は7月3日より、シアター・イメージフォーラム他全国で7館に拡大しました。


Created by staff01. Last modified on 2010-06-27 13:13:36 Copyright: Default

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