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LNJ Logo 沖縄問題コラム「9万人と9百人の間」(木村信彦)
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投稿者 : 木村信彦

9万人と9百人の間

5月4日に、鳩山首相が訪沖し、普天間基地の移設先はやはり沖縄県内にお願いしたいと、仲井真県知事らに表明したと報じられている。「やっぱり」というしかない。

マスコミはしきりに鳩山の迷走をなじっているが、愚かなことである。それでは聞くが、自民党政権が続いて、迷わず既定の辺野古沿岸案を押し通していればそれで良かったのか。私は鳩山政権などに最初から何の幻想ももっていないが、しかしあえてその最大の功績をあげれば、普天間で「迷走」したことである。それによって沖縄のマグマを呼び起こしたのだから。

問われているのは鳩山の評価などではない。すぐれて、私たち日本の、ヤマトの民衆のあり方が問われている。4月25日、沖縄現地で9万人が集まった。単純な人口比でいえば、東京で90万人の集会が開かれるような出来事である。だがこの時期東京で開かれた最大の集会がせいぜい公称千名。桁が三つ違う。0・6%の面積に在日米軍基地の75%を押し付けている、この沖縄に対する内国植民地的な差別構造の上に「平和」なヤマトがあぐらをかいている、このことに対する徹底的な無関心が鳩山を支えている。

だがこれは決して不可抗力的な事態ではない。現行安保条約制定から50年、いわゆる密約問題がひとしきり焦点化した。これは一方で、戦後一貫した日米安保という名の、東京とワシントンの支配者・権力者の醜い癒着の実態をさらけ出し、他方では、それが日本の民衆に知られることを彼らがいかに恐れてきたかを示している。60年安保闘争、70年沖縄闘争の高揚とこの再来に対する日米権力者の恐怖がその背後にある。そしてその要に自民党政権が坐っていたが、昨年の8・30総選挙はこれを倒した。60年でも、70年でも起きなかったことが起きた。これが鳩山に「迷走」を強制し、いま沖縄情勢という妖怪を招きよせたのだ。

鳩山政権の現状では、来る参院選で民主党が大勝することはないだろう。だが、自民党の復権もまたありえない。事態は不可逆的に進んでいる。次々生まれる新党は、おおむね昨年の政権交代でいったんは後景化を強いられた小泉的改革路線や安部的改憲路線が、自民党的タガを外れて政治の前面に再登場してきたことを示している。8・30はパンドラの匣(はこ)を開けた。あらゆる魑魅魍魎が飛び出し、「小沢と鳩山が日本をダメにする」を合言葉にしている。そして検察官僚がこれにくちばしを入れ、マスコミが囃し立てている。

参院選で永田町がどうなるかも重要である。しかしそれ以上に重要なのは、まず沖縄の闘いに日本の民衆運動がどう応えるかである。5月は沖縄問題のゴールではなく、新たなスタートになった。かつて「沖縄民権の会」の古波津英興は、沖縄は日本のシッポだ、だからといって切り捨てようなどとしたら大変なことになるぞ、シッポが胴体を振り回すぞ、と語っていた。いままさにそうした状況が生まれようとしている。

「温度差」などという生易しい言葉では全く不十分なほどの落差が、沖縄・本土の間に横たわっている。日本の民衆運動(当然労働運動を含む)では、絶望的なまでの危機・困難と無限の可能性が背中あわせになっている。妙手などない。ただひたすらまっとうな運動を、地域と職場から、ひとつづつ積み上げていくことを除いて何もない。あらゆる災厄が飛び出したのを見て、あわてて少女が蓋を閉めたとき、ひとつだけ匣の中に残ったものがあった。それが〈希望〉だったとギリシャ神話は伝えている。(木村信彦)

*今、憲法を考える会 通信「ピスカートル」NO.5 で発表。同会連絡先は、TEL&FAX 03-3207-1273 piscatornews@yahoo.co.jp


Created by staff01. Last modified on 2010-05-25 14:09:36 Copyright: Default

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