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*以下は「ヒューマンライツ」1月号に掲載されたものです。(編集部)

インターネットでつなぐ新しい労働運動
  「レイバーネット」(日本)

 インターネットが社会運動にとっての新しいコミュニケーション手段として注目されたのは、1999年のシアトルのWTO闘争(新自由主義によるグローバル化に抵抗する運動)だった。数万人が集まり、60年代の公民権運動以来のアメリカ社会運動の再活性化にもなったこの運動では、インターネットがフルに利用された。環境保護グループや労働団体、人権擁護機関など、さまざまなグループが自主的なネットを作り、つなぎあった。とくにウエブ上で動画映像を流すというストリーミングが効果を発揮し、世界中で500万人がアクセスしたといわれる。

 日本の社会運動もホームページを持つところは増えたが、インターネットを有効に利用しているところはまだ多くない。とくに労働運動分野では、硬直した組織や官僚制といった伝統が根強く残り、電子コミュニケーションへの取り組みは弱いようだ。

 しかし情報化時代の今、安くて、速くて、広がりのあるメディアを使いこなさない手はない。日本で、いち早く、ネットを中心にした労働運動を模索した人たちがいた。かれらが作ったのが「レイバー(労働)ネット」である。

 創立は2001年、労働運動の活動家や市民メディアの実践者たちが相談して、労働者の権利を確立するためのインターネットの活用を話し合った。コンピューター関連の労働者、労働運動をテーマにした映像作家、それにインターネット技術者の三者がスクラムを組む形になった。

 設立趣意書には、「コンピューターを所有できる人々のいわば先進国の優越的な道具として使用するのではなく、所有できない人々の側に立ちながら、労働者・市民が広く連帯を築く道具として活用することが求められています」とあり、デジタル・デバイド(格差)への配慮がうかがわれる。

 「レイバーネット」が生み出したもののひとつが、東京と大阪で毎年開かれる「レイバーフェスタ」だ。労働問題に関する映画の上映のほか、東京では川柳、大阪では落語やコントなど、多彩な文化ジャンルで労働が語られる。

 労働運動というと、重い、固い、年寄りが若者を説教する、といった先入観で見られがちだったが、「レイバーネット」は、まず参加者が楽しむことを中心にすえている。なかでも「3分ビデオ」の評判がいい。

 労働問題や人権などをテーマにして、それぞれが3分間のビデオ映像を作り、みんなで見る。ビデオカメラと編集用パソコンの普及によって、最近ではアマチュアでも映像制作が可能になった。身のまわりの労働問題や、暴力団まがいの経営者の姿などが当事者によるビデオ映像で表現される。

 06年の「レイバーフェスタ」で上映された土屋トカチさん制作の映像は、経営者側が組合員に組合を脱退せよと脅迫し、暴力を振るう様子を撮ったものだが、のちに、ドキュメンタリー「フツーの仕事がしたい」となり、世界各地で上映されるようになった。

 ネットの威力が最も強く発揮されるのは、国際連帯運動の場である。「レイバーネット」のホームページでは、世界各地の労働運動を紹介する欄に加えて、日本の状況を伝える記事を月に10本ほど英語に翻訳して、世界に発信している。労働者への人権弾圧には、世界各地から抗議の声が届く。09年11月現在での会員数は400名余りで、8年間の通算アクセス数は180万件を越える。

 創立以来8年間、代表を務めていた伊藤彰信さんは、09年の総会で「既存の労働組合にはネットを使いこなすことはできない。ネットで執行部批判が出ると、閉鎖してしまう」と、労組の体質を批判している。

 組織率が低下し、政治的な発言力も減少している日本の労働組合にとって、組織の民主化のため、また組合と市民をつなぐ手段として、ネットを活用し、閉鎖体質を変えることが課題だろう。

 「レイバーネット」は、労働者同士をつなぐ、開かれた連帯のネットワークとして、新しい社会運動に一歩踏み出した。   

小山帥人(ジャーナリスト)


Created by staff01. Last modified on 2010-01-13 13:33:27 Copyright: Default

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