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LNJ Logo 【報告】松川事件60周年記念全国集会
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黒鉄好@安全問題研究会です。

遅くなりましたが、10月17日(土)〜18日(日)に福島大学で開催された「松川事件60周年記念全国集会」に参加したので、報告です。

1949年8月17日に発生した松川事件から、今年で60周年となるのを機会に開かれた今回の集会の主催はNPO法人・福島県松川運動記念会、全労連、自由法曹団、日本国民救援会。抜けるような青空の下、会場には主催者発表で1200人が集まりました。

市民集会の評価を貶めたいネット右翼などの手により「警察発表は主催者発表の半分以下」などという誹謗中傷が行われることもよくありますが、今回の集会では、事務局が事前準備した900部の資料が初日の集会開始直後になくなり、増刷を余儀なくされました。1200人という数字は決して誇張されたものではないと思います。

なお、松川事件の概要については、2年前の拙稿(http://www.labornetjp.org/news/2007/1194366363373zad25714)をご覧ください。

集会の冒頭、まず主催者を代表して大学一・NPO法人松川運動記念会理事長が挨拶。続いて今野順夫・福島大学学長は「松川事件の資料収集は1984年から始め、資料館を88年に開館。松川事件風化を防ぎ、事件現場に近い地元にふさわしい内容の資料館にしたいとの一心で開館させた」と、学内にある松川事件資料館への思いを述べました。

次に、松川運動記念会代表の元日本共産党衆議院議員・松本善明氏が挨拶しました。「松川事件はすでに時効になり、犯人を追及できないが、事件で亡くなった乗務員3名の家族の気持ちを思えば決して真相をうやむやにはできない。松本清張は『日本の黒い霧』の中でこの事件を米国の謀略としており、私としても真相追及を訴える。政府に真相を明らかにさせる運動を起こす、そのために民主的政府を作ることが必要だ。その上で法務省に資料の提出を求めていかなければならない」と訴えました。

元被告を代表して、鈴木信(まこと)さん(89)は、「これだけ無罪を示す証拠がそろっているのだから自分は無罪になるに違いないという甘い考えを持っていた。当時、増田甲子七・官房長官が『この事件は、思想的には下山・三鷹事件と同じ。日本の国を存続させるために多少の犠牲はやむを得ない』と公言していた。私は国民のひとりとしてこの事件の真相を究明しなければならない。自分の一生の問題として今後も闘い抜く」と、事件が思想弾圧であったことを明らかにした上で決意を述べました。鈴木さんによれば、被告のうち東芝松川労組の10名は既に全員が他界、国労の被告も10名のうち2名が亡くなり、集会に出席できる状態の元被告も5名にとどまるとのことですが、事件から60年が過ぎ、被告全員が80歳代以上となる中で、5名が集会に出席できる状態であることに驚かされました。

福島大学OBで、松川資料室研究員の伊部正之・名誉教授は、現役時代から10万点にも上る資料を収集・管理してきた研究者として松川事件の真相について報告しました。

「松川が事故か事件かということで言えば、事件でないと困る者たちがいた。鉄道は軍事施設であり、その破壊は柳条湖事件(戦前、満州で起きた日本軍による満鉄線爆破事件)を見ても明らかなように、政治的利用価値が高かった(ついでに言えば、これに先立つ1928年に起きた日本軍による張作霖爆殺事件も鉄道爆破である)。1947年、静岡県で三島事件という列車転覆未遂事件が起きたが、この時、犬釘が抜かれたものの直線だということもあり列車は転覆しなかった。その後の予讃線でも列車転覆が謀られ、カーブだったこともあり列車は転覆、『これで行こう』ということでその後の松川事件につながっていった。(列車転覆を)仕掛ける者たちも経験を積んだのである。その後、犬釘を抜くだけでは脱線しない場合があることもわかり、次第に線路をずらして確実に転覆するよう仕組まれていった。線路をずらすとなれば、バールや自在スパナでは無理であり、大型ハンマー等の工具が登場した。これらの工具が必要となったことにより、松川事件の検挙容疑となった『4〜5人単位』での犯行は事実上不可能だった」

「警察が国労と東芝松川労組が列車転覆に向け謀議を行ったとした8月13日に、当の東芝松川労組が会社と団体交渉中だったことを示す“諏訪メモ”の発見により、東芝松川労組の被告らにアリバイがあることが確定し、両労組の謀議は否定された。松川事件は証拠不十分による無罪などではなく、無実だから無罪なのである」

「松川運動は裁判批判運動の側面と、被告救援活動の側面を持っていたが、私はそのいずれもが松川運動だったと思っている。ただし、それは裁判所に圧力を加えるのではなく、国民に理解を求めていく国民運動だった」

その上で、伊部名誉教授は、これまでの研究成果を基に、松川事件の「真犯人」を次のように推定しました。

「下山事件と松川事件の実行犯は共通の人物。三鷹事件との関連は今後研究する必要がある。実行犯は少なくとも9人いて、中国からの引揚者。なぜなら旧日本軍が中国大陸で行っていた(謀略事件の)手口とまったく同じだからである。それら引揚者を米国が束ね、管理も米国が行った。事件現場へ実行犯を案内し、地元の一般人が事件現場を通行しないよう監視を行う役目を果たしたのは日本警察である」

私は、この「推定犯人像」を聞き、なるほどと思いました。「鉄道の職務に誇りを持つ者たちが列車転覆など考えるわけがない」という声は事件当時からあったといわれており、私自身も、こんな恐ろしいことを平気で実行できるのは、殺人を職業としてきた旧軍人以外にあり得ないと考えていたからです。

伊部名誉教授は、その後、隠れて暮らしていた実行犯たちの間に「被告たちが有罪になったら自分たちが自首する」と自首を考えるグループがいたとも指摘し、このことも被告たちの無実の証拠であるとしました。最後に、「松川資料室は福島県民のみならず、全国民の財産。資料室をぜひとも守り、残す必要がある」と資料室の存続を訴えました。

1日目はこの他、松川事件の主任弁護人を務めた大塚一男弁護士が「松川闘争60周年に思う」と題して講演。「事件は被告のひとりである赤間勝美さんの証言がねじ曲げられてできたもの」「当時のマスコミ報道は『これで裁判も終わりだ』という内容がほとんどの酷いものだ。戦前からの致命的欠陥であり、今なお許すことはできない」と当時の司法当局、報道を批判。「このような状態で、裁判官OBなど一部の法曹関係者だけが審議して導入を決めた裁判員制度に理解が得られているとは思わない」と、現在の裁判のあり方をも批判しました。

2日目の18日は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟副会長・柳河瀬精(ただし)氏が「松川事件と特高官僚」と題して講演。GHQから旧特高関係者の罷免指令を受けた日本政府当局が、GHQの指令に従うふりをしながら実際には特高に「休職」を発令しただけで彼らを温存し、戦後、数々の要職に就けたことを綿密な調査に基づいて明らかにしました。「復活」した特高関係者の中には、1日目の鈴木信さんの証言の中にもあった増田甲子七・官房長官や、80年代に衆議院議長まで務めた原文兵衛氏など、冗談ではすまされない高位の役職に就いた人もいました。中労委事務局長、人事院総裁、文部省初等中等教育局長など、どう考えても政治的中立が求められている役職への旧特高関係者の就任例もありました。

この講演を聴いて、私は初めて、戦後日本の政官界に散っていった旧特高関係者の全貌に触れるとともに、戦後日本を右傾化させ、決定的に悪くした連中の正体が理解できました。彼らの責任を追及し、政官界から駆逐できなかったことが、今日の絶望的な状態をもたらしたといっても決して過言ではないでしょう。

日本と対照的に、今なおナチス関係者の追跡・断罪を続けるドイツで、もし時の首相が旧ゲシュタポ(秘密警察)関係者の追放を解き、政府の要職に就けると表明したら、間違いなくタダでは済まないと思います。悲惨な侵略と戦争の悲劇を経験した国民であるにもかかわらず、様々な謀略まで駆使して労働運動・市民運動を弾圧・解体し、右翼排外主義を垂れ流す彼らをのさばらせてきた日本は、戦争のない世界を目指す人たちに対し、二重の戦争犯罪を重ねたのではないでしょうか。

今からでも彼らを追跡し、政官界から駆逐するとともに断罪していくこと。それこそが、侵略戦争の過ちを犯した国民として、後世に果たすべき歴史的責任であることを、改めて痛感させられました。

なお、一部新聞報道で、伊部正之・名誉教授との研究員契約が2010年4月で切れるため、存続の危機が伝えられていた福島大学松川資料室は、NPO法人・松川運動記念会と福島大学当局との「友好的協議」の結果、伊部名誉教授との研究員契約を3年間延長することが決まり、現状のまま存続することになりました。とはいえ、膨大な資料の収集・管理を行うことができる後継者の早急な育成が求められていることは明らかだと思います。

最後に、今回の集会で使われた資料をアップしておきますので、ぜひご覧いただきたいと思います。特に、「松川事件と特高官僚」講演のレジュメは、超一級の貴重な資料であると思います。

<1日目>
・集会プログラム http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/program.pdf
・元被告・鈴木信さんご挨拶 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/suzuki.pdf
・鈴木信さん上告趣意書より http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/suzukijoukoku.pdf
・俳句で語る松川事件 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/haiku.pdf
・記念講演1「松川事件の全容〜松川資料室からの報告」 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/siryoushitsu-ibe.pdf
・記念講演2「松川闘争60周年に思う」 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/matukawa60-ootsuka.pdf

<2日目>
・記念講演「松川事件と特高官僚」 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/tokkou-yanagase.pdf
・記念講演「松川事件と人間」 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/ningen.pdf
・「松川事件と松川町民」 http://tablet.my.coocan.jp/archives/matsukawa60/chomin.pdf

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

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