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黒鉄好@福島です。長文ご容赦ください。

8.30総選挙についての総括です。
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8月30日投開票された第45回衆議院総選挙、「真夏の決戦」が終わった。戦後初めて野党第1党が与党を打倒し、民主的に政権交代を成し遂げた今回の選挙が長く歴史に記録されるものになることは間違いない。簡単だが総括しておこう。

●日本の政治的雰囲気を正確に伝えた英紙の記事
今回の衆議院総選挙に先立ち、去る7月12日に行われた都議選で自民党が大敗した直後、英国フィナンシャル・タイムズ紙が実に優れた日本政治の分析記事を載せた。国内メディアが「麻生下ろし」に走る自民党議員と、締め付けに躍起となる党執行部との「内戦」を面白おかしく報道するだけで、中身の伴った情勢分析報道が皆無だった中できらりと光る記事だった。長くなるが引用する。

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http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20090714-01.html より引用

「日本は自民党を負けさせる覚悟があるのか」(英フィナンシャル・タイムズ社説 2009年7月14日(火))

日本政治を長年ウォッチしてきた人なら、「あの強大な自由民主党は、次の総選挙で歴史的な敗北を喫するだろう」と言われても、やれやれといった様子で苦笑するかもしれない。それは仕方のないことだ。同じようなことはこれまでにも何度も言われてきたし、にもかかわらず自民党は(ほぼ)毎回、なんとか権力にしがみついてきたのだから。過去53年間というもの(わずか11カ月の例外を除いて)、自民党はずっと政権与党の座にあった。

けれども今の自民党はややもすると、太りすぎで年のいった相撲取りのようなもので、8月30日の選挙で何をどうすれば負けずに済むのか、土をつけずにいられるのかも分からない状態だ。自民党は、アイディアは枯渇し、リーダーになるべき人材も枯渇し、絶え間ない内輪もめにばかり汲々とする存在になり果ててしまっている。12日の東京都議選で、民主党に屈辱的な大敗を喫したのは、今後の展開の明らかな予兆だと目されている。

狭まる包囲網に取り囲まれている麻生太郎首相は、10月の期限ギリギリよりわずか数週間前に投票日を設定した。民主党が世論調査で大差をつけてリードしている状況をひっくり返すにはもはや手遅れというタイミングまで、決断を引き延ばしてしまったようだ。小泉純一郎元首相が途方もない地滑り的勝利で、衆院選に大勝したのは2005年。あれから総理大臣になった自民党総裁は麻生氏で数えて4人目。なので麻生氏は本来、昨年秋の就任直後に改めて、国民に信を問うべきだったのだ。13日には景気回復の兆しがわずかながらも明らかになったが(輸出持ち直しで景気判断を3カ月連続で上方修正)、だからといって、変化を求める国民の空気がそれで変わるとも思えない。

とは言うものの日本の国民は、ワクワクするような選択肢を与えられているわけではない。民主党もこのほど、ベテラン実力者の小沢一郎前代表が政治献金疑惑で辞任を余儀なくされるという、指導部の危機を切り抜けたばかりだ。後任の鳩山由紀夫代表は、立派な人物だが、カリスマ性に欠ける。そして麻生氏と同様、長い歴史を持つ政治一族の末裔なだけに、長く日本政界を牛耳ってきた支配層にすっかり辟易としている有権者にとって、麻生氏と大差はない。

さらに民主党はこれまで、世界的な経済危機の影響にどう取り組むのか、わかりやすい経済政策を明示できていない。思想的には自民党よりも左寄りで、福祉や社会正義を重視するが、民主党の本当の魅力というのは「自民党ではない選択肢」だという一点に尽きる。けれども今回は、それだけでも十分かもしれないのだ。(以下略)
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『日本の国民は、ワクワクするような選択肢を与えられているわけではない。…鳩山由紀夫代表は、(…中略…)麻生氏と同様、長い歴史を持つ政治一族の末裔なだけに、長く日本政界を牛耳ってきた支配層にすっかり辟易としている有権者にとって、麻生氏と大差はない』というくだりは、まさに我々が主張してきたことと同じである。『民主党の本当の魅力というのは「自民党ではない選択肢」だという一点に尽きる。けれども今回は、それだけでも十分かもしれないのだ』という部分も、日本中を覆い尽くしていた政治的雰囲気を、過不足なく言い表している。

フィナンシャル・タイムズ紙は、8.30総選挙直後にもきわめて優れた報道をしている。そこには次のように書かれている。『世論調査を見ても、個々の日本人に話を聞いてみても、日本の有権者は民主党の政策に心から同調して投票したというよりも、自民党に対して反乱を起こしたのだ。しかしそれでも日本人は、自分たちが本当の意味で主権を行使した、あるいは影響力を発揮したのかどうか、確信できずにいる。その証拠に30日の夜、こんなことがあった。あるイタリアのテレビ・プロデューサーが「民主主義の歴史的勝利をあちこちで祝っている日本人の画像をとってこい」と、カメラマンを外に送り出したのだが、そんな光景はどこにもなかったのだという。「何も録画できなかったんだ」とこのプロデューサーは嘆いていた』

どうして国内メディアはこのような報道をしないのだろうか。このままの状態が今後も続くなら、もう日本国民は国内の新聞もテレビも見るのをやめて外国メディアを見るほうがいいのではないかと思うほどだ。

民主党の勝利というより自公与党の自壊。それが今回の選挙のすべてだった。そして、今までとまったく同じなのは、今回もまたメディアが機能しなかったことだ。

●2年前から感じていた「崩壊の予感」
2005年12月に発生した羽越線列車転覆事故(5名死亡)の調査のため、2007年秋、事故現場となった山形県酒田市に入った筆者はそこで衝撃的な風景に出会った。それはまさに「地方の死」としか形容しようのない世紀末の光景だった。

駅前通りを歩くと、果てしなく続く主のいないオフィスビル。「入居者募集中」の張り紙が空しく響く。かつてその光景はシャッター通りと形容されたが、しかし今やその言葉さえ生ぬるいように思えた。酒田駅の駅前通りで開店していたのは喫茶店が1店のほか、文具屋とパチンコ屋だけだったのだ。

人口10万人を超える地方中核都市の駅前通りで、開店しているのがわずか3店、そのうち1店はギャンブル場という衝撃の事実。地方の荒廃が尋常でないということは報道で知っていたが、現実にここまで凄まじい荒廃を見たのは初めてだった。失われた10年は地方を直撃し、弱肉強食の新自由主義的「構造改革」がそれにとどめを刺そうとしていた。「地方をこのような状態にした者たちの責任を問わなければならない」との思いが強まった。

自民党政権が、800兆円を超える天文学的借金を作りながら、潤ったのは土建屋だけで庶民には何も残らなかったという事実がはっきりした。半世紀にわたってこの国を支配してきた自民党政権は今度こそ本当に終わりではないか…この惨状を見て、2年前、筆者はそんな確信を持った。

実際、地域社会全体が崩壊の崖っぷちに追い込まれている東北地方での有権者の自民党離反は決定的だった。「河北新報」紙(東北の地方紙)の報道によれば、秋田県では自民党候補が街頭演説をしようとすると「今度はもう騙されないからな!」と罵声を浴びせられたという。「政策を訴える以前に耳も傾けてもらえない」と、この候補者はがっくりと肩を落としたそうだ。

だが筆者にはこの候補者に同情する気なんてこれっぽっちも起きない。小泉政権以来、「人の言うことを聞かないのがリーダーシップ」だと言わんばかりの風潮が自公政権内にはびこり、歴代首相は国民の声にまったく耳を傾けなかった。他人の意見を聞かない者が「街頭演説をしても聞いてもらえない」などと、どの面を下げて言っているのか。この候補者が恨むべきは有権者ではなく自民党執行部である。

真実を伝える気のないメディアより、自分の足で現場を歩いているときの皮膚感覚のほうが何倍も優れた感度を示すということはよくある。2007年の参議院選に続く8.30総選挙での自公政権大惨敗は、こうした状態に追い込まれた地方から突きつけられた新自由主義政策への「不信任」といえる。

●国会を追放された「医療崩壊のA級戦犯」〜お年寄りと子どもの反乱
同じ「河北新報」紙の報道によれば、福島県ではお年寄りが後期高齢者医療制度を「姥捨て山医療制度」だと囁く声が聞こえたという。制度が導入されて1年あまりが過ぎたが、この制度への怒りをお年寄りたちは忘れていなかった。その怒りの象徴となった選挙区が茨城6区だ。

ここに自民党厚生族のドン・丹羽雄哉氏がいる。宮澤・小渕・森内閣で厚生大臣を務め、後期高齢者医療制度導入や診療報酬「改定」の中心的役割を果たしてきた。しかし、これらの「老人医療安楽死」政策に反発を強めた茨城県医師会が初めて自民党不支持を表明し、医師会の乱として話題を呼んだ。結局、医師会の乱も手伝って丹羽は落選、比例での復活当選も果たせなかった。医療崩壊のA級戦犯は国会から追放された。

今回の総選挙はまた「子育て」が大きな争点になった。OECD諸国で子どもたちのために割かれる予算が最も少ないため、「子どもの最貧国」となった日本で、子どもたちは親を通じて政治的影響力を行使した。子育てがこれほど大きな争点になった選挙は、少なくとも戦後初ではないだろうか。

●悪政推進、宗教政党の落日
公明党は小選挙区で全滅、改正前の31議席から10減の21議席にとどまった。党幹部らがつまらないメンツにこだわって比例区に重複立候補しない方針をとったが、結果的に裏目に出た。10年間、自民党の悪政推進装置を続けてきた党への審判だ。

宗教団体「幸福の科学」が母体の幸福実現党も、いかにも大衆受けしそうな北朝鮮のミサイル防衛を訴え「ウルトラ右翼」ぶりをアピールしたが相手にされなかった。冷静に考えれば当然のことだ。自公政権のもとで年間3万人の自殺者が11年間も続いた。合計で33万人であり、これは東京都特別区の人口に匹敵する数字である。特別区がひとつ消えてなくなるほどたくさんの人が愛する人を残してみずから命を絶ったことになるわけだ。北朝鮮のミサイルが飛来しても、33万人の死者を出す可能性は低いだろう。筆者には北朝鮮のミサイルより自公政権のほうがよほど恐ろしい。

●2大政党の今後
これから政権与党となる民主党への評価は割れている。民主党は所詮「第2自民党」であり自民党のエピゴーネンに過ぎないという左派からの批判はおそらく正しい。しかしたとえそうだとしても、国民不在の古い統治機構、時代遅れの意志決定システムが打ち砕かれる意義は、とてつもなく大きい。

総選挙後の自民党瓦解、解党を予測する声も聞こえてくる。いくら何でもそこまで一気に行くかどうかは慎重な判断にならざるを得ないが、自民党瓦解が現実になってもおかしくない政治的雰囲気はある。それに、1991年、ソ連共産党の長期政権が解体したときも、事態は一気に共産党解散まで進んでしまったのだから、あながちあり得ない話とばかりも言えない。

たしかに、現在の日本は共産党長期支配が崩壊する直前のソ連にきわめて状況がよく似ている。制度疲労を起こし何事も決定できない政治、硬直化した官僚体制、経済の疲弊と国民の閉塞感。あのときのソ連も「共産党以外なら何でもいい」という雰囲気があった。

ソ連の共産党支配は74年、日本の自民党支配は53年という長期にわたっているところも共通している。そして、ソ連共産党支配を覆した中心人物、エリツィンが元ソ連共産党政治局員候補だったように、自民党支配を覆す中心人物もまた旧自民党から出てくることになる。さしあたりそれが民主党だ。

これから先、日本の政治がどうなるかは不確定要素が多く、予測不可能だと思っている人もいるかもしれない。しかし、歴史をひもとくと、類似の事例が転がっているということはままある。もし筆者の直感が正しく、事態があのときのソ連と同じように進むとするなら、総選挙後の自民党解体は十分あり得る。しかし、その後のロシアで共産党が再結成されたように、自民党再建もまたあり得る。もし、より縮小された形での自民党再建があり得るとすれば、その「再建自民党」はおそらく今よりももっとイデオロギー的な政党として私たちの前に立ち現れるのではないか。新自由主義と市場原理主義イデオロギーを身にまとったサッチャーリズムの党として姿を現すのではないかという気がする。

●左翼大衆政党の必然性
「国労を潰せば総評は潰れ、社会党も潰れる」と言った中曽根の公約は達成され、自民党をぶっ壊すと叫んだ小泉の「公約」も達成された今、55年体制は完全に終焉を迎えた。今回の選挙は、55年体制の完全な終焉を決定づけたという点においても歴史の転換点になるだろう。そして旧社会党解体以来、現在ほど大衆的左翼政党の必要性が痛切に感じられるときはない。

日本社会の凄惨な状況は上述の通りなので繰り返さないが、旧社会党の崩壊は大きく分けて敵からの攻撃に有効な対処ができなかったことと、55年体制に内包された惰性となれ合いの構造に安住し、自己改革を怠ったという内面的問題の両面から発している。労働者が働いても働いても食べることができず、貧困のどん底でもがいているとき、左翼の有効性は一目瞭然であるのになぜ市民の支持を集められないのかが真剣に総括される必要がある。

さしあたり、日本社会に今すぐ必要なのが大衆的左翼政党である。情勢に柔軟に適応する能力、敵よりも1日長く闘いに市民を動員できる能力を備え、かつ法令遵守と適切な民主的運営が確保された左翼政党である。組織上の要件としては、入党資格を労働者階級に限定し、社会主義的綱領(現段階では最小限度として資本主義からの脱却と金融資本・経営・生産に対する労働者の統制が含まれていればよい)を持ち、スターリン主義でないこと。こうした政党は、筆者の見る限り日本に2〜3程度あるが、いずれも弱小である。こうした大衆的左翼政党を1日も早く生み育てて送り出し、国会の内と外を結んだ広範な運動を継続的に進めていける体制作りが、左翼陣営に課せられた緊急課題である。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
http://www.geocities.jp/nakamaunion1/

安全問題研究会サイト
http://www.geocities.jp/aichi200410/

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