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愛知製鋼が不正告発の「派遣社員」切り捨て(酒井徹)
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愛知製鋼が不正告発の「派遣社員」切り捨て
――労働局の直接雇用推奨の指導にもかかわらず――
http://imadegawa.exblog.jp/11746336/

トヨタグループの鋼材メーカー・愛知製鋼は
今年2月9日、
労働者派遣法上の期間制限を超えて
労働者派遣を受け続けてきたとして
愛知労働局から文書指導を受け、
労働者の直接雇用が望ましいと
直接雇用の推奨を受けた。

しかし愛知製鋼は、
不正を労働局に申告した労働者を社内から追放、
労働局からの直接雇用の推奨も
「受けていない」としらを切り続けている。

■報道直後に産廃に配転、給料激減!
偽装請負・違法派遣を
愛知労働局に告発した久保勝司さん(49歳)は
2004年9月から
「セキ」という派遣会社を通じて愛知製鋼で働いてきた。
2005年5月末までは鍛造工場でプレスの型替えを、
その後は冷間ローリングミルを行なう業務に従事した。
久保さんは愛知製鋼の社員とチームを組み、
愛知製鋼社員の指揮命令の下で働いてきた。
作業手順の指示や技術的指導、
出勤・退勤時間の管理まで愛知製鋼が行なっており、
残業も愛知製鋼の現場責任者からの指示に従っていた。

しかし、
ある会社の従業員が、
他社の従業員を自らの指揮命令下で働かせることは
原則としてできないことになっている。
そうしたことをする場合には
会社同士が労働者派遣契約を結ぶなど、
適正な手続きを踏まなければならない。

だが、
当初愛知製鋼は、
久保さんについて
セキと労働者派遣契約を締結してなどいなかった。
愛知製鋼は
100パーセント子会社・アイチセラテックとの間に
業務請負契約を締結し、
アイチセラテックがセキとの間に
業務請負契約を締結。
つまり、
派遣先が様々な義務を負う
「労働者派遣」という形をとることなく、
「請負」契約という形式を偽装して
実際には労働者の派遣を受けるという、
典型的な偽装請負(しかも違法な二重派遣)の
状態だった訳なのだ。
(セキの直接の「発注先」であるはずの
 アイチセラテックの従業員など、
 現場にはいなかったと久保さんは証言している。
 アイチセラテックは、
 愛知製鋼とセキとの間に入り、
 ただ利益をかすめ取るだけの存在だった)。

久保さんはこの不正を愛知労働局に告発。
愛知労働局は調査の結果、
愛知製鋼が労働者派遣法上の期間制限を超えて
久保さんを受け入れていた事実を認定して
正常化を指導。
正常化にあたっては
「直接雇用が望ましい」との
直接雇用の推奨が行なわれた(朝日新聞、中日新聞2月26日)。

ところが、
これに対する愛知製鋼の仕打ちは
ひどいものだった。
愛知製鋼の不正が認定され、
労働局の指導が行なわれたことが
新聞などで報道された直後の3月6日、
久保さんは突如
これまで働き続けてきた愛知製鋼の職場を追われ、
産廃処理施設に移るよう命じられた。
それまで1万600円もらっていた日当は
7300円に激減。
まさに辞めろといわんばかりの状態に
陥れられたのである。
(賃金は、その後の抗議で回復された)。

久保さんの加盟する
愛知県の個人加盟労働組合・名古屋ふれあいユニオンは、
直ちに久保さんの直接雇用を求めて
愛知製鋼に団体交渉を求めたが、
愛知製鋼は「雇用関係にない」の一言でこれを拒絶。
名古屋ふれあいユニオンが愛知県労働委員会に
不当労働行為の救済を申し立てると愛知製鋼は、
愛知労働局の指導に従って
セキとの契約を打ち切り、正常化したのだと
居直ったのである。

■労働局の直接雇用推奨は確かだ
セキとの違法な契約を打ち切ること自体は正しい。
だが、
そのセキでは不正を告発した久保さんが
働いているのである。
愛知労働局は
久保さんの直接雇用を推奨したはずだ。
このことは、
私たち名古屋ふれあいユニオン側も
何度も愛知労働局の担当者から
確認している事実である。

にもかかわらず愛知製鋼は、
愛知労働局が久保さんの直接雇用を推奨した事実を、
愛知県労働委員会に提出した「準備書面」の中で
真っ向から否定し、
「愛知労働局は、
 被申立人(筆者注:=愛知製鋼)と
 株式会社セキに対しては、
 久保の被申立人による直接雇用も
 選択肢の一つであるとして
 口頭で紹介したものであって、
 これは事実以外のなにものでもない」と
主張し始めたのである。

何度も言うが、
名古屋ふれあいユニオン側は
愛知労働局の担当者に、
労働局が愛知製鋼に
久保さんの直接雇用を確かに推奨したという事実を
何度も何度も確認している。
愛知製鋼の言い分は白々しいにもほどがある。

さらに愛知製鋼は、
労働局が直接雇用を「推奨」するなどという行為は、
厚生労働省の
「労働者派遣事業関係取扱要領」(平成19年4月1日通達)に
「反するものであり、
 愛知労働局が……通達に反する行為に及ぶことなど
 あり得ないことである。
 それゆえ、
 愛知労働局は、
 被申立人らに対し、
 久保の被申立人による直接雇用も
 選択肢の一つであると口頭で紹介したと
 推認できる」と、
あろうことか
何度も事実を確認している
名古屋ふれあいユニオンの側を
うそつき呼ばわりする挙に出ているのである。

愛知製鋼は平成19年の「取扱要領」より後に出た、
平成20年11月28日発の
厚生労働省通達を知らないとみえる。
これを知らないので、
「直接雇用の推奨などされていない」などと
デタラメを言っても
ウソがばれることはないと
タカをくくっているのであろう。

しかし、
平成20年11月28日付の厚生労働省通達・
「現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえた
 労働者派遣契約の解除等に係る指導に当たっての
 労働者の雇用の安定の確保について」には、
久保さんのようなケースにおいては
直接雇用を推奨すると明確に謳っているのである。
以下に、
該当する箇所を引用する。

《労働者派遣法に基づく指導監督においては、
 これまでも対象となる労働者の
 雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提に
 違反事項の是正を図るよう
 指導しているところであるが、
 偽装請負等の是正指導後の
 労働者の雇用状況……を見ると
 離職に至った労働者も見られることから、
 是正指導に当たっては、
 労働者の雇用の安定を図るための措置について
 指導を徹底すること。

 また、今般、
 国会に提出された労働者派遣法改正案においては、
 適用除外業務への派遣労働者の受入、
 派遣可能期間の制限や偽装請負等に違反した
 役務の提供を受ける者に対しては、
 当該派遣労働者に対して
 労働契約の申込みをするよう勧告することができると
 されているところであり、
 この労働者派遣法改正案の趣旨も踏まえ、
 また、
 現下の厳しい雇用失業情勢における
 雇用対策の一環として、
 今後の是正指導に当たっては、
 対象労働者の雇用の安定を図るための措置を
 講ずることの指導とは別に、
 派遣先又は発注者に対して
 対象労働者の直接雇用を推奨すること。》
(平成20年11月28日厚生労働省職業安定局長通達)

偽装請負や派遣可能期間の制限越えなどに対する
指導監督においては、
「雇用の安定を図るための措置を講ずることの
 指導とは別に、
 派遣先又は発注者に対して
 対象労働者の直接雇用を推奨すること」と、
他ならぬ厚生労働省の通達に
はっきりと明記されているのである。
平成19年の厚生労働省通達(の独自の解釈)を元に、
労働局(厚生労働省の機関である)が自分たちに、
直接雇用の推奨に「及ぶことなどあり得ない」と
大見得を切った愛知製鋼は、
この平成20年11月28日付厚生労働省通達を前にして
いかなる言い訳をするのだろうか。

■「久保さんを直接雇用せよ!」集会に50人以上!
6月13日、
ウソにウソを重ねる愛知製鋼に対し、
久保さんを支援する市民団体の主催で
「愛知製鋼は久保さんを直接雇用せよ!」と題する
集会が開催された。
集会には、
予想を超える50人以上が参加して
用意された会場が満席になり、
多くの市民が
名古屋ふれあいユニオン知多分会
(愛知製鋼非正規労働者分会)の
槻本力也分会長や久保さんの語る
愛知製鋼の労働実態に耳を傾けた。

集会の最後には、
愛知製鋼との労働委員会闘争を闘う
名古屋ふれあいユニオンへの会場カンパも呼びかけられ、
筆者がユニオンを代表してこれを受け取った。
「きっとこの闘いに勝利して、
 みなさんにこの御恩をお返しして見せます」と
筆者は言った。

不正を告発した労働者を、
会社から追い出すことで成立する「正常化」など、
絶対に認められてはならない。
「職場の理不尽を許さない」をモットーとする
名古屋ふれあいユニオンは、
全力を挙げて、
愛知労働局の指導に基づき、
久保さんの直接雇用を
愛知製鋼に強く働きかけていくとしている。 
(インターネット新聞「JANJAN」8月10日から
 加筆転載)

酒井徹

Created by staff01. Last modified on 2009-08-19 19:21:02 Copyright: Default

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