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LNJ Logo 木下昌明の映画批評〜「靖国 YASUKUNI」とはどんな映画か
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News Item 0404kinosita
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●映画「靖国 YASUKUNI」

「反日」のレッテルを貼られた
映画が描く「もう一つの靖国」

 国会議員限定という異例の試写会が催されたり、混乱の恐れを理由に上映を取りやめ た劇場が出るなど話題を呼んでいるのが、中国人の李纓監督によるドキュメンタリー「 靖国 YASUKUNI」だ。

 A級戦犯を合祀する東京・九段の靖国神社に小泉純一郎首相(当時)があえて参拝し たことで国内外が騒然とし、それを機に靖国問題を追究したテレビ番組や、反靖国の記 録映画などが相次いで作られたが、特に問題にはならなかった。しかし、この映画が文 化庁所管法人の助成金を受けていることから、助成にふさわしい内容か、と自民党議員 から疑問が出されたのだ。

 ともあれ、「靖国」とはどんな映画なのか。
 実際、李監督は「反日的」と見られかねないことを意識して政治色を排している。ナ レーションも一切なしに、靖国の「今」を包み込むようにとらえながら、日本人には見 えなかった歴史に光を当てる。

 8月15日、開門とともに境内にあふれる旧陸海軍の軍服をまとった集団、米国旗を掲 げた奇妙な米国人、参拝推進運動の集会で反対を叫び、袋だたきに遭う若者……混沌と した一日をカメラは追う。

 その一方で、90歳でなおかくしゃくとした刀匠が、一振りの刀を鍛え上げるさまをと らえる。靖国神社の「ご神体」は刀である。敗戦まで、神社の境内では8100振りの 「靖国刀」が作られ、戦場の将校に支給されていた。

 一見、水と油の二つの光景がサンドイッチされて、一つにより合わされていく。そこ にこの映画の妙がある。

 ラスト、軍人が台湾人や中国人を斬首したり、特攻機に軍刀を持って乗り込む古い映 像や写真を挿入しつつ、墓碑ならぬ「刀」こそ精神的支柱とする神社の本質をあぶり出 す。外からの目でしかとらえられないもう一つの“靖国”といえよう。

*「サンデー毎日」08年4月13日号所収


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