「９・２９県民大会」に、実に１１万６，０００人が結集 - 教科書検定意見の撤回と集団自決（強制集団死）記述の回復を決議

　「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれる９月２９日（土）、ぼくは沖縄に行きました。おカネもないのに９月２度目の訪問です。でも、この歴史的な瞬間をウチナーンチュと共有したいとの思いの方が強かったのです。１０時３５分に那覇空港に到着し、空港内で弁当を買って高速バスで琉大北口へ向かいました。バス停から“ガラガラ”を押して宜野湾セミナーハウスに着くまでに汗だくになりました。気温は３５度前後だったのではないでしょうか。セミナーハウスから乗用車で会場（宜野湾市海浜公園）まで送ってもらいましたが、大渋滞で開会ギリギリにやっと到着できました。

　↑　会場（宜野湾市海浜公園）全景

　ひっきりなしに陸続と参加者が会場に集まる中、午後３時、沖縄平和祈念堂管理事務所長・比嘉正詔（せいしょう）さんの司会で県民大会が始まり、まず、沖縄県ＰＴＡ連合会会長・諸見里宏美（もろみざとひろみ）さんが県民へのアピール（開会の挨拶）を読み上げました。

砲弾の豪雨の中へ放り出され　自決せよと強いられ
死んでいったうちなーんちゅの魂は
怒りをもって再びこの島の上を　さまよっている

いまだ砲弾が埋まる沖縄の野山に　拾われない死者の骨が散らばる
泥にまみれて死んだ魂を　正義の戦争のために殉じたと
偽りをいうなかれ

歴史の真実をそのまま　次の世代へ伝えることが
日本を正しく歩ましめる
歪められた教科書は　再び戦争と破壊へと向かう

沖縄戦の死者の怒りの声が　聞こえないか
ヤマトゥの政治家・文科省には届かないか
届かなければ　聞こえなければ
生きている私たちが声を一つにして　押し上げ　訴えよう

　↑　「平和の火」

　↑　「平和の火」に点火

　糸満市の平和の礎（いしじ）からの「平和の火」のリレーが入場し、点火されます。大会実行委員長・仲里利信県議会議長が挨拶に立ち、県民大会実現に至る経過を述べ、「軍命による『集団自決』だったのか、あるいは文科省が言う『自ら進んで死を選択した』とする殉国美談を認めるかが問われている」「公平、中立を装いつつ、シナリオ通りに修正を求めたもので、検定意見は審議会を隠れ蓑にした文科省の自作自演だ」と述べました。仲井真弘多・県知事、中山勲・県教育委員会委員長、沖縄県市長会会長・翁長雄志（おながたけし）那覇市長の挨拶と続きました。

　↑　津嘉山拡大くんと照屋奈津美さん

　高校生の発言は、読谷高校３年生の津嘉山拡大（つかやまこうだい）くんと照屋奈津美さんです。まず津嘉山くんが「日本軍強制の記述をなくそうとしている人たちは、おじぃ、おばぁたちが嘘をついていると言いたいのでしょうか！思い違いだったと言いたいのでしょうか！」「手榴弾を配った日本軍は、明らかに自決を強制していると思います」と発言し、続いて照屋さんが「なぜ戦後６０年以上過ぎた今になって、記述内容を変える必要があるのでしょうか」「私は将来高校で日本史を教える教師になりたいと思い勉強しています」「分厚い教科書の中のたった一文、たった一言かも知れませんが、その中には失われた多くの尊い命があります。二度と戦争は繰り返してはいけないという沖縄県民の強い思いがあるのです」「嘘を真実と言わないで下さい。私たちは真実を学びたい」と訴えました。最後に二人は声を合わせて「たとえ醜くても真実を知りたい、学びたい、そして伝えたい！」と決意を語り、とりわけ大きな拍手が二人に送られました。
　県を代表しての仲井真弘多知事の挨拶が、事務方が作成した原稿を誤りなく朗読するだけという、感動の伝わらないものであったのに対して、かれら高校生の発言は、はつらつとし且つ凛としたもので、ぼくは熱いものがこみ上げてくるのを止めることができませんでした。
　続いて戦争体験者として渡嘉敷村教育委員会委員長・吉川嘉勝さんと、座間味島の「集団自決」の生き残りである宮平春子さんのメッセージを宮里芳和さんが代読しました。ぼくがこの日の大会をことのほか身近なものに感じた理由の一つは、今年、「大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会」から渡嘉敷・座間味研修旅行に行った際、３月２５日（日）に吉川嘉勝さんにガイドをしていただき、９月９日（日）の「出張法廷前日集会」で宮里芳和さんの報告を聞いたからです。

　↑　吉川嘉勝さん

　吉川さんは「村長の天皇陛下万歳の後、あちらこちらで手榴弾が爆発するのを記憶しております」「今回の教科書検定結果には我慢がなりません！」と怒りを表明し、「沖縄はまたも国の踏み台、捨て石になっている。子どもや孫の時代が危ない！　みんなそう自覚しているからここに参集しているのだろうと思います。為政者はそのわれわれの思いをきちっと、きちっと受け止めるべきです！」と語りました。そして、第一に、渡嘉敷でも座間味でも日本軍がいなければ「集団自決」は決行されなかった、第二に赤松隊長が北山（にしやま）に島民数百人も集めなければ３２９人もの死者は出なかった、第三に手榴弾が民間人に渡されなければ「集団自決」は決行されなかったと述べ、「事実を解釈によって歪曲してはならない！」と強調されました。宮平さんもメッセージで、座間味島の「集団自決」でも軍からの玉砕命令が出されたことを具体的に明らかにしました。

　女性代表、子ども会代表、青年代表の発言と続き、大会決議採択の前に会場カンパの集約が報告されました。その額、何と６７９万７千３百余円！！　会場からはウォーという歓声が上がりました。
　県民大会決議は、その後半部分で「今回の教科書検定に際して、文部科学省はあらかじめ合否の方針や検定意見の内容を取りまとめた上で教科書図書検定調査審議会に諮問していること、諮問案の取りまとめに当たっては係争中の裁判を理由にし、かつ、一方の当事者の主張のみを取り上げていること、同審議会では『集団自決』の議論が全くなされていなかったことなど、新たな事実が相次いで判明したのにもかかわらず、依然として対応を改めようとしていない。
　教科書は未来を担う子どもたちに真実を伝える重要な役割を担っている。だからこそ子どもたちに、沖縄戦における『集団自決』が日本軍による関与なしに起こり得なかったことが紛れもない事実であったことを正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や、平和を希求することの必要性、悲惨な戦争を再び起こさないようにするためにはどうすればよいのかなどを教えていくことは、我々に課せられた重大な責務である。　よって、沖縄県民は、本日の県民大会において、県民の総意として国に対し今回の教科書検定意見が撤回され、『集団自決』記述の回復が直ちに行われるよう決議する」と、鮮明に主張を明らかにしています。

　↑　ガンバロー三唱

　県民大会は参加者１１万人、会場に入れずに引き返した人が１万人強、宮古で２，５００人、八重山で３，５００人が結集するという、１９９５年１０月２１日の８万５，０００人を上回る空前の規模となりました。そして、①教科書検定意見の撤回、②「集団自決」記述の回復、という２点を県民の総意として採択したのです。　ぼくは、残念ながら１９９５年１０月２１日の県民大会には参加していません。ですから想像するしかありませんが、あの時は何か鋭利な刃物が天に向かって突き刺すような雰囲気があったのではないかと思うのです。それに対し、この日の県民大会は、地の底からグァーンと地響きがしてくるような、そして荘厳さすら感じさせるものでした。

　↑　県民大会会場で、山内徳信さん（左）と筆者（右）

　大会には実に多くの若者、青年、少年・少女、子どもたちが参加していました。沖縄戦の記憶は確実に次代へと引き継がれていくでしょう。この時、ヤマトゥは、ヤマトンチュのぼくは何をしているのか、何をしていかねばならないのか、心が締め付けられる感情と、ウチナーとウチナーンチュに対する心の底からの敬意を抱きました。

　文・写真　西浜楢和（大阪市立大学大学院生）