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LNJ Logo 柏崎刈羽原発と記録映画『サクリファイス』
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佐々木です。

柏崎刈羽原発の放射能漏れの事実が次から次へと出てきています。政府は「人体や環
境に影響はない」としていますが、これだけの事実が隠蔽されていたことを思う
と信用するのは無理というものです。
ひとつ間違えば、今回の事態はチェルノブイリ級の大惨事になっていたかもしれ
ません。これは、決して地元の方々だけの問題ではなく、日本そして世界に取り
戻しのつかないダメージを与えたかもしれないということです。

チェルノブイリで被爆した人々の死について描かれた『サクリファイス』という
ドキュメンタリー映画があります。放射線の被爆で死ぬことがいかに残酷なこと
なのかがわかる映画です。それは、広島、長崎の人々の苦しみと同じです。いま、
この映画を多くの方々に観てほしい、そして原発についてもう一度考えてほしい
というのがわたしの切実な想いです。

昨年日本で上映された際に季刊『前夜』8号に書いた文章がありますので、お読みいただければ幸いです。この文章では、劣化ウランの被害を描いたドキュメンタリー『ポイズン・ダスト』
にもふれています。


『前夜』8号映画評 佐々木有美ーーーーーーーーー

『サクリファイス』 監督 E・アンドレオリ W・チェルトコフ
『ポイズン・ダスト』 監督 S・ハリス

 チェルノブイリ原発事故(1986年)から今年で20年がたつ。これを機
にビデオ『サクリファイス』(スイス/フェルダート・フィルム 03年25分)
が日本に紹介された。

 1991年、家庭の居間らしき部屋に6人の男性とその妻やこどもがいる。
かれらは、チェルノブイリ原発事故で事故処理作業をした人々だ。防護服もなく、
ガーゼのマスクと鉛板を切り取ったベストのようなものを身につけただけで作業
をしたかれらは莫大な放射線を浴びた。そのお陰でチェルノブイリは、ヨーロッ
パ全土を居住不能にしたかもしれない事故後の大爆発を免れた。しかし、最初は
英雄扱いされたこの人々も、すぐに国家からも社会からも見捨てられる。神経や
臓器を冒され身体の不調を訴えるかれらに、医者はこれが被曝によるものだとい
うことさえ言わない。「わたしたちは社会のゴミだ」と男性のひとりはつぶやく。

 1999年、アパートの一室に男性がいる。91年の6人のなかのひとりだ。
「最近、しきりに倒れるようになった」と言う。「何人もの友に先立たれ、場違
いな白いカラスみたいに取り残された」「チェルノブイリは悪夢だ」と話す。男
性の望みは、車で戸外をドライブすること。そんなことさえ許されない現実をか
れは生きている。

 そして2001年。男性の遺影が飾られた部屋。妻は男性がいかに死んでいっ
たかを話す。「生きながらにして身体が崩壊した」という言葉に放射線による死
の苛酷さがにじみ出る。肉がそげ落ち、骨がむきだしになり、最後にはその骨が
分解し腐乱していく夫の身体を彼女は看護しつづけた。そのうえかれらは、住宅
を確保するにも、病院で満足な治療を受けるためにもハンストをしなければなら
なかった。10代の娘にも息子にも障害がある。この妻とこどもたちの表情にわ
たしは胸をつかれた。すべての悲しみを抱えて生きてきた、そしてこれからも生
きていかなくてはならない人間の表情。かれらの表情こそチェルノブイリ事故と
は何だったのかをわたしたちに語ってやまない。

 『ポイズン・ダスト』(ピープルズビデオネットワーク 05年30分)という
アメリカのドキュメンタリービデオの日本語版がつい最近完成した。この中に出
てくるイラク戦争からの帰還兵たちは、チェルノブイリの事故処理作業にあたっ
た人たちとまったく同じ病状を呈している。かれらは米軍が戦争で使った劣化ウ
ラン弾に被曝したのだ。(劣化ウランは原発からの廃棄物で、アメリカ政府はこ
れをただで兵器工場に流し、放射性廃棄物の除去と兵器産業への原料の供給を一
挙にやってのけた)。同じなのはかれらの病状だけでなく、国家からまったく無
視されなんの援助も受けられないという点でも、我が子に障害があるということ
でも、そして妻の嘆きの声さえも同じなのだ。ここにもうひとつのサクリファイ
スがある。

1991年の湾岸戦争に参戦した米軍兵士だけでも、2002年までに22万人
以上(全体の三分の一)が傷病者になっている。死者は1万人あまり。これらの
人々の多くは劣化ウランの犠牲者だ。イラク現地では、こどもたちに白血病、ガ
ンが多発している。そしてチェルノブイリで事故処理作業にあたった人々の総数
は、このビデオでは100万人(60〜80万人という説も)といわれている。
そのうちの数万人がすでに死亡し、いまも死の途上にある人々が多数いる。

放射線による障害と死は、つねに国家による隠蔽と無視のなかにおかれている。
それほどこの犠牲は大きく取り返しのつかないものだということのこれは証左で
もある。チェルノブイリの事故炉の処理には1世紀かかるといわれる。そして傷
ついたのは原発や人間だけではなく北半球のほぼ全域が程度の差はあれ放射性物
質に汚染された。日本では、チェルノブイリ事故が起きた86年、原発は33基
だったが現在は55基に増えている。サクリファイスはわたしたち自身の未来の
現実でもある。原発を作った人間は原発をやめることができる。問われているの
はわたしたちの意思だ。

「匂いもなく、姿も見えず、音もださない殺人者、そこでは遠くの出来事とか、
近くの出来事とか、身内とか他人とかまったく意味はなくなってしまいました。
・・・遠かろうと近かろうと、チェルノブイリの雲は四日もあればアフリカにだっ
て届くんです。チェルノブイリは一つの世界からまったく別の世界に私たちを放
り込んだんです。好むとこのまざるとにかかわらず、これは新しい現実です。」
(スベトラーナ・アレクシェービッチ/記録作家)

※『サクリファイス』問い合わせ先 原子力資料情報室 ? 03-3357-3800
※『ポイズン・ダスト』問い合わせ先 ビデオプレス ? 03-3530-8588 http://www.vpress.jp/
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※『サクリファイス』(DVD)の価格は1000円(送料込み)、上記原子力資料情
報室にお申し込みこみください。

Created by staff01. Last modified on 2007-07-21 00:44:39 Copyright: Default

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