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LNJ Logo プレカリアートの希望は戦争に非ず─赤木智弘批判(攝津正)
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攝津正

 皆さんは、『論座』http://opendoors.asahi.com/ronza/ を騒がせている一人の男のことをご存知だろうか。彼の名前は、赤木智弘 http://www7.vis.ne.jp/~t-job/ 。『論座』2007年1月号掲載「「丸山眞男」をひっぱたきたい」で世間に衝撃を与えた彼は、その後も様々なメディアに露出して発言を繰り返している。彼は、深夜コンビニで働く自分の境遇がいかに辛いものかを訴え、「31歳フリーター 希望は、戦争」と語る。その意味は、今は不平等であるところの、「不利益」の分配をするために、要するに日本国民皆に苦しんで貰うために、「戦争」を求めるということだ。彼は、戦死は国家によって名誉を与えられる死なのに対し、フリーターである自分が死んでもその死には意味や価値が与えられないと語っている。が、その論理は倒錯している。そもそも国家が、人の死を選別し等級づけることそれ自体を批判すべきなのに、国家=公による死の意味づけを求めることはおかしい。雨宮処凛は、『群像』の連載「プレカリアートの憂鬱」で応答し、「三二歳不安定作家。希望は、革命戦争」などと述べているが、これもおかしい。「革命戦争」なる言葉で彼女はどのような具体的状況を思い描いているのか。かつての左翼の問題性があるとしたら、帝国主義戦争には反対だが革命戦争はいいのだとか、アメリカの軍備は批判するがソ連や中国の軍備は容認するといった二重基準にこそあるのではないのか。日本国憲法9条のラディカルな平和主義は、自衛軍創設を公言して憚らぬ保守政治家のみならず、「赤軍」なら良いのだと語っていたかつての左翼も批判するものだ。

 全共闘に顕著だったように、「戦後民主主義」的平和の欺瞞性ということは多くの人達によって語られてきた。そして、全共闘の学生達は、文字通り、丸山眞男の研究室に突入し、蔵書を破壊したのである。その事件について、批評家の吉本隆明が『情況』という本の冒頭論文で論評しているが、自ら育てた学生らに手を噛まれて、「諸君のやったことは、ナチスですらやらなかったことだ」などと狼狽する丸山は確かに滑稽だと思うし、批判されるべきだと思う。「68年革命」的エートスは、「戦後民主主義」的秩序の転覆を目論んでいたのだから、そして端的な破壊とナンセンスの力で社会を組み替えようとしていたのだから、全共闘の過激派学生が研究室の秩序をぶっ壊すのも当然である。

 或る意味では、丸山の研究室を襲撃した左翼学生は、丸山眞男をひっぱたきたいという赤木らのメンタリティの先駆をなしているとも言える。赤木は運動の歴史に無知だから、既に丸山をひっぱたいていた人々が過去にいたのに、あたかも新しい何事かのように嬉々として丸山をひっぱたきたい云々と語っているだけである。

 赤木智弘の心性は、真正の「怨恨(ルサンチマン)」である。自らが恵まれないから、辛いから、他の自分よりほんの少し幸福そうな連中に不幸になってもらいたい。苦しんでもらいたい。怨恨は関係の絶対性(吉本)であるから、確かに乗り越え難いものかもしれない。が、怨恨から他者の足を引っ張ろうとする行為は無益そのものである。赤木は、2ちゃんねるをはじめ社会に瀰漫する「なんとなくサヨ嫌い」の「気分」を実名で書いたというだけで、何らオリジナリティも可能性も全く無い。とはいえ、赤木的言説は、「ファシズム」を説く外山恒一の過激な言説と違い、伝播・流布する可能性がある。というより、現にそうなっている。だからこそ、(敢えて言うが)われわれ左派は彼の言説を全力で叩き潰さねばならない。彼に同情したり、共感してはならない。感情に訴える彼の議論そのものが不当で不正なものなのだから、彼のようなタイプの言説には徹頭徹尾「冷淡」であるべきなのだ。赤木は、既成左翼世代に自分らに「謝罪」して欲しかったとか、謝罪の言葉が無いなどと不平不満を漏らしているようだが、それは単に傲慢というほかないだろう。何故、特に彼に対して謝罪などせねばならないのか。今のこの「生きづらい」社会を作り出しているのは、政府・権力者や経団連など財界の側であり、彼が標的としている、彼よりほんの少し余裕があるといった層の人達の責任ではないはずである。一体何の資格があって、他者に謝罪などを求める権利があると思い込んでいるのか。

 そして、当たり前のことを指摘する必要があるが、「戦争」は自己内で完結する営為ではない。必ず相手があり、加害-被害関係があるのである。戦争が自分以外の多くの人々を巻き込み、傷つけ、不幸にするというその構造に無自覚なまま、戦争によって「リセット」を願うなどといった言説は決して許されない。彼の言説を、その観点から徹底批判し続ける必要があるのだ。


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