
「巨大魚」で世界経済を描く
あのダーウィンも驚くだろう
「ナイルパーチ」はスズキに似ている淡水魚だ。日本ではスーパーなどでよく売られて
いるが、実はアフリカ最大の湖、ビクトリア湖で獲れる体調2メートルにも達する巨大魚。
オーストラリアのフーベルト・ザウパー監督がつくった記録映画『ダーウィンの悪夢
』は、この巨大魚を題材にしている。ビクトリア湖はヤダーウィンの箱庭ユといわれる
多種の魚の宝庫だったが、何者かが外来種で肉食のナイルパーチの稚魚をバケツ一杯、
放流したため、在来種の魚が食い荒らされることになった。
ところが、皮肉なことに、ナイルパーチの繁殖が水産業を盛んにし、貧しい内陸から
タンザニアのムワンザに人々が押しかけ、漁師になったり加工場で働いたり、売春婦に
なったりする。魚は加工後、ただちに飛行機でヨーロッパや日本に運ばれていく。
ザウパー監督は、この魚による「新しい経済システム」が地域に何をもたらしたかに
光をあてている。
魚の巨大化によって生態系は破壊されたものの、それと同時に「商品価値のある魚」
の出現は一部の人々のもうけの対象となった。その一方で、多くの人々は貧しく、飢え
ていく。彼らにとって魚の値段が高すぎて、その“残がい”しか口にすることができな
い。映画では、魚のアラ処分場のシーンがすさまじい。
映画には、飛行機の飛んでいるシーンがしばしば出る。それは、飛行機が富める国と
貧しい国の奇妙な橋渡し役になっているからだ。アフリカから生産物や天然資源などが
運び出され、ヨーロッパからは武器が運ばれてくる。一匹の魚を媒介にグローバリゼー
ションの「寓話」が描かれる。
タンザニアの大統領はこの映画を非難し、出演したジャーナリストを逮捕しているが
、各国の映画祭で数多くの賞を受賞している。12月23日より渋谷シネマライズほかで上
映される。 (木下昌明)
*『サンデー毎日』2006/12/24号所収
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Last modified on 2006-12-12 15:16:44
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