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『ケーテ・コルヴィッツの肖像』まえがき | ||||||
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はじめに 天命をまっとうすることができずに迎える不条理な死--戦争、テロル、ある いは飢餓による死。残された人びとの悲しみを思うとき、ケーテ・コルヴィッ ツの作品がわたしの脳裏に浮かぶ。戦争で息子を奪われた両親の像、敬愛する 人を失った人びとがならぶ〈カール・リープクネヒト追憶像〉。数々の作品 は、深い悲しみとともに、その死を胸に刻み生きてゆこうとする意志を表現し ている。 ケーテ・コルヴィッツは、二度の世界大戦で、二人のペーターを失った。第一 次世界大戦で次男ペーターを、第二次世界大戦で孫のペーターを。 ケーテ・コルヴィッツは、ドイツで戦争と革命の世紀を生きた画家であった。 彼女が生まれた一八六七年は、日本では大政奉還・明治維新の年である。ドイ ツ帝国の誕生(一八七一年)、第一次世界大戦(一九一四〜一八年)、ヴァイ マル共和国成立(一九一九年)、ドイツ革命の敗北(一九一九年)、ナチスに よるファシズム支配と戦争の時代(一九三三〜四五年)を彼女は生き、戦争が 終結する直前に亡くなった。 彼女は、版画を中心にして、素描、彫刻の分野で五〇年以上にわたる活動を続 けた。その生涯に創造した版画作品は二七五点、そのほかに多数の素描や下 絵、そして色彩の施された作品と十数点の彫刻がある。その数は、多いとはい えないかもしれない。だが彼女にとって、生きることは、作品を創造すること であった。どのように困難なときでも、彼女はけっして絵画や彫刻から離れな かった。彼女の祖父は言った--「才能は、同時に使命である」と。 ケーテ・コルヴィッツは思索する芸術家であった。創造の過程で彼女は思考を 深めていく。作品を完成させるまで何年も、何十年もかけるのは、稀ではなか った。その長い時間のなかで、彼女は、たえず作品をそのときの現在の光のな かで検証した。少女時代から晩年に至るまで一〇〇点あまりにのぼる自画像 は、彼女が自己を凝視するなかから創作する作家であった証でもある。 ケーテ・コルヴィッツは文章を書く人でもあった。自画像を描くだけでなく、 文章でも自分を語っている。本を読み、日記を書き、絶えず自分をみつめた。 少女時代は『回想』(一九二三年)に、画学生の時代をへて版画家として四〇 歳になるまでは『若いころの思い出』(一九四一年)にまとめられている。一 九〇八年から書きはじめた日記は、十冊、一五〇〇ページにのぼり、率直で飾 り気なく、また自己に対して容赦ない批判の刃を向けている。それは、個人的 日録にとどまることなく、作業日誌的要素も持ちあわせていて、彼女の作品を みるときの補助線となってくれる。 ケーテ・コルヴィッツが没して六〇年。いまなお世界各地で戦禍は絶えない。 戦争による死者はなくならない。飢えもなくならない。世界六〇億の人びとの うち、八億人以上の人びとが飢餓状態にある。彼女が版画や彫刻で描いた現実 は変わっていない。イラクで戦死したアメリカ兵の母親の悲しみは、九十数年 前のケーテのそれと同じである。戦場でわが子をさがす母親も、戦争のために 寡婦となった妊婦も数知れない。「平和主義」――それは彼女が死を前にした ときの言葉である。ケーテ・コルヴィッツの作品は、いまも平和を考えるため の手がかりになるとわたしは確信している。 ケーテ・コルヴィッツの仕事は、彼女が生きた時代ときりはなして考えること はできない。彼女自身が書き残した日記・回想・手紙をてがかりに、激動の時 代とかかわりつづけてきた彼女の足跡をたどり、ケーテ・コルヴィッツの生涯 をいまからわたしなりに綴ってみたい。作品を時代のなかに位置づけ、言葉で ケーテ・コルヴィッツの肖像を描いてみようと思う。 目 次 1 画家をめざして――自由の風 2 『織工たちの蜂起』――連なっていく記憶 3 『農民戦争』――主題と技法の追求 4 貧しい人びとの素描――表現主義運動の渦中で 5 ペーターの戦死――一九一四年十月 6 カール・リープクネヒト追憶像――悲しみの転換 7 ポスターの制作――「人民の代弁者」 8 木版画連作『戦争』――「苦しみは真暗闇だ」 9 国境を越えて――スメドレーと魯迅 10 記念碑〈父と母〉の像――平和の希求 11 最後の連作『死』――ナチス支配の時代 12 種を粉に挽いてはならない――孤独と希望と エピローグ 励まし――日本の人びとに Created by staff01 and Staff. Last modified on 2006-06-29 11:59:22 Copyright: Default |