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*レイバーネット日本・メーリングリストより

尼崎取材報告

 4月30日に尼崎(2005年4月25日午前9時20分、JR福知山線久々知で死 者107名、負傷460名を出した事件現場)に出かけてきましたので、その報告で す。長くなるので要旨だけ述べます。(それでも少し長文になってしまいました。取 材した話しを書き出せば本一冊分くらいになってしまうのでゴメンナサイ)

 尼崎に到着し、お亡くなりになられた方々、怪我をされた方々の悲痛な表情を見る につけ、JRという会社の在り方に改めて憤りを覚えました。しかし、今回の事件 は、単にJR西日本だけの問題では済まない非常に大きな根深いものをはらんでいる ように考えています。今日までの日本の政治、経済、文化…を掘り下げて、現代に生 きる私たち自身が日本の在り方と向き合わない限り、問題は再び起きると現地で痛感 して来ました。

元々の線路は真っすぐだった

 現地へ行ってわかったことは、福知山線の起源は1891年にまで遡りますが、昔 の福知山線・尼崎―塚口間の線路はほぼ1直線であり、その線路が産業構造の変化、 ベッドタウンの移り変わり等の影響を受け、1世紀かけて“曲がった線路”になった ことを知りました。電車はその場所で脱線したのです。真っ直ぐのままであれば、今 回のような脱線にはならなかったことでしょうが…。1997年にはJR東西線の開通 に合わせて、福知山線と東西線が相互乗り入れをする(尼崎駅で東西線が地上線から 地下鉄線に変わる)ため、より大きく線路がカーブするように作り直されています (詳しい説明は地図を見ながらでないと理解し難いので省きます。残念)。  尼崎という町は港町として繁栄したところ(尼崎港駅という駅が1984年まで存 在したが臨調行革の時代下に廃線)です。しかし、次第に重工業化し、労働者が増 え、公害訴訟問題で揺れ、やがて高度成長の終焉とともに人口が10万人も減少する など、時代を反映しながら移り変わりの激しい場所でもあったようです。尼崎の北側 には宝塚の鉱山もあり、かつては朝鮮人強制労働で多くの犠牲者が出て問題になった ところでもあります。

教育ではなく差別が蔓延

 注目となっている“日勤教育”ですが、国鉄分割民営化当時のいわゆる“人活セン ター方式”(事実上の見せしめ収容所)が踏襲されていると見てほぼ間違いないよう です。上司に反抗したという理由で69日間の“日勤教育”が課せられたという事件 (裁判で不当労働行為が認められています)もありました。裁判記録を読むと「お前 ら運転士、んふふ、よう知らんけど。知らんで。わしの機嫌をとった方が絶対ええっ て」「そんなに組合が大事なのか。それじゃ全部組合に助けてもらえ」などと発言し ていたことが掲載されています。JR西日本の井出取締役は、かつての国鉄分割民営 化推進の中心人物であり、国鉄改革に「高い評価をいただいていることはありがた い」などと公言していた人物であることもわかりました。組合差別が行われていると いう話しも複数の方から伺えました。“日勤教育”は安全教育の場ではなく、組合つ ぶしのための収容所、恐怖を梃子にしての労働者・職場支配の場となっていた可能性 が非常に濃厚です。

高速化と住宅問題

 スピード問題についてですが、JR西日本での最高速度(特急以外の営業運転)は 新快速の140キロで、JR東に比べて全体的に非常に高速運転であることが分かり ました。運転席の時速計も160キロまで出せるように設計されていました(JR東は 120キロ設計)。駅を通過するときも140キロのままでホームをすり抜け、減速 などしません。しかし、高速運転をするのは、単に私鉄との競合というだけの問題で はないようです。高速運転の背景には遠距離通勤という問題が隠れているようです。 かつて、大都市の繁華街に住んでいた人たちが、地価の高騰、賃金の低下などを背景 にして郊外にマイホームを求めて転居せざるを得なくなった。家計も苦しい労働者の 立場からすれば、郊外から、安く・早く職場に着きたいという願望も当然出てくるで しょう。そんな願望を背景にしながら、“多少の危険なら引き換えにしてもいい”と いうような風潮が生み出されたのではないかという印象を持ちました。JR西日本の坂 田代表取締役は「大阪は『巨大な田園都市』になるべき」と主張していましたし、福 知山線で快速運転が本格化したのは1997年頃からの出来事です。尼崎の北側に三 田市という所がありますが、この町は1996年まで人口増加率日本一を記録した ニュータウンで、福知山線はこの乗客を抱えていたのです。関西圏全体の総人口は特 段増加しているわけではありませんので、民営化下での競争は、小さなパイを巡って の収奪に収斂し、その結果がブレーキの利かないジェットコースター化を生み出した のではなかったのでしょうか。それにしても、いくら手早く通勤したいとはいえ、命 を落とす危険性がある電車などには乗りたくはないでしょう。電車の高速化は他にも 様々な悪循環を生み出したようです。車体を軽くすることも高速化のためだったよう ですし、その結果として脱線した電車は強度がなく、アルミ缶を足で踏み潰したよう にぺしゃんこになってしまったわけですから。

収益と配当と人件費

 JRは経営を立て直すために人員を削減してきたと言いますが、鉄道の安心・安全性 という信頼を根本から裏切る結果を生み出したことからしてどうなのでしょうか。国 鉄からJRに変わり、新規採用を10年近く控えたことで、現在の30〜40歳代の社 員が著しく減少し、業務の中心は学卒直後の20歳代の新人にかかり、責任が負い切 れない状況を作り出してしまったのではないでしょうか。その一方、JR発足時に不当 解雇された、職場に戻りたいと願っている元国鉄職員(技術を持った保線職の人間も 技術職の人間もいる)を採用しようとは決してしません。それでいて、来年度は新人 ばかり750名を採用すると発表している。これで安全が保てるのでしょうか。  JR西日本の経常利益は平成17年三月期連結決算で950億円あまりと、平成16 年より100億円ほど利益を伸ばしています。第17期の株主配当金は1株あたり4 000円を配当しています。それに比べて、今年の大卒初任給は17万6千円あまり となっています。このアンバランスはいったい何なのでしょうか。

背面監視も生きていた

 国鉄分割民営化の混乱期には職員を後ろから監視する“背面監視”というのが問題 視されていました。ところが、現在、JR西日本で似たような管理方法が実施されてい ることが新聞で明らかにされました。現場の社員はいつどこで監視されているのかと いう恐怖感を持ったのではないでしょうか。JR西日本の電車運転席の後ろには「運転 士○○○○」と個人名が張り出されています。何かあれば個人を特定しようとのこと かとは思いますが、現実には安全運転のためというより、制度上・組織上起きてし まった問題までをも個人の責任に転化してしまうものとして機能してきたのではと思 えてなりません。  私が尼崎駅に着いた時には、駅には各ホームに2名の警備員が配置されていまし た。耳にイヤホーンを付けて列車が来るたびに警備員は逐一無線で報告をしていまし た。  JR西日本ではなくJR東日本の話しですが、事件直後に若い社員を駅の改札前に立た せて「おはようございます。いってらっしゃいませ」と九十度頭をさげてのお辞儀を させ、それを上司らしき人物が隣で監視している(もちろん上司らしき人物は「おは ようございます」とは一言も言いません)という光景を眼にしました。しかし、その 駅のホームに社員は無人でした。これで何の安全が保てるのか?と皆さんはお思いに ならないでしょうか?監視というのは良いことではありませんが、建物の中からでて こないで、本末転倒を繰り返しているJRの上司群・経営陣については、利用者の立場 から点検していかなければ事は済まないのかもしれません。JRの経営陣にこそ透明化 が求められているのだと思います。   難題と変革への勇気

 公共性、安全性の回復をこれからどう図っていくのかという大きな問題が突きつけ られる形となりました。生存した方がいらっしゃったのが不思議なくらいに電車はグ シャグシャでした。民営化・自由競争という方向性が、会社を硬直化させ、現場で働 く労働者を萎縮させ、107名の命を奪い去ったわけです。イギリスの鉄道民営化も 同様の結果をもたらしています。世界規模で進んでいる“資本のグローバル化”は、 明らかに危険信号を点燈させています。この問題は決して1企業の個別の範疇で収ま るものではありませんが、1企業のひとりひとりが行動を起こさなければさらに深刻 さを増すことは目に見えています。日本においては、戦後から高度成長期からの産業 政策の根本的な見直しをする必要があるでしょうし、そうしなければ、働く人々の人 権を獲得することは難しいのではとさえ思えます。しかし、また、互いがお互いを支 え尊重し合うような社会は、私たちひとりひとりが声をあげない限り決して獲得でき ないものでもあると思います。最後に改めて、お亡くなりになられた方々のご無念を お察し申し上げます。(杜 海樹)


Created byStaff. Created on 2005-05-03 15:05:59 / Last modified on 2006-05-16 17:24:42 Copyright: Default

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