東京管理職ユニオン弾圧事件を追う | |
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●安田浩一の現場レポート−見せしめにされた東京管理職ユニオン リストラ・失業時代の予防弾圧 5月28日、全水道会館(東京都文京区)において『警察権力の労働組合への不当弾圧に抗議する集会』が開催された(写真下)。同集会は、先頃、警視庁による強制捜査を受けた東京管理職ユニオン(本部・新宿区)の呼びかけで行われたもの。労組関係者ら約100名が集まり、正当な組合活動に対する権力の介入を糾弾した。
このような権力の横暴を許しては、労働運動の明日はない──。 法で定められた団結権・争議権をも脅かす今回の弾圧に対して、徹底的に闘っていくことを表明し、集会は大いに盛り上がった。 ところで、東京管理職ユニオンへの「不当弾圧」は、いったいどのような経緯のもとで強行されたのか。筆者の取材を元に、ここに報告する。 * * * * 端緒となったのは、ソフト開発会社・レッドハット(東京都千代田区)における解雇問題である。 昨年12月、同社従業員A氏が「雇い止め解雇」を通告された。A氏はもともと、同社と業務委託契約を結んだ雇用関係にあったが、同年9月、「正社員にしてやるから3ヶ月間の労働契約に変更しろ」との会社側提案を受け、契約変更を行った。 ところが「正社員」の約束は会社側によって一方的に破棄され、契約期間満了にともなって雇用が打ち切られたのである。 そこでA氏は東京管理職ユニオンに相談。ユニオンに加入したうえで、団体交渉を同社に申し入れた。 ところが、会社はユニオンが提起した「解決案」(雇用継続、あるいは解決金による和解)を拒否。約束不履行という自らの不義をも認めることはなかった。 東京管理職ユニオン・設楽清嗣書記長が言う。 「団交において会社側は、不誠実な態度を貫き通した。社長はじめ、役員は誰も姿を見せず、弁護士一人のみが我々に対応した。挙げ句『解雇に問題はない。これ以上話し合う必要もない』と、一方的に団交拒否を通告。そこで我々は抗議行動を開始したのです」 今年1月16日、ユニオンメンバーは同社を訪問。居合わせた同社・平野正信社長に「話がしたい」と申し入れた。 問題の「事件」は、この場で発生する。 「突然の訪問が気に入らなかったのか、平野社長は激昂して我々に体当たりをしてきた。しかも自ら身体をぶつけておきながら『暴力行為だ!』と大騒ぎし、我々を社内から排除した」(設楽書記長) この間、わずかに2分程度である。仕方なくユニオンメンバーは社前での街宣行動に移行、チラシ配布を行った。ところが、今度は同社社員の一人が、その様子を写真撮影したことから、組合員が抗議。社員は慌てて逃走したが、その際に階段で転倒し、軽い傷を負った。 実は、これら一連の出来事が後に「建造物侵入、暴行・傷害」に問われたのである。 設楽書記長が続ける。 「まさか、この程度のことで刑事告発されるとは思ってもみなかった。『暴行』を働いたのは平野社長の側であり、社員の一人が軽傷を負ったのも、自分で勝手に転倒したもの。さらに、話し合いの申し入れは正当な組合活動として法によって認められている。これを『建造物侵入』というのであれば、組合活動などできなくなるではないか」 公安警察お得意の「転び公妨」にも似た同社の対応から、事前に警察権力との「打ち合わせ」があったことは、容易に想像できよう。 そして5月11日、「家宅捜索令状」を持った公安警察は、東京管理職ユニオンを急襲した。 同日早朝、まずは設楽書記長の自宅が、警視庁万世橋署の捜査員6人によって家宅捜索された。 捜査員らは1時間にわたって、書棚を中心に捜索。手帳、アドレス帳など6点を押収した。 その1時間後、ユニオン事務所には、警視庁公安二課が踏み込んだ。動員された捜査員は、実に24名。各組合員のデスクから資料棚、パソコンデータまで洗いざらい調べ上げ、なんと86点もの物品を押収。 さらに、事務所と同じフロアにある安部誠行政書士事務所にも押し入り、名刺や各種書類など22点を持ち帰った。 他にも当該組合員A氏の自宅が万世橋署によって捜索され、やはりパソコンなど12点が押収されている。 レッドハットの「約束不履行」に端を発した労働争議は、「大捕物」さながらの不当ガサへと発展したのである。 しかも押収された物品のほとんどは、今回の「事件」とはまったく関係のないもの。名簿類や名刺、金銭出納簿、さらには別団体である「ネットワークユニオン東京」や「失業者ユニオン」の関係書類まで持ち去られているのだ。 「公安の意図するところは明白だ。管理職ユニオンの活動実態把握を目的に、資料を強奪していったわけですよ。同時に、労働運動全体に対する圧力を加えたつもりでいるのでしょう」(設楽書記長) 捜査案件と無関係の物品に手をつけることは、刑事訴訟法の範囲を大きく逸脱した行為である。そもそも、争議行為を「面会強要」のごとく捉えることじたい、憲法で守られた労働者の権利を侵害したものだ。 今回の強制捜査が「恣意的」に行われたことは疑う余地もない。 実は、万世橋署管内において、東京管理職ユニオンは、レッドハット以外にも2件の争議案件を抱えている。こうしたことから、同署はユニオンを監視対象としてマークする一方、介入の口実を考えていたことは間違いなかろう。 筆者は「不当ガサ」の真意を聞くべく万世橋署を直撃した。 ところが、応対した石若純一副署長(今年2月まで警視庁公安部に所属)は、「答える必要はない」と逃げの一手。広報担当者でありながら、捜査概要すら答えなかった。 また、レッドハットも筆者の取材に対しては「回答拒否」を通している。担当者が「争議の件は当局にお任せしている」と繰り返すばかりで、「被害者」としての主張は何一つ聞き出すことができなかった。 筆者の知人である全国紙の警視庁担当記者は次のように話す。 「公安二課はおそらく、弾圧の機会を狙っていたのでしょう。同課は労働運動と革マル派を担当しているのですが、最近は『事件』が少ないために、上層部からの風当たりが強かった。つまり、何らかの『事件』を必要としていたことは確かです。そこで、マスコミでの知名度も高い管理職ユニオンを狙い撃ちすることで、自らの存在証明を示したかったのではないか。言うなれば『ポイント稼ぎ』ですよ」 背景の一つに、このような事情が存在するのであれば噴飯モノである。しかし、あながち的外れな指摘とは言えまい。 筆者はこれまでに「警察不祥事」を数多く取材してきたが、「事件をつくりあげる」体質は、イヤというほど目にしている。同時に、自らの失態や過ちは、徹底的に隠蔽する組織であることは、もはや世間的にも明らかとなっていよう。 また、こうした「濫用捜査」の真の目的がどこにあるのか、危機感をもって見極めることも必要だ。 設楽書記長が話す。 「小泉内閣の誕生によって『ガマンと負担』の強要が進行している。いずれ、労働者の大きな抵抗と反乱を招くことは間違いない。今回の弾圧は、予測される労働側の反撃を未然に防ぐことを、はっきりと意図したものなのでしょう。特に失業の受け皿として機能している個人加盟労組が闘いの主体となることを怖れ、あえて管理職ユニオンを狙い撃ちしたのだとも考えられます」 かつて日経連の機関誌『経営者』(97年3月号)は東京管理職ユニオンに対して、次のように記している。 「東京管理職ユニオンは、個人加盟の典型的な合同労組。(中略)抗議行動では対象企業付近の路上でのビラまき、営業妨害的な行動など、ヤクザ的、暴力団的行動も見られる。解決金も相当な額にのぼるという。企業としては、毅然とした対応が必要である」 まるで今回の事件を「予見」したかのような見解ではないか。 資本・権力がこのような認識を改めない限り、さらなる弾圧をも招きかねない。 事実、5月11日の家宅捜索以降、いよいよ設楽書記長はじめ組合員への事情聴取も開始されている。 今、労働運動の側に求められているのは、それこそ「毅然とした対応」であり、徹底した反撃である。 東京管理職ユニオンは今後も、警察権力に対しての抗議行動を続けていくという。「不当弾圧を許さない」の一点で連帯し、労働運動の底力を見せつけよう。 「でっち上げ」をこのまま許してしまえば、次は私たちが狙われるだけである。 ジャーナリスト・安田浩一 (なお本記事は、「労働情報」(576号)記事を元に加筆修正したものである)
Created byStaff. Created on 2001-05-31 01:51:47 / Last modified on 2005-09-05 02:58:10 Copyright: Default |