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スティーブ・ゼルツァー(Steve Zeltzer)氏の講演要約

(1)本人経歴紹介

1983年 労働運動関連番組を制作開始
1987年 労働運動系放送局を結成 〜現在ではアメリカに50もの労働系テレビ・ラジオ局がある
1990年 労働者教育を目的とした「レイバーテック」発足に関わる 〜現在までにサンフランシスコ・ソウル・モスクワ・バンクーバーなど各地で大会
1991年 進歩的通信(APC)と協力して、インターネット上の労働運動サイトとして「レイバーネット(USA)」発足に尽力
現在は、ネット上の「レイバービデオ」放映や「レイバーフェスト」文化活動など、多岐にわたる労働運動支援活動を展開中


(2)最近10年間のアメリカ社会政治状況

○IT化と企業権力の膨張
 1990年代初頭以降、情報通信産業に群がる投機資本がバブル経済をもたらした。それとともに、19世紀末のあのロックフェラー・カーネギー独占資本時代から比較しても、今日では更に一層、巨大企業の影響力が強まっている。IT産業やフェデラル・エクスプレスなど民営化で利益を得た企業の中には、無組合企業(注:労働組合が認められていない野蛮な企業)が存在する。

○新自由主義政治の横行
 二大政党は90年代、規制緩和・民営化・行財政改革路線(注:いわゆる新自由主義改革)を追求し、同時に労働組合への攻撃を強めてきた。民主党も同様であり、アル・ゴア(注:クリントン政権副大統領、2000年大統領選挙民主党候補)も選挙前に公務員削減(30万人解雇)を自慢したり、郵政民営化を提案していた。

○結果としての労働生活条件悪化と巨大な格差
 以上のような、ITを中心とした企業権力膨張と二大政党による新自由主義政治によって、労働者の賃金その他の労働条件は全般的に切り縮められるとともに、貧富の格差が劇的に拡大した。


(3)アメリカ労働運動と自主メディアの今日

○労働運動の変化
 当初、アメリカの労働運動はこうした企業・政治の攻勢に対して、有効な反撃ができないでいた。しかし最近では再生の兆しもみえる。例えば、1999年シアトルWTO闘争(注:自由通商・規制緩和のグローバル化をめざす先進国政府=多国籍企業権力に対する異議申立て)には、労働組合員や環境団体・女性団体など多様な社会運動が数万人規模で結集した。こうした社会運動の昂揚は、アメリカでは1960年代の公民権運動以来である。

○レイバー・ネットワークの時代へ
 WTO闘争の時には、インターネットが運動団体によって広範に用いられ、多くの労働・市民運動系の自主メディアがつくられ、そうしたネット上で流される運動の情報に、500万人以上の人々がアクセスした。第一に、ストリーミング(WEB上でのビデオ画像放映)という技術が、運動を世界中に伝える上で重要である。第二に、とりわけ自主独立メディアの重要性が高まっている。こうした労働・市民運動側による自主放送局は、民主党大会や各国でのWTO会議の際の、社会的に公正な報道にとって欠かせないものとなりつつある。なお、日本では商業メディアの独占が強すぎるように思われる。24時間レイバーWEBラジオ局(http://www.indybay.com)の世界展開にも協力してほしい。


(4)質疑応答より

○労働組合の現状について
 AFL-CIO(注:アメリカの労働組合全国センター「労働総同盟産別会議」)の新会長ジョン・スウィーニー(注:元サービス労働者統一労組委員長、1995年に既存の保守的路線の行き詰まりを批判する潮流の代表としてAFL-CIO会長に選出された)の時代になって、女性・マイノリティ・未組織労働者への積極的な組織化が展開され、労働運動も活性化している面はある。しかし問題がないわけではない。建設大工労組などは、会社経営側と癒着するために、AFL-CIOから脱退した。こうした右派的組合は、関連産業労組や当該組合員とも軋轢を起こしている。もっともユナイテッドなど航空産業の機械工労組は、左傾化したがゆえにAFL-CIOを脱退した例である。すなわち、経営側と癒着した機械工組合IMU(AFL-CIO加盟労組)から脱退して、独自の航空機械整備工労組AMFAを組織した。
 アメリカ労働組合運動が抱える問題の第一は、組織化が進む一方で、官僚的な幹部と末端組合員とが遊離していることである。その結果、一般組合員の声が反映しづらく、ビジネスユニオン(注:自分たちの狭義の経済要求を超えた、労働者としてのより普遍的な社会的・政治的要求については取りあげないという意味で、保守的な組合のこと)の枠組みを出ていない点である。第二の問題は、労働法制に問題があり、それはレイオフの強行が容認されていることである。その結果、毎年13000人の労働者が、実際には労働組合を組織しようとしたがゆえに解雇されている。しかしこれらの点を改善することができれば、労働組合は非常に強力なパワーを持っているはずである。

○政治的対抗について
 共和党ブッシュ政権は労働運動に敵対的であり、労働運動を力で抑えようとしている。たとえば、労働エルゴノミクス基準規制の撤廃を打ち出している。さすがにAFL-CIOは、反ブッシュの姿勢である。しかしAFL-CIO(幹部方針)の多くは、民主党を支持している。しかし民主党は労働者を守ろうとはしていない。
 他方で、1996年に結成されたアメリカ労働党にも勢いがない。労働党には当初、港湾・石油化学・看護婦など広範な労働組合員20000人が結集し、45都市で支部も結成されたが、ふたつの要因によって低迷している。第一に、幹部層(AFL-CIO上層部も含む)による民主党候補への配慮から、選挙の際に労働党候補を出していないことである。第二に、同じく民主党の政策を批判することになるのを恐れて、政策を曖昧にしていることである。例えば、2000年大統領選挙でも、規制緩和批判やリヴィング・ウェイジ(注:「生活賃金」と訳されることもあるが、日本語の生活給とは全く異なり、地域的な最低賃金条例のことをいう)の要求などを引っ込めてしまった。こうした要因によって労働者たちが失望してしまっているのだが、潜在的な労働党への期待は高い。ちゃんと候補者を出して、事なかれ主義をやめるべきだ。

○日本のレイバーネットに望むこと
 レイバーネット日本の人々はたいへん頑張っていると思う。労働運動の現場の報道についても、国労闘争など先進的な試みがされており、会員制などについてはアメリカでも参考にさせていただきたい。さしあたり現在は日本語のみのサイトなので、英語情報を充実させることで、世界にも情報発信してほしい。また、ケン・ローチ映画上映会など、自主的な文化活動についても提案したい。


by JNK(首都圏青年ユニオン組合員)

*写真は4月15日の例会の様子


Created byStaff. Created on 2001-04-16 14:32:46 / Last modified on 2005-09-05 02:58:07 Copyright: Default


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