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郵政首切り20年・名古屋哲一の月刊エッセイ

 あなたならどうする−薬害を告発した人たち

 もしもあなたが郵便局の保険外務員だとして、課長から「もっぱら〇〇保険を客に奨めろ」と強いられたとしたら、どうするだろう? 簡易保険の種類は何十種類もあるとのことだが、利用者各個のニーズに合わせるのではなく、当局のご都合や儲け主義で決められた〇〇保険を押しつけねばならないのだとしたら・・・99年には、生存保険金付き簡易保険が、払込み額を下回る受取り額と判明、マスコミ報道された。詐欺同然だ。

 「民営化を阻止するために儲けを捻出せねば」と当局はのたまい、庶民のための公共性を踏みしだく儲け主義にのめり込み、そして結果、民営化への流れに加担する。真の公共性の実現が、本物の儲け主義である民営化を阻止する鍵であるにもかかわらず、官僚の利権主義を守るためだけの「民営化阻止」は、利用者・庶民のなかに「公営(実態は官営)」への不信と怒りを培う。

 もしもあなたが郵便貯金の外務員だとしたら? もしもあなたが郵便労働者だったとしたら? どんどんと「粗悪商品(強制配転による誤配達等々も含めて)」が増えている今日、どうするだろう? もしもあなたが製薬企業の社員で、発癌性のある新薬を売りだせと会社から強いられたら、どうするだろう?   

 大鵬薬品労働組合の元執行委員長で徳島全労協の議長でもある北野静雄さんが、今年3月25日、郵政全国職場交流会で講演をしてくれた。数年前、4・28行脚で四国へ行ったとき、ピースサイクル等での広島と大阪の郵政の仲間3人と共に、目茶苦茶にお世話になってしまった人だ。

 「企業の論理や攻撃は、第三者が内部告発者の勇気に拍手を送るほど、甘くはありません」。薬害を未然に防いだ彼は、製薬企業の研究員。

 征露丸でお馴染みの大鵬薬品工業は、ボンカレー等の大塚グループの一員で、年間売上げ900億円。長時間・低賃金・サービス残業の強制・社員寮の監視・労組結成への動きには配転や解雇等といった体質で大儲けをしていた。

 1981年、ダニロン(慢性間接リウマチ等の薬)のデータ隠し事件が起こる。発癌性を示す社内でのマウス臨床試験を隠して、厚生省へ新薬申請。厚生省の薬事審議会は、少し薬学を知っていれば見抜けるはずなのに、あっさりとパスさせた。多くの良心的研究員が退社するなか、2つのグループが結成された。社長への集団直訴グループは、「社長は既に危険性を知っていて黙認の可能性」と、直訴直前に解散してしまった。ここの主力メンバーは、後に組合潰しの先頭に立つことになる。もう一つのグループが北野さんたちで、81年10月、2400人社員中80人での労組結成だった。第2のダニロンも防がねばならないし、もの言える職場にもしたい、長い討論の末での結論だった。

 大きく新聞報道される中でも組合弾圧は凄まじく、組合員は一挙に7人へ減る。ビラ配布に対する暴力、毎年の昇給差別、職務変更、隔離勤務等々、労働委員会や裁判所での係争は25件にわたった。職場で20人程に取り囲まれても、北野さんはこれを逆手に取り大声で抗議の連日、職制は苦虫を潰した。

 他方で、労基法違反的な問題は徐々に改善され、勝利命令がだされだし、また「大鵬薬品労組を支援する会」が徳島で、一年後には関西でも結成された。薬害・医療被害者の団体や消費者運動グループとのつながり、国連諮問機関の国際消費者機構会長が来日し会社へ申入れ、厚生省との定期的交渉(現在まで20年間に及ぶ)、東京総行動での本社攻めや支店要請行動や駅情宣等々。ある薬害被害者の言葉、「製薬企業の労組は敵だった。門前座込みで、率先してごぼう抜きをしたのは労組員だった。しかるに、あなたがたは・・・」。

 80年代後半、ついに会社はダニロン錠の販売を断念。83年のマイルーラ事件(大鵬薬品の女性膣用避妊薬)への取組みも含め、社会的にも多くの成果を勝ち取った(82年医薬品の安全性試験実施規範の1年早期実施、84年発癌性試験の義務化〜92年新薬データ公開の方針等々)。

 大鵬薬品創立30周年記念行事を91年に東京で大々的に行なうという会社へ、組合は「争議解決をしなければ行事を潰す」と宣言。1000人集会実現へ向け1年前から東京へ常駐、支援要請に走り回った。今まですべて門前払いだった会社も交渉に応じ、そして91年、謝罪と解決金を含む組合全面勝利の和解協定が成立した。11年間の闘いは、自社製品についても組合と話合いの場をもつという画期的協定を生みだした。

 「内部告発をやるのは労組ではない」と加盟上部組合から切られ、次の加盟組合からも切られながらも、頑張った7人。見合いが潰れたり泣いたり「辞めるときは一緒に辞めよう、それまでは」と支えあったりで歩んできた組合員は、皆強くなった。今大鵬薬品労組は29人へ拡大、地域の労働相談にも取組む。闘いの途中寝返りをした者は、今、会社からも信頼されない。11年間も職場八分が支配した職場は、今、会社に言いたいことがあると組合へ相談にくるという。HIV訴訟など薬害被害が途絶えることのない現在、そして、利用者無視の儲け主義に走る郵政事業という現在・・・あなたならどうする?

2001年6月 名古屋哲一(四・二八免職者)

郵政九州労組・郵政近畿労組大阪北「機関紙6月号」掲載

*タイトルはレイバーネット編集部


Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:41:15 / Last modified on 2005-09-29 06:44:53 Copyright: Default

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