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LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋・第145回
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●長谷川三郎監督『ニッポンの嘘』
社会の歪みと矛盾を抉り出す―90歳報道写真家・福島菊次郎

 このところ、「死刑弁護人」と呼ばれる弁護士の安田好弘、絵本画家のいわさきちひろなど一つの仕事に命をかけた人物の生き方に光をあてた映画を紹介してきた。ここでもう一人、報道写真家の福島菊次郎のドキュメンタリーを紹介したい。

 長谷川三郎監督の『ニッポンの嘘』がそれだ。福島は戦後、多くの雑誌などのグラビアを飾った“伝説”の写真家。なかでも安保や学生運動、公害問題や放射能の悲惨等々、1960年代かち70年代の政治の激動期にもっとも活躍した。その彼は、90歳というのにカクシャクとしていて、トップシーンの「さようなら原発」6万人集会では、デモの前に突っ立ったり座り込んだり、警官たちを至近距離から撮ったりと、職業意識に徹して機敏に動き回っている。またフォトジャーナリスト学校では、若い世代に訥々(とつとつ)と講義している。そんな姿を見ると、いまだに現役なんだと悟らされる。

 映画は、そこから写真家・福島の出発点にさかのぼる。彼はヒロシマの被爆者を10年かけて撮った古い写真集『ピカドン―ある原爆被災者の記録』を取り出し、その時の記憶をたどる。カメラを介して被爆者に迫っていく執念に圧倒される。被爆者が苦痛に耐えるために自らの内股をカミソリで刻んだ無数の傷跡のアップ写真には、原爆症の苦しみがいかばかりだったか、言葉が見つからない。

これをきっかけに、福島は日本社会の矛盾の渦中にとびこみ、国家が隠蔽しようとする数々の出来事を表に引っぱりだす。特に、強制代執行に命がけで抵抗する三里塚農民の陰影にとんだ写真の一枚一枚に観客は衝撃をうけよう。

 ヒロシマからフクシマへ―1本の線のように連なっていく日本。映画が繰り出す写真によって、もうひとつの歴史が浮かび上がってくる。と同時に、反骨にとんだ福島の生き方もあぶりだされてくる。

 一日千円で愛犬とくらす彼の個人史の中では、無人島で愛する女性と過ごした哀切なエピソードが心に残る。

(木下昌明/『サンデー毎日』2012年8月12日号)

*東京・銀座シネパトス他でロードショー中。写真 (c)2012『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』製作委員会


Created bystaff01. Created on 2012-08-07 10:54:33 / Last modified on 2012-08-07 11:10:15 Copyright: Default

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