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●映画「キャタピラー」
「英雄」はおらず「大義」もない 戦争を描くと映画はこうなる

 日本の戦争映画で、これまで傷痍軍人をテーマにした映画はあっただろうか。寡聞にして知らない。わずかに大島渚のTVドキュメント「忘れられた皇軍」が浮かぶぐらいだ。白衣に黒眼鏡の元兵士が半裸になり眼鏡を外すと片腕がなく、両目に目玉がない。その目玉のない目から涙を流すシーンが印象に残っている。

 また映画ではないが、日中戦争時に作られた「万歳とあげて行った手を大陸において来た」や「手と足をもいだ丸太にしてかへし」などの川柳が浮かぶ。これは鶴彬という青年の作品で、彼は29歳の若さで獄死している。もう一つ、江戸川乱歩の短編小説に「芋虫」がある。これも戦争中に発禁処分となっている。

 敗戦の日の8月15日に向けて、川柳と小説を彷彿させる映画が公開される。主演の寺島しのぶが体当たり演技でベルリン国際映画祭最優秀女優賞をとったこともあり、公開前から話題を呼んでいる。

 映画は日中戦争のさなか、村に傷痍軍人が帰還してくるシーンからはじまる。その夫の姿を妻の寺島が驚愕の表情でみつめる。彼は四肢をもがれ、顔の半分が焼けただれ、耳は聞こえず口もきけず、異形の姿で床柱によりかかっている。村人はこの生ける死者を「生ける軍神」と崇めたててやまない。壁には天皇皇后の肖像写真とともに軍神をたたえる新聞と勲章が飾られている。夫は寝かされたまま、そこに自らの狢減濂礎有瓩魍里めようと、すがるようにして見入っているが、やがて食欲と性欲の餓鬼に堕していく。

 が、昔のように妻を暴力支配していた手足はなく、逆に妻に叩かれ責められ、立場が転倒していく。それによって彼の脳裏に大陸でふるまった非道の数々が蘇ってくる。

 戦争シーンは型通りながら、傷痍軍人を、戦争の犠牲者だけでなく加害者でもあった二重の姿としてあぶり出してみせる─これが日本人の姿なのだ、と。 (木下昌明/「サンデー毎日」2010年8月22・29日号)

*映画「キャタピラー」(若松孝二監督)は8月14日から東京・新宿のテアトル新宿ほかで公開

<付記>
この映画は、細部においていろいろ不満があるーーしかし、倒れないように(赤ん坊を入れる大きめの)つづらに入れ、「軍神」をリヤカーに乗せて村をまわる発想は秀逸である。人々やうやうやしく頭をたれるが、同時に無残な姿をさらすことで人々は「聖戦」の残酷さを目撃することになるからだ。(木下)


Created bystaff01. Created on 2010-08-21 20:03:20 / Last modified on 2010-08-21 20:09:08 Copyright: Default

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