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第6回・「バラ色の未来」を予言する総務省、テレビ業界の大罪

 2011年7月の地上波テレビ全面デジタル化まで1年に迫った。地上波デジタル受信機の普及率は2007年5月の段階では27.8%(注1)、2009年5月の段階でも60.7%(注2)という調査結果が示されている。現在ではもう少しアップしていると考えられるが、それでも7割程度と想定される中で、総務省は何がなんでも2011年7月限りでアナログ放送を打ち切る方針を捨てていないようだ。

 しかし、地上波テレビの全面デジタル化は総務省が言うほどバラ色の未来なのか。それ以前に、総務省の説明は事実なのか。強制デジタル化への反発も広がる今、まずこの点を明らかにすることから始めなければならない。

●高品質と言うけれど

総務省は、「多様なサービスを実現」として、次のようにのたまう。「地上デジタルテレビ放送では、デジタルハイビジョンの高画質・高音質番組に加えて、双方向サービス、高齢者や障害のある方にやさしいサービス、暮らしに役立つ地域情報などが提供されています。」

 しかし、高画質・高音質をいったいどれだけの人が望んでいるのだろうか。家電業界は、デジタル液晶テレビと併せて、ビデオデッキ・DVDプレーヤーからブルーレイレコーダーへの買い換え需要を煽っているが、依然として2割の世帯がいまだにVHSビデオデッキを使用しているという調査結果もある。業界が思っているほど、国民は高品質を望んでいないのだ。

●「チャンネルが増える」は大嘘

 総務省は、「電波の有効利用」として、次のように言い訳をする。「電波は、もう、目いっぱい使われています。通信や放送などに使える電波は無限ではなく、ある一定の周波数に限られています。現在の日本では、使用できる周波数に余裕がなく過密に使用されています。デジタル化すればチャンネルに余裕ができます。デジタルテレビ放送では大幅にチャンネルを減らすことができます。空いた周波数を他の用途への有効利用が可能になります。」

 地上波デジタルテレビは、1チャンネルを13のセグメント(断片)に分割し、そのうち1セグメントを携帯電話などの移動体通信向け「ワンセグ」放送に充てている(1セグメントを占有するからワンセグと呼ばれる)。残りの12セグメントが地上波テレビ向けということになるが、従来のアナログ品質のテレビ放送は、4セグメントしか占有しないから、12セグメントあれば同時に3つの番組を放送することができる。そして、1チャンネルの中で3番組を同時放送し、その分空いたチャンネルを返上させれば、なるほど総務省の言うようにチャンネル数は増える。

 しかし、現実は総務省の説明通りに動いていない。なぜなら、ほぼすべてのチャンネルがハイビジョンでの放送となっているからである。ハイビジョンは、高品質であるためデータ量が多く、1番組で12セグメントのすべてを占有する。つまり、1チャンネルで1番組しか放送できないのである。

 アナログ画質のままなら1チャンネルで3番組を同時放送できたところが、実際には空くはずだった8セグメント分はハイビジョンへの品質アップのため吸い取られ、チャンネル数は増えなかった。にもかかわらず総務省は、大半の国民が技術的に無知なのをいいことに、「デジタルテレビ放送では大幅にチャンネルを減らすことができます」などと嘘をつき続けてきたのである。

 こうなると、「電波は、もう、目いっぱい使われています」というそもそもの前提条件すら怪しくなってくる。「地デジ化でチャンネルを増やす」といいながら、高品質化によって地デジのチャンネル数は増やさなかったばかりか、従来のアナログ放送まで並行して放送できるのだから、日本の電波にはよほど余裕があるのだろう。

●地デジ化で2%の国民が「テレビを棄てる」

 上記の調査結果は、総務省の強引な地デジ化「ごり押し」にもかかわらず、多くの国民が未だに対応受信機を準備できてないことを示すものとしてじゅうぶんに衝撃的だと思うが、さらに衝撃的な調査結果がある。インターネットコムとgooリサーチが2007年9月に共同で行った調査によれば、2011年7月の全面地デジ化以降、2.5%に当たる人々が「テレビを見るのをやめる」と回答したのだ(注3)。この調査は、20〜60歳代を対象にしたもので、両社は年代ごとの回答比率を明らかにしていないが、常識的に考えて、「見るのをやめる」と回答したのは若者ほど多く、高齢者ほど少ないと想像できる。

 みずからの意思でテレビを棄てる人の他、経済的理由で対応受信機を準備できない人がいることも考え合わせると、最悪の場合、5%(国民の20人に1人)程度の日本国民が、全面地デジ化以降テレビを見られないという事態も現実になりかねない。  そうなった場合、最も困るのは各テレビ局だ。5%もの国民がテレビを見られなくなれば、これまでCMを出してきたスポンサー企業の中には、「広告を出すだけのメリットがない」として撤退する動きも出るだろう。そうなれば、広告収入だけで食べてきた民放各局は、直接経営にダメージを受けることになる。ゆくゆくは、CS放送(衛星放送の一種)がそうであるように、見たい人は金を払って契約するという有料放送へと移行せざるを得なくなる。やがてすべてのテレビ放送は有料となるに違いない。

●テレビなんて、棄てちまえ

 2005年の小泉「郵政」選挙のバカ騒ぎの中で、テレビが小泉−竹中路線を天まで持ち上げ、国民に対して自由競争と自己責任を説いて回ったことを、当コラム筆者は今も根に持っている。そもそも、テレビを初めとするマスコミは、総務省の規制に守られ、何十年間、新規参入もなく過ごしてきたではないか。自分たちは競争もせず安全な場所に身を置きながら、国民に対してだけ自由競争と自己責任を説くのはご都合主義もいいところだ。今頃になってテレビはワープアがどうのなどと言っているが、この格差社会を生み出した責任の一端はマスコミにもある。

 俗悪なバラエティ番組を朝から晩まで垂れ流し、日本国民を「一億総低脳化」させているテレビなど、いっそ国民こぞって棄ててみたらどうか。敗戦まで日本国民は、テレビなど知らずに生活していたのだ。1ヶ月もすれば、たいていの人はこんな物、なくても別に困らないと思うだろうし、人によっては、なくなってかえって健康的な生活ができるようになったとさえ思うだろう。

 みんながテレビを見るのをやめれば、スポンサーが撤退して俗悪番組を垂れ流していた局は経営が成り立たなくなり、淘汰される。俗悪番組から解放された国民は、今までより生産的な活動に時間を振り向けることができるようになる。テレビに影響力がないとなると、タレントの集票力を当てにしていた政治がテレビ界と一定の距離を置くようになり、森田健作や橋下徹のように社会に害悪をもたらすだけのタレント政治家もいなくなる。

…なんだかいいことずくめじゃないか。今こそ当コラムは訴えよう。「青年はテレビを棄て、街に出でよ!」と。

注1)http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070507/soumu.htm
注2)http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090508_168184.html
注3)http://japan.internet.com/research/20070911/1.html
 (黒鉄好・2010年7月4日、文中敬称略)


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